空翔けるうた~02~
「情熱列島~Vol.80 翼宿(空翔宿星)~」
「いよっ!待ってましたあ~♪」
夕城プロの掛け声に、一同は盛り上がる。
その中で、柳宿だけは祈るように画面を見つめていた…
\"空翔宿星。それはバンド名の通り、彗星の如く現れた三人組。
4月に晴れ晴れしいメジャーデビューを果たした彼らは1stシングルから爆発的ヒットを生み出し、早くも日本の音楽界の頂点へと登り詰めている。
今日は、そんな空翔宿星の顔・翼宿の素顔に迫る―――。\"
淑やかなナレーションが流れる中で画面に映し出されているのは、デビューシングルのPVである。
\"翼宿。4月18日生まれの21歳。空翔宿星では、業界内でも珍しいベースボーカルを担当。前バンドからその評判はよく、東京のライブハウス業界では既にかなり名の知れた人物でもあった。\"
(字幕)今回のインタビューを受けるにあたり、抵抗はありましたか?
『そりゃあ、ありましたよ。前に出るのは苦手なタイプなんで、普段はリーダーに任せてます』
落ち着いたセットの中で、字幕のインタビューに答える翼宿の姿が映る。
(字幕)ベースボーカルを始めたきっかけは、何だったんですか?
『元々はベース志望だったんですけど、前のバンドに歌える奴が誰もおらんくて無理矢理に…ってのが、きっかけです』
(字幕)それにしては声が張られてますが、ボイストレーニング等に通われていたんですか?
『いや。何もしてません』
その後に流れたのは、東京のライブハウス時代のFIRE BLESSの映像。
恐らく、ライブハウスで記録用に撮影していたものだろう。
\"FIRE BLESSでも華々しい活躍を遂げていた、翼宿。なぜ、今の空翔宿星を結成するに至ったのだろうか?\"
『こう言っちゃ前バンドに失礼かもしれないんですけど、サービス精神でライブするのが性に合わなかったんです。そうじゃなくて、もっと音楽を全身で楽しんでくれる仲間と観客でひとつの世界を作れるようなバンドが出来たら…って、思ってました』
(字幕)最初に出会ったメンバーは、誰ですか?
『鬼宿です。きっかけも単純で、彼の妹が東京駅で迷子になったのを助けた時に初めて会いました。その時まで同じ大学だった事もお互い別のバンドで活動してた事も、知りませんでした』
(字幕)それで、どのような流れで結成に?
『まあ…俺はその頃から音楽で稼げるようになりたいと思ってたんで、その夢に付き合わせちゃった感じです。その時に彼はいろんな事情を捨ててまで、俺に着いていきたいって言ってくれたんですよ。今でも悪いなあって思うんですが、彼のドラムの腕と真っ直ぐな気持ちは俺にも必要だったので、そこで結成に至りました』
「へへっ…照れるじゃねえかよ。翼宿…」
ブラウン管越しに語られる翼宿から鬼宿への気持ちに、本人はくすぐったさを覚える。
そして…遂に、先程から固唾を飲んで見守っている女の加入ターンだ。
(字幕)柳宿さんは唯一の女性メンバーですが、どういった繋がりで?
『………忘れました』
そこで、柳宿はずるっと身を崩す。
「あのねえ…」
『…嘘です。彼女は当時通っていたお店でピアノを弾いていて、そこで鬼宿が声をかけたんです。ホンマたまたまっすよ』
(字幕)そこで、柳宿さんのピアノの腕を見初めたと…?
『まあ…そうですね。初めて見た時から、センスはあるなあって思ってました』
(字幕)しかし、正直男性バンドに女性を入れるのは抵抗なかったですか?
『めちゃめちゃ、ありました。でも、彼女は女である以前に音楽に対する情熱は半端じゃないので、そこを俺は信用して入れたんです。今でも、それは間違いじゃなかったと思ってます』
「よかったな!柳宿v」
鬼宿がどつく横で、柳宿は涙目になっている。
何せ、初めてマトモに彼に褒められているのだから―――
(字幕)それと、もうひとつ。翼宿さんの夢はメジャーデビューだったのに、その話が出た時に最後まで結論を出さなかったのは翼宿さんだと聞きました。それは、なぜなんですか?
その質問に、鬼宿と柳宿はくっと画面を凝視する。
そう。この質問に、夕城プロの意図がある。
その理由が語られずに空翔宿星はメジャーデビューを果たし、結局二人はその真意を知る機会がなかったのだから………
打ち合わせにない質問をされた翼宿も、画面の中で少し戸惑った様子を見せた。
『あっとー…そうですね。え、それ、聞いちゃいます?』
(字幕)ええ。一応、シナリオにあるので(笑)
『何て、言ったらいいんかな………いつの間にか、そんなメンバーと過ごしてるんが、楽しかったっていうか………』
翼宿はカメラから目線を外し、言葉を選びながら辿々しく語っている。
『メジャーデビューってやっぱり重い事なんだろうなって、思ってました。いい事ばかりじゃないしこうしてソロの仕事も増えていくし、そんな時にあいつらと過ごせる時間が段々減ってくのが…何てゆーか…寂しかったって…ゆーか…』
その言葉にメンバー二人はおろか、奎宿と昴宿も唖然としている。
『俺、家出してきたんです。それからは他人との関係にずっと鍵かけて生きてきてて、音楽に人間関係なんて必要ない、メリハリが大事なんだ、って思ってました。
せやけどあいつらと出会って、考え方が少し変わった気がしています。これからも時間が許す限り、三人で音楽を作り続けられたらって思ってます』
翼宿の優しい笑顔が流れ、番組はエンディングへと入っていく。
\"誰よりも音楽を愛し仲間を愛した翼宿は、これからもたくさんの夢を紡ぎ続けてくれる事でしょう。\"
番組が終わり、鬼宿はちょっと涙を拭う素振りを見せた。
「ったく…かっこよすぎるよ。あいつ…普段は、何も言ってくれない癖にさ」
「だけどいいメンバーを、親友を持って、幸せだな。鬼宿」
「奎宿さん…」
自分の提案でメンバーの士気が高まり大成功!と、夕城プロは腕組みをしながら何度も頷く。
しかしもう一人、大感動して大号泣すると予想していた女の反応がない。
「………柳宿ちゃん?どうしたんだい?」
「ど、どうした?柳宿。衝撃的すぎて、気絶したか?」
「………夕城プロ。今回の印税の振込日はいつ?」
突拍子もない質問に夕城プロは口をパクパクさせるが、慌てて手帳を開く。
「え、えっと…2ndの印税が上乗せされるのは、今月の末日の筈だけど…?」
柳宿はそれを聞くと、テーブルを両手でバンと叩きつける。
「夕城プロ。旅行は、事前に許可取ればOKですよね?」
「へっ?ま、まあ、そうだけど…って、柳宿?」
「何だよ、柳宿?旅行って…いきなり、どこへ?」
そして彼女は鬼宿をまっすぐに見て、こう提案する。
「たま!!三人で、大阪行くよ!」
「へ…?」
「翼宿の実家よ!!」
…………………………………………
「はあ!!??」
『家出』
そのキーワードを聞いた瞬間、柳宿の頭に浮かんだキーワードは
『恩返し』
カラン
「ここが、柳宿がバイトしてたバーねえ」
「いや~久々に訪れてくれて嬉しいよ、翼宿くん!今や、世紀の大スターだからね♪」
その頃、翼宿は仕事上がりの店長とあのピアノバーに来ていた。
バーのマスターも、嬉しそうにグラスを拭いている。
「………ったく。どうせ飲みの誘いを今日に合わせたのも、あいつらとテレビ見るのが照れ臭かったからだろ?」
「どうも、すみません。付き合わせちゃって…」
「まあ、俺は録画組だからよ。後で、じっくり見てやるぜ」
店長のからかいに、翼宿は苦笑いしながら灰皿に煙草の灰を落とす。
ブブブ…
すると手元に置いていた携帯から、バイブ音が聞こえた。
画面のロックを外すと、鬼宿からのメッセージが入っている。
\"翼宿!!テレビ見たぞ!!
ったく…お前は、かっこよすぎるんだよ!たまには、サシで俺に愛情をぶつけてくれよ!俺の片想いかと、思ってたじゃんか!
………ありがとな。ホント嬉しかった。これからも、よろしく(^^)\"
「鬼宿からか?そろそろ、番組も終わる頃だもんな」
「………ホンマに、女々しい奴ですわ」
確認した携帯を置こうとした時、またバイブ音が鳴る。
今度は、柳宿からだった―――のだが。
\"翼宿!大阪本場のお好み焼き、食べに行こう!大阪まで!!\"
「………は?」
最後の文字列を見て、目を疑った。
「何だ?どうした?柳宿からのメッセージなら超長い感受性たっぷりの文章だろうから、後で読んだ方が…」
「いや…多分、変換ミスですわ」
翼宿は首を傾げながらその画面はそのままにして、携帯のディスプレイの光を落とした。
そう。大阪まで…
柳宿は翼宿の背中を押す『恩返し』小旅行を、即興で計画したのだった―――
「いよっ!待ってましたあ~♪」
夕城プロの掛け声に、一同は盛り上がる。
その中で、柳宿だけは祈るように画面を見つめていた…
\"空翔宿星。それはバンド名の通り、彗星の如く現れた三人組。
4月に晴れ晴れしいメジャーデビューを果たした彼らは1stシングルから爆発的ヒットを生み出し、早くも日本の音楽界の頂点へと登り詰めている。
今日は、そんな空翔宿星の顔・翼宿の素顔に迫る―――。\"
淑やかなナレーションが流れる中で画面に映し出されているのは、デビューシングルのPVである。
\"翼宿。4月18日生まれの21歳。空翔宿星では、業界内でも珍しいベースボーカルを担当。前バンドからその評判はよく、東京のライブハウス業界では既にかなり名の知れた人物でもあった。\"
(字幕)今回のインタビューを受けるにあたり、抵抗はありましたか?
『そりゃあ、ありましたよ。前に出るのは苦手なタイプなんで、普段はリーダーに任せてます』
落ち着いたセットの中で、字幕のインタビューに答える翼宿の姿が映る。
(字幕)ベースボーカルを始めたきっかけは、何だったんですか?
『元々はベース志望だったんですけど、前のバンドに歌える奴が誰もおらんくて無理矢理に…ってのが、きっかけです』
(字幕)それにしては声が張られてますが、ボイストレーニング等に通われていたんですか?
『いや。何もしてません』
その後に流れたのは、東京のライブハウス時代のFIRE BLESSの映像。
恐らく、ライブハウスで記録用に撮影していたものだろう。
\"FIRE BLESSでも華々しい活躍を遂げていた、翼宿。なぜ、今の空翔宿星を結成するに至ったのだろうか?\"
『こう言っちゃ前バンドに失礼かもしれないんですけど、サービス精神でライブするのが性に合わなかったんです。そうじゃなくて、もっと音楽を全身で楽しんでくれる仲間と観客でひとつの世界を作れるようなバンドが出来たら…って、思ってました』
(字幕)最初に出会ったメンバーは、誰ですか?
『鬼宿です。きっかけも単純で、彼の妹が東京駅で迷子になったのを助けた時に初めて会いました。その時まで同じ大学だった事もお互い別のバンドで活動してた事も、知りませんでした』
(字幕)それで、どのような流れで結成に?
『まあ…俺はその頃から音楽で稼げるようになりたいと思ってたんで、その夢に付き合わせちゃった感じです。その時に彼はいろんな事情を捨ててまで、俺に着いていきたいって言ってくれたんですよ。今でも悪いなあって思うんですが、彼のドラムの腕と真っ直ぐな気持ちは俺にも必要だったので、そこで結成に至りました』
「へへっ…照れるじゃねえかよ。翼宿…」
ブラウン管越しに語られる翼宿から鬼宿への気持ちに、本人はくすぐったさを覚える。
そして…遂に、先程から固唾を飲んで見守っている女の加入ターンだ。
(字幕)柳宿さんは唯一の女性メンバーですが、どういった繋がりで?
『………忘れました』
そこで、柳宿はずるっと身を崩す。
「あのねえ…」
『…嘘です。彼女は当時通っていたお店でピアノを弾いていて、そこで鬼宿が声をかけたんです。ホンマたまたまっすよ』
(字幕)そこで、柳宿さんのピアノの腕を見初めたと…?
『まあ…そうですね。初めて見た時から、センスはあるなあって思ってました』
(字幕)しかし、正直男性バンドに女性を入れるのは抵抗なかったですか?
『めちゃめちゃ、ありました。でも、彼女は女である以前に音楽に対する情熱は半端じゃないので、そこを俺は信用して入れたんです。今でも、それは間違いじゃなかったと思ってます』
「よかったな!柳宿v」
鬼宿がどつく横で、柳宿は涙目になっている。
何せ、初めてマトモに彼に褒められているのだから―――
(字幕)それと、もうひとつ。翼宿さんの夢はメジャーデビューだったのに、その話が出た時に最後まで結論を出さなかったのは翼宿さんだと聞きました。それは、なぜなんですか?
その質問に、鬼宿と柳宿はくっと画面を凝視する。
そう。この質問に、夕城プロの意図がある。
その理由が語られずに空翔宿星はメジャーデビューを果たし、結局二人はその真意を知る機会がなかったのだから………
打ち合わせにない質問をされた翼宿も、画面の中で少し戸惑った様子を見せた。
『あっとー…そうですね。え、それ、聞いちゃいます?』
(字幕)ええ。一応、シナリオにあるので(笑)
『何て、言ったらいいんかな………いつの間にか、そんなメンバーと過ごしてるんが、楽しかったっていうか………』
翼宿はカメラから目線を外し、言葉を選びながら辿々しく語っている。
『メジャーデビューってやっぱり重い事なんだろうなって、思ってました。いい事ばかりじゃないしこうしてソロの仕事も増えていくし、そんな時にあいつらと過ごせる時間が段々減ってくのが…何てゆーか…寂しかったって…ゆーか…』
その言葉にメンバー二人はおろか、奎宿と昴宿も唖然としている。
『俺、家出してきたんです。それからは他人との関係にずっと鍵かけて生きてきてて、音楽に人間関係なんて必要ない、メリハリが大事なんだ、って思ってました。
せやけどあいつらと出会って、考え方が少し変わった気がしています。これからも時間が許す限り、三人で音楽を作り続けられたらって思ってます』
翼宿の優しい笑顔が流れ、番組はエンディングへと入っていく。
\"誰よりも音楽を愛し仲間を愛した翼宿は、これからもたくさんの夢を紡ぎ続けてくれる事でしょう。\"
番組が終わり、鬼宿はちょっと涙を拭う素振りを見せた。
「ったく…かっこよすぎるよ。あいつ…普段は、何も言ってくれない癖にさ」
「だけどいいメンバーを、親友を持って、幸せだな。鬼宿」
「奎宿さん…」
自分の提案でメンバーの士気が高まり大成功!と、夕城プロは腕組みをしながら何度も頷く。
しかしもう一人、大感動して大号泣すると予想していた女の反応がない。
「………柳宿ちゃん?どうしたんだい?」
「ど、どうした?柳宿。衝撃的すぎて、気絶したか?」
「………夕城プロ。今回の印税の振込日はいつ?」
突拍子もない質問に夕城プロは口をパクパクさせるが、慌てて手帳を開く。
「え、えっと…2ndの印税が上乗せされるのは、今月の末日の筈だけど…?」
柳宿はそれを聞くと、テーブルを両手でバンと叩きつける。
「夕城プロ。旅行は、事前に許可取ればOKですよね?」
「へっ?ま、まあ、そうだけど…って、柳宿?」
「何だよ、柳宿?旅行って…いきなり、どこへ?」
そして彼女は鬼宿をまっすぐに見て、こう提案する。
「たま!!三人で、大阪行くよ!」
「へ…?」
「翼宿の実家よ!!」
…………………………………………
「はあ!!??」
『家出』
そのキーワードを聞いた瞬間、柳宿の頭に浮かんだキーワードは
『恩返し』
カラン
「ここが、柳宿がバイトしてたバーねえ」
「いや~久々に訪れてくれて嬉しいよ、翼宿くん!今や、世紀の大スターだからね♪」
その頃、翼宿は仕事上がりの店長とあのピアノバーに来ていた。
バーのマスターも、嬉しそうにグラスを拭いている。
「………ったく。どうせ飲みの誘いを今日に合わせたのも、あいつらとテレビ見るのが照れ臭かったからだろ?」
「どうも、すみません。付き合わせちゃって…」
「まあ、俺は録画組だからよ。後で、じっくり見てやるぜ」
店長のからかいに、翼宿は苦笑いしながら灰皿に煙草の灰を落とす。
ブブブ…
すると手元に置いていた携帯から、バイブ音が聞こえた。
画面のロックを外すと、鬼宿からのメッセージが入っている。
\"翼宿!!テレビ見たぞ!!
ったく…お前は、かっこよすぎるんだよ!たまには、サシで俺に愛情をぶつけてくれよ!俺の片想いかと、思ってたじゃんか!
………ありがとな。ホント嬉しかった。これからも、よろしく(^^)\"
「鬼宿からか?そろそろ、番組も終わる頃だもんな」
「………ホンマに、女々しい奴ですわ」
確認した携帯を置こうとした時、またバイブ音が鳴る。
今度は、柳宿からだった―――のだが。
\"翼宿!大阪本場のお好み焼き、食べに行こう!大阪まで!!\"
「………は?」
最後の文字列を見て、目を疑った。
「何だ?どうした?柳宿からのメッセージなら超長い感受性たっぷりの文章だろうから、後で読んだ方が…」
「いや…多分、変換ミスですわ」
翼宿は首を傾げながらその画面はそのままにして、携帯のディスプレイの光を落とした。
そう。大阪まで…
柳宿は翼宿の背中を押す『恩返し』小旅行を、即興で計画したのだった―――