空翔けるうた~02~
「空翔宿星の皆さん、リハーサル入りまーす!」
「よろしくお願いします!」
翌日、仕事に戻った空翔宿星は、リハーサルスタジオに入った。
グローバルミュージックのスタジオを借りきるのだが、その設備は日本とは比べ物にならない程に整っていた。
「うわ!このドラムセット、世界的に有名なメーカーが作ったドラムセットじゃん!俺が、こんなの触っていい訳?」
「たま…興奮しすぎ」
「いいんだよ、鬼宿!お前らは、今や、世界のアーティストに引けを取らないバンドグループなんだから!」
横から夕城プロが冷やかすと、鬼宿はより一層瞳を輝かせる。
そしてはしゃぐ鬼宿と柳宿を尻目に相変わらず淡々と持ち場につく翼宿に、夕城プロは近寄る。
「あ、あのさ…翼宿」
「何すか?」
声をうわずらせてかけられた言葉に、翼宿は顔をあげる。
「い、いや!何でもない…」
「……………?」
夕城プロは、告げられずにいた。
昨日、あの後にマイケルに持ち掛けられた翼宿についてのある相談事を。
そんな二人をじっと見つめていたのは、見学に来ていたマイケルの大きな青い瞳だった―――
リハーサルでも、空翔宿星の調子は絶好調だった。
リハーサルが終わるといくつかのメディアからインタビューを受け、ホテルに戻ったのはすっかり夜も更けた頃だった。
「よおし!みんな!明日からの2日間!日本のよさを、国民に全力で伝えてくるんだぞ!お父さんは、ずっと見ているからな!」
「…お父さんって、何すか?」
「ここでは、お前らは俺の子供達になってるんだよ!」
「最終日には、美朱や奎宿さん達も来るのよね!張り切っちゃうわ~」
「じゃあ、明日の朝は8時にここのロビーでな!」
その後、夕城プロはもう一度翼宿をチラと見やったが、そこで解散の合図を出した。
「翼宿。部屋、戻るか?」
「…一服してから行くから、先に戻っててくれ」
翼宿は煙草を取り出すと、鬼宿にそう伝えた。
「はあ~~~どうしよう。どうすべきか…」
結局、翼宿に話しかけられなかった夕城プロは、エレベーター前で大きなため息をつく。
「夕城プロ!」
「わっ!?」
そこで背中に思いきり体当たりしてきたのは、柳宿だった。
「柳宿!まだ、いたのか?」
「ホテルの中にも、パンフに載ってた免税店があったから♡」
「ったく…帰国の荷物これ以上増やしたら、翼宿に叱られるぞ?」
「へへっ♡」
頬を染めながら並んでエレベーターを待つ柳宿を、しかし夕城プロは真剣な表情で見つめた。
「…………柳宿。お前さ」
「………えっ?」
「今、幸せ………か?」
「…………?」
突然の質問に彼女は首を傾げるが、次の表情は曇りなく。
「………はい!」
そして夕城プロは、寂しく微笑み。
「…そうだよな」
それだけを、返した。
ロビーから見えるLAの街並みも、中々のものだった。
すっかり人気がなくなったロビーのソファで、翼宿はぼんやりと煙草を吹かす。
世界の頂点で…なんて、夢みたいな話。
まさか、こんなに早く叶うなんて思わなかった。
それもこれも、大好きな仲間がいてくれたからこそ…
明日から、大きな箱で遊べる事に少しの期待と少しの不安はあるが…
二人がいれば、柳宿がいれば、きっと大丈夫。
そんな事を考えながら、煙草の時間を終わらせようとしたところ…
「翼宿さん。ちょっと、いいですか?」
声をかけられ振り向くと、眼鏡をかけた秘書風の日本人とその後ろにグローバルミュージックの社長の姿があった。
「あの…?」
「突然、すみません。うちのマイケルが、翼宿さんと少しお話したいそうで…」
「え…?」
ブウウ…ン。
あれから部屋に戻ってシャワーを済ませた柳宿は、使っていたドライヤーの電源を切った。
そして鏡に映る自分を見つめながら、先程の夕城プロの言葉を思い返す。
『今、幸せ………か?』
「突然、あんな質問するなんて…変な夕城プロ」
しかしなぜか胸にある、小さな胸騒ぎは消えなくて。
「飲み物でも、買ってこようかしら」
上着を羽織り、ロビーにある売店に行く事にした。
「翼宿さん。マイケルは、以前からあなたにとても興味を持っていました。あなたの才能にも、あなた自身にも…」
「はあ…」
あれからソファに向かい合って座った、マイケルと翼宿。
通訳の女性が、その間を挟むように座っている。
「今日のリハーサルも見せていただきましたが、自分のペースで淡々と自分の役目をこなしているその姿はとても初めて外国に来たようには思えませんでした」
「いやいや…感情を表に出さないタイプなだけなんですよ」
元々褒められるのが苦手な翼宿は、そこで苦笑いしながらフォローを入れる。
「いいえ。そこがいいんです。物怖じせずに、自分のやるべき事をしっかり見据えられるあなただからこそ…」
「?」
「そこで…ひとつ、あなたに提案があるんです」
「提案?」
「この公演が終わったら…」
そこで、マイケルは女性を手で制する。
「ココカラハ、ダイジナコトダ。ワタシガベンキョウシタニホンゴデ、チョクセツツタエヨウ」
翼宿は、マイケルのその辿々しい日本語に息を呑んだ。
「あれ?」
売店の手前のソファに、マイケルと翼宿が会話している姿がある。
柳宿はなぜか顔を出してはいけないのではないかと思い、側の柱に身を潜める。
そして、次に聞こえた言葉に。
「君だけを、我が音楽会社で引き抜きたいんだ」
思わず、耳を疑った。
「よろしくお願いします!」
翌日、仕事に戻った空翔宿星は、リハーサルスタジオに入った。
グローバルミュージックのスタジオを借りきるのだが、その設備は日本とは比べ物にならない程に整っていた。
「うわ!このドラムセット、世界的に有名なメーカーが作ったドラムセットじゃん!俺が、こんなの触っていい訳?」
「たま…興奮しすぎ」
「いいんだよ、鬼宿!お前らは、今や、世界のアーティストに引けを取らないバンドグループなんだから!」
横から夕城プロが冷やかすと、鬼宿はより一層瞳を輝かせる。
そしてはしゃぐ鬼宿と柳宿を尻目に相変わらず淡々と持ち場につく翼宿に、夕城プロは近寄る。
「あ、あのさ…翼宿」
「何すか?」
声をうわずらせてかけられた言葉に、翼宿は顔をあげる。
「い、いや!何でもない…」
「……………?」
夕城プロは、告げられずにいた。
昨日、あの後にマイケルに持ち掛けられた翼宿についてのある相談事を。
そんな二人をじっと見つめていたのは、見学に来ていたマイケルの大きな青い瞳だった―――
リハーサルでも、空翔宿星の調子は絶好調だった。
リハーサルが終わるといくつかのメディアからインタビューを受け、ホテルに戻ったのはすっかり夜も更けた頃だった。
「よおし!みんな!明日からの2日間!日本のよさを、国民に全力で伝えてくるんだぞ!お父さんは、ずっと見ているからな!」
「…お父さんって、何すか?」
「ここでは、お前らは俺の子供達になってるんだよ!」
「最終日には、美朱や奎宿さん達も来るのよね!張り切っちゃうわ~」
「じゃあ、明日の朝は8時にここのロビーでな!」
その後、夕城プロはもう一度翼宿をチラと見やったが、そこで解散の合図を出した。
「翼宿。部屋、戻るか?」
「…一服してから行くから、先に戻っててくれ」
翼宿は煙草を取り出すと、鬼宿にそう伝えた。
「はあ~~~どうしよう。どうすべきか…」
結局、翼宿に話しかけられなかった夕城プロは、エレベーター前で大きなため息をつく。
「夕城プロ!」
「わっ!?」
そこで背中に思いきり体当たりしてきたのは、柳宿だった。
「柳宿!まだ、いたのか?」
「ホテルの中にも、パンフに載ってた免税店があったから♡」
「ったく…帰国の荷物これ以上増やしたら、翼宿に叱られるぞ?」
「へへっ♡」
頬を染めながら並んでエレベーターを待つ柳宿を、しかし夕城プロは真剣な表情で見つめた。
「…………柳宿。お前さ」
「………えっ?」
「今、幸せ………か?」
「…………?」
突然の質問に彼女は首を傾げるが、次の表情は曇りなく。
「………はい!」
そして夕城プロは、寂しく微笑み。
「…そうだよな」
それだけを、返した。
ロビーから見えるLAの街並みも、中々のものだった。
すっかり人気がなくなったロビーのソファで、翼宿はぼんやりと煙草を吹かす。
世界の頂点で…なんて、夢みたいな話。
まさか、こんなに早く叶うなんて思わなかった。
それもこれも、大好きな仲間がいてくれたからこそ…
明日から、大きな箱で遊べる事に少しの期待と少しの不安はあるが…
二人がいれば、柳宿がいれば、きっと大丈夫。
そんな事を考えながら、煙草の時間を終わらせようとしたところ…
「翼宿さん。ちょっと、いいですか?」
声をかけられ振り向くと、眼鏡をかけた秘書風の日本人とその後ろにグローバルミュージックの社長の姿があった。
「あの…?」
「突然、すみません。うちのマイケルが、翼宿さんと少しお話したいそうで…」
「え…?」
ブウウ…ン。
あれから部屋に戻ってシャワーを済ませた柳宿は、使っていたドライヤーの電源を切った。
そして鏡に映る自分を見つめながら、先程の夕城プロの言葉を思い返す。
『今、幸せ………か?』
「突然、あんな質問するなんて…変な夕城プロ」
しかしなぜか胸にある、小さな胸騒ぎは消えなくて。
「飲み物でも、買ってこようかしら」
上着を羽織り、ロビーにある売店に行く事にした。
「翼宿さん。マイケルは、以前からあなたにとても興味を持っていました。あなたの才能にも、あなた自身にも…」
「はあ…」
あれからソファに向かい合って座った、マイケルと翼宿。
通訳の女性が、その間を挟むように座っている。
「今日のリハーサルも見せていただきましたが、自分のペースで淡々と自分の役目をこなしているその姿はとても初めて外国に来たようには思えませんでした」
「いやいや…感情を表に出さないタイプなだけなんですよ」
元々褒められるのが苦手な翼宿は、そこで苦笑いしながらフォローを入れる。
「いいえ。そこがいいんです。物怖じせずに、自分のやるべき事をしっかり見据えられるあなただからこそ…」
「?」
「そこで…ひとつ、あなたに提案があるんです」
「提案?」
「この公演が終わったら…」
そこで、マイケルは女性を手で制する。
「ココカラハ、ダイジナコトダ。ワタシガベンキョウシタニホンゴデ、チョクセツツタエヨウ」
翼宿は、マイケルのその辿々しい日本語に息を呑んだ。
「あれ?」
売店の手前のソファに、マイケルと翼宿が会話している姿がある。
柳宿はなぜか顔を出してはいけないのではないかと思い、側の柱に身を潜める。
そして、次に聞こえた言葉に。
「君だけを、我が音楽会社で引き抜きたいんだ」
思わず、耳を疑った。