2・狙撃失敗注意
脱獄した04号囚人を確保すべく、コプチェフとボリスはトラップをしかけることにした。
「あの崖を迂回してこの辺にたどり着くには、少し時間がかかるはずだ。
この道を行けば先回りできる。
お前等は、この場所にガラクタ積み上げて奴らの車を止めてくれ。
あいつらの足が止まれば、ボリスが簡単にカタつけてくれるぜ。」
地図を見ながらコプチェフにそう説明され、カンシュコフ達は慌ててトラックにドラム缶や木箱などのガラクタを詰め込み始めた。
その後、道と言うには舗装もされておらず、ほとんど獣道のような場所をコプチェフ運転のラーダカスタムを追って懸命にトラックを走らせる。
そして、命じられるままにガラクタでバリケードを築いた。
「ご苦労さん、次はタンクコフの迷彩使用時の店舗の準備をしておいてくれ。
それを使用する前に確保したいところだが、念のためだ。
ガレージにいる整備士のおっちゃん達に聞いてくれれば分かるはずだからさ。」
カンシュコフ達はコプチェフの言葉に従い、ミリツィアに引き返していった。
「同期とはいえ、内勤の奴らとはあんま話したことなかったな。」
カンシュコフ達を見送りながら、コプチェフが今更ながらに呟いた。
「あいつら、真っ青な顔してた。
内勤の奴にも恐れられてるって…イリヤ先輩、どんだけミリツィアの実力者なんだ。」
ボリスもブルリと身を震わせて呟いた。
「ま、ここで終わらせられんだろ。
構うことはねえ、04号囚人の眉間にでも撃ち込んでやれ。
噂通りのバケモンなら、死なねえだろ。
ちと動けなくしてやるだけだ。」
コプチェフが笑いながら言うと
「まかせとけって。」
ボリスは不敵な笑顔を見せた。
山中から山道に設置されたガラクタバリケードを双眼鏡で伺っていると、程なくモスクビッチがその前に現れた。
「来た来た、やっぱ迂回に時間がかかったんだな。」
コプチェフは双眼鏡で様子を伺いながらそう口にする。
モスクビッチが崖を越えて来た事は、2人には知る由もなかった。
ガラクタバリケードに道を遮られ、モスクビッチは停止した。
ボリスは隠れ場所の自分達のラーダカスタムの上に上がり、ライフルのスコープでそれを確認する。
運転していたのは04号囚人ではなかった。
運転手は窓の外から辺りを見渡し、ガラクタを前にどうしたものかと思案している。
人の良さそうな大きな瞳の、おっとりとした顔の青年だ。
前髪を頭の上で結っているのが特徴的だった。
「あいつは違うな、541号囚人だろう。
主犯は04号囚人だ、奴を狙え。」
双眼鏡で相手を確認しながらのコプチェフの囁きに
「了解。」
ボリスも囁きで答える。
ボリスはライフルのスコープ越しに、更に注意深くモスクビッチの様子を伺った。
モスクビッチの後部席に仰向けに寝ころびながら、足を組んで雑誌を読みふけっている者がいる。
スコープの倍率を上げて確認すると、雑誌で隠れている顔の辺りに特徴的なピンクブロンドの髪がチラリと見えた。
「見つけた、あいつが04号囚人だ。」
ボリスはラーダカスタムの屋根に銃身を置くと慎重に相手を見据え、狙いを定める。
それは雑誌に隠れている04号囚人の眉間を正確に捕らえていた。
バンッ!!
鋭い発射音とともに、弾丸がモスクビッチめがけて飛んで行く。
ライフルを撃った反動でラーダカスタムが軽く揺れた。
双眼鏡で様子を伺っていたコプチェフの目に、雑誌を貫いて弾丸が04号囚人の眉間に吸い込まれるのが確認される。
「命中、ドンピシャだぜ、さすが4年連続首位者!」
コプチェフの勝利の言葉に、ボリスも嬉しそうな笑みをこぼした。
「さすがに暫く動けないだろうから、今のうちに確保しようぜ。」
そう言って笑いあう2人の目に、あり得ない光景が飛び込んでくる。
眉間にライフルの弾丸をめり込ませたまま、04号囚人が歩いて車を降りたのだ。
「なっ!?」
呆然とする2人をよそに、04号囚人は読んでいた雑誌を広げ、何かを確認している。
大切な雑誌に穴を空けられたと判明すると、その顔色が変わった。
ポンッ!!
双眼鏡越しに見ているはずなのに、そんなコミカルな音が聞こえた気がするほど呆気なく、04号囚人の眉間に刺さっていた弾丸が弾け飛んだ。
「!?あいつの頭蓋骨、どうなってんだ?」
自分達の見ている光景のあまりの非常識ぶりに、コプチェフとボリスの思考は停止してしまった。
その一瞬の空白をつくかのように、04号囚人が怒りにまかせて辺りのガラクタを2人に向かって投げつけてくる。
コプチェフが我に返るのと、その体に04号囚人が投げたドラム缶が直撃するのはほとんど同時であった。
為す術もなく、コプチェフはその一撃によって後方に吹っ飛ばされる。
「コプチェフ!!」
悲鳴を上げるボリスにも、04号囚人が投擲(とうてき)してくる飛来物が襲いかかってきた。
「くそっ!」
ボリスはその飛来物を正確な腕と早さをもって、ライフルで撃ち落としていく。
いくつもの飛来物の中から、自分に直撃しそうな物を優先的に撃ち落とす。
それは、もの凄い集中力を要する行為であった。
これが射撃大会の競技種目であったなら、間違いなく首位入賞の腕を見せていた。
『投げるガラクタが尽きた時、お前の幸運も尽きる!』
コプチェフを襲われた怒りでいつも以上の能力を発揮しているボリスの目に、あり得ない飛来物が映る。
「いっ!?」
それは、04号囚人が乗っていたモスクビッチであった。
あろうことか、運転席には541号囚人が乗ったままになっている。
動揺しまくっている541号囚人の顔を見れば、それは計画に基づいた行為では無い、行き当たりばったりの行動であることが伺えた。
『車投げてくるって、ムチャクチャだ!』
それはボリスのライフルでは、撃墜しようの無いものであった。
『投げられる』という車体に無理な負荷をかけられたモスクビッチは、そのまま爆発四散する。
ボリスはその爆風にあおられ、今まで潜んでいた山中から車道に叩きつけられた。
モスクビッチに乗っていた541号囚人も、ボリスの側に吹き飛ばされてきた。
薄れゆく意識の中で、541号囚人がモスクビッチの残骸をかき集め、動ける状態にまで修理している光景がボンヤリと見える。
『くそっ、このままじゃ、また逃げられる』
そう思うものの、ボリスの意識は闇に落ちていった。
頬に当たる冷たい感触で、ボリスの意識が覚醒する。
目を開けたボリスが最初に見た物は、自分をのぞき込む心配そうなコプチェフの顔であった。
「大丈夫か?」
そう言いながら、頬を優しく濡れタオルで冷やしてくれる。
「すまない、奴ら逃がしちゃった。」
ゆっくりと起き上がり、頭を振りながらボリスが謝ると
「お前が無事で良かったよ。」
コプチェフはそっと唇を重ねた。
「お前こそ大丈夫か?
ドラム缶、直撃してたろ?」
意識のハッキリしてきたボリスが慌てて問いかける。
「なんとか大丈夫だ、俺ってけっこー頑丈だからよ。」
コプチェフはヘヘヘッと笑って答えるものの、顔面や肩口、ところどころに青あざが出来ていた。
「追うぜ、まだ追いつける距離にいるはずだ。
モスクビッチの部品があちこちに散ってるところをみると、車体に何かトラブルあったみたいだな。
こっちの車は無事だから、スピード出せばすぐ追いつくさ。
今度はこっちが反撃する番だぜ!
大会上位入賞者ペアの実力見せてやろう!」
力強く笑うコプチェフに
「2人で連携射撃だな!
狙撃組希望者特別講習の実演、思い出すね。」
ボリスも力強く頷いて答え、2人はラーダカスタムに乗り込んだ。
そして、モスクビッチが去った方角目指し走り始めるのであった。
「あの崖を迂回してこの辺にたどり着くには、少し時間がかかるはずだ。
この道を行けば先回りできる。
お前等は、この場所にガラクタ積み上げて奴らの車を止めてくれ。
あいつらの足が止まれば、ボリスが簡単にカタつけてくれるぜ。」
地図を見ながらコプチェフにそう説明され、カンシュコフ達は慌ててトラックにドラム缶や木箱などのガラクタを詰め込み始めた。
その後、道と言うには舗装もされておらず、ほとんど獣道のような場所をコプチェフ運転のラーダカスタムを追って懸命にトラックを走らせる。
そして、命じられるままにガラクタでバリケードを築いた。
「ご苦労さん、次はタンクコフの迷彩使用時の店舗の準備をしておいてくれ。
それを使用する前に確保したいところだが、念のためだ。
ガレージにいる整備士のおっちゃん達に聞いてくれれば分かるはずだからさ。」
カンシュコフ達はコプチェフの言葉に従い、ミリツィアに引き返していった。
「同期とはいえ、内勤の奴らとはあんま話したことなかったな。」
カンシュコフ達を見送りながら、コプチェフが今更ながらに呟いた。
「あいつら、真っ青な顔してた。
内勤の奴にも恐れられてるって…イリヤ先輩、どんだけミリツィアの実力者なんだ。」
ボリスもブルリと身を震わせて呟いた。
「ま、ここで終わらせられんだろ。
構うことはねえ、04号囚人の眉間にでも撃ち込んでやれ。
噂通りのバケモンなら、死なねえだろ。
ちと動けなくしてやるだけだ。」
コプチェフが笑いながら言うと
「まかせとけって。」
ボリスは不敵な笑顔を見せた。
山中から山道に設置されたガラクタバリケードを双眼鏡で伺っていると、程なくモスクビッチがその前に現れた。
「来た来た、やっぱ迂回に時間がかかったんだな。」
コプチェフは双眼鏡で様子を伺いながらそう口にする。
モスクビッチが崖を越えて来た事は、2人には知る由もなかった。
ガラクタバリケードに道を遮られ、モスクビッチは停止した。
ボリスは隠れ場所の自分達のラーダカスタムの上に上がり、ライフルのスコープでそれを確認する。
運転していたのは04号囚人ではなかった。
運転手は窓の外から辺りを見渡し、ガラクタを前にどうしたものかと思案している。
人の良さそうな大きな瞳の、おっとりとした顔の青年だ。
前髪を頭の上で結っているのが特徴的だった。
「あいつは違うな、541号囚人だろう。
主犯は04号囚人だ、奴を狙え。」
双眼鏡で相手を確認しながらのコプチェフの囁きに
「了解。」
ボリスも囁きで答える。
ボリスはライフルのスコープ越しに、更に注意深くモスクビッチの様子を伺った。
モスクビッチの後部席に仰向けに寝ころびながら、足を組んで雑誌を読みふけっている者がいる。
スコープの倍率を上げて確認すると、雑誌で隠れている顔の辺りに特徴的なピンクブロンドの髪がチラリと見えた。
「見つけた、あいつが04号囚人だ。」
ボリスはラーダカスタムの屋根に銃身を置くと慎重に相手を見据え、狙いを定める。
それは雑誌に隠れている04号囚人の眉間を正確に捕らえていた。
バンッ!!
鋭い発射音とともに、弾丸がモスクビッチめがけて飛んで行く。
ライフルを撃った反動でラーダカスタムが軽く揺れた。
双眼鏡で様子を伺っていたコプチェフの目に、雑誌を貫いて弾丸が04号囚人の眉間に吸い込まれるのが確認される。
「命中、ドンピシャだぜ、さすが4年連続首位者!」
コプチェフの勝利の言葉に、ボリスも嬉しそうな笑みをこぼした。
「さすがに暫く動けないだろうから、今のうちに確保しようぜ。」
そう言って笑いあう2人の目に、あり得ない光景が飛び込んでくる。
眉間にライフルの弾丸をめり込ませたまま、04号囚人が歩いて車を降りたのだ。
「なっ!?」
呆然とする2人をよそに、04号囚人は読んでいた雑誌を広げ、何かを確認している。
大切な雑誌に穴を空けられたと判明すると、その顔色が変わった。
ポンッ!!
双眼鏡越しに見ているはずなのに、そんなコミカルな音が聞こえた気がするほど呆気なく、04号囚人の眉間に刺さっていた弾丸が弾け飛んだ。
「!?あいつの頭蓋骨、どうなってんだ?」
自分達の見ている光景のあまりの非常識ぶりに、コプチェフとボリスの思考は停止してしまった。
その一瞬の空白をつくかのように、04号囚人が怒りにまかせて辺りのガラクタを2人に向かって投げつけてくる。
コプチェフが我に返るのと、その体に04号囚人が投げたドラム缶が直撃するのはほとんど同時であった。
為す術もなく、コプチェフはその一撃によって後方に吹っ飛ばされる。
「コプチェフ!!」
悲鳴を上げるボリスにも、04号囚人が投擲(とうてき)してくる飛来物が襲いかかってきた。
「くそっ!」
ボリスはその飛来物を正確な腕と早さをもって、ライフルで撃ち落としていく。
いくつもの飛来物の中から、自分に直撃しそうな物を優先的に撃ち落とす。
それは、もの凄い集中力を要する行為であった。
これが射撃大会の競技種目であったなら、間違いなく首位入賞の腕を見せていた。
『投げるガラクタが尽きた時、お前の幸運も尽きる!』
コプチェフを襲われた怒りでいつも以上の能力を発揮しているボリスの目に、あり得ない飛来物が映る。
「いっ!?」
それは、04号囚人が乗っていたモスクビッチであった。
あろうことか、運転席には541号囚人が乗ったままになっている。
動揺しまくっている541号囚人の顔を見れば、それは計画に基づいた行為では無い、行き当たりばったりの行動であることが伺えた。
『車投げてくるって、ムチャクチャだ!』
それはボリスのライフルでは、撃墜しようの無いものであった。
『投げられる』という車体に無理な負荷をかけられたモスクビッチは、そのまま爆発四散する。
ボリスはその爆風にあおられ、今まで潜んでいた山中から車道に叩きつけられた。
モスクビッチに乗っていた541号囚人も、ボリスの側に吹き飛ばされてきた。
薄れゆく意識の中で、541号囚人がモスクビッチの残骸をかき集め、動ける状態にまで修理している光景がボンヤリと見える。
『くそっ、このままじゃ、また逃げられる』
そう思うものの、ボリスの意識は闇に落ちていった。
頬に当たる冷たい感触で、ボリスの意識が覚醒する。
目を開けたボリスが最初に見た物は、自分をのぞき込む心配そうなコプチェフの顔であった。
「大丈夫か?」
そう言いながら、頬を優しく濡れタオルで冷やしてくれる。
「すまない、奴ら逃がしちゃった。」
ゆっくりと起き上がり、頭を振りながらボリスが謝ると
「お前が無事で良かったよ。」
コプチェフはそっと唇を重ねた。
「お前こそ大丈夫か?
ドラム缶、直撃してたろ?」
意識のハッキリしてきたボリスが慌てて問いかける。
「なんとか大丈夫だ、俺ってけっこー頑丈だからよ。」
コプチェフはヘヘヘッと笑って答えるものの、顔面や肩口、ところどころに青あざが出来ていた。
「追うぜ、まだ追いつける距離にいるはずだ。
モスクビッチの部品があちこちに散ってるところをみると、車体に何かトラブルあったみたいだな。
こっちの車は無事だから、スピード出せばすぐ追いつくさ。
今度はこっちが反撃する番だぜ!
大会上位入賞者ペアの実力見せてやろう!」
力強く笑うコプチェフに
「2人で連携射撃だな!
狙撃組希望者特別講習の実演、思い出すね。」
ボリスも力強く頷いて答え、2人はラーダカスタムに乗り込んだ。
そして、モスクビッチが去った方角目指し走り始めるのであった。