百花繚乱・第三部
"御守り…?"
"せや。俺は、ずっとお前の傍に着いてる事が出来んからな。これは…俺が昔一緒に戦った戦友から貰った腕輪や。これを付けておけば…きっとお前は大丈夫や"
"変なのお…幻狼が、おまじないみたいな事に頼るなんて~"
"ええやろ!男かて、たまにはロマンが必要なんや!"
そう言われて授けられた腕輪が、自分の右腕に光っている。
秋桜は宮殿に出かけた頭の寝室を、掃除していた。
まだまだ不安はあるけれど、幻狼を信じていればきっと大丈夫。
そう思う事で、秋桜はまた普通の生活に戻る気持ちになったのだ。
『それにしても…今日は、やけに屋敷が静かね。攻児もどこに行ったのかしら…?』
キイ…
すると後ろの扉が静かに開かれて、一瞬体がびくついた。
しかし入ってきた人物を見て、次には安堵の笑みを漏らす。
『何だ…攻児か。どこに行ってたの?』
『今日も、掃除…偉いな』
攻児はその問いには答えず、翼宿が使っている座椅子に座った。
どこか冷たい雰囲気を醸し出しているようにも思えたが、構わずに話を続ける。
『攻児…大変な事になっちゃったね』
『…………』
『でも、幻狼が何とかしてくれるよね?厲閣山…乗っ取られたりしないよね?』
そう言って同意を求めてくる彼女を射るような瞳で見つめ、攻児は静かに口を開いた。
『お前…兄貴のトコ戻る気ないんか?』
『えっ…?』
きっと大丈夫と励ましてくれるであろうと思っていた攻児から意外な言葉が飛び出し、秋桜は目を丸くした。
『攻児?何、言ってるの…?だって…兄さんはあたし達と敵対してるのに…そんなところに、あたしが戻る訳が…』
『何でや?ずっと、会いたかったんやないんか?』
攻児はスッと立ち上がると、秋桜にゆっくり近寄る。
『実はな…昼間、会いに行ったんや。あんたの兄貴に…そしたらお前を返せば、厲閣山を乗っ取る計画はやめる言うとったんやで?』
『…………っ』
追い詰められた先は、翼宿の寝台だった。
『嫌…あたしは、紅南から離れる事は…出来ない。永安も…いるし』
『幻狼もいるから…か?』
その言葉に、なぜか秋桜の顔は耳まで赤くなる。
『中途半端やなあ?お前は…どっちかにせんと…うちの頭が、いつまでも嫁貰えへんやないかあ?』
『…………っ』
怖い。攻児は、こんな事言う人じゃない。
目が座っている彼の顔に恐怖を覚え、咄嗟にその場から離れようとする…が。
『あっ…!』
手首を掴まれ、次にはドサリと寝台に押し倒されていた。
『やだっ!やめて…攻児!!』
『ほんなら痛ぶって、お前をこの山にいられんようにしたるさかい!』
ビリッ
攻児は秋桜の着物の襟を破き、露になった胸をぐっと掴む。
『痛っ………!!』
『ええ胸しとるやんか…幻狼とは何回ヤッたんや?なあ…?』
『やだ…幻狼!!幻狼ーーー!!!』
バキッ!
鈍い音が響いた瞬間、胸を掴んでいた手が弾け飛んだ。
急いで着物をかきあわせて起き上がると、その哀れな姿を隠すように゙兄゙の匂いがする上着が体にかかった。
目の前には、今まで自分を見守ってくれていた広い背中…
『幻狼……………』
『攻児…!貴様…!何、さらしとんじゃ!!』
ちょうど宮殿から帰った翼宿が、この騒ぎに気付いたのだ。
攻児は殴られた反動で吹き飛ばされた体を立て直すと、フッと笑う。
『何って…この山を護る為に、秋桜に冷龍山に行けて交渉してたんや。昼間、冷龍山に行った時に頭にそう言われてきたもんでな。そしたら嫌やて甘えた事言うもんやから、少し痛い目見させようとしたんや』
『な…んやて…!?』
自分に報告もせずに秋桜に直接詰め寄るなど、従順な攻児がする事ではない。
それに、嫌がる秋桜を襲うなど言語道断。
そもそも、今日は留守番を頼んでいた筈なのだが…
『どんな事情があったかて…お前、女に手荒な真似せんって言うとったやないか…!こんなん、お前らしくあらん…』
『俺らしいとか、言うてる場合じゃないやろ!山の存続が、かかってんねんで!?お前は、厲閣山の存続よりその女取るんかい!』
『そ…れは…!!』
翼宿は、ぐっと唇を噛み締める。
そんな彼の様子を見てくっと笑うと、攻児はそっと懐から短剣を取り出した。
『………ほんなら、やっぱりお前の命を差し出すしかあらへんわな。そんな情に揺れる男、頭にしとく意味あらへん』
『攻児…!やめて!』
『ホンマの頭は………この俺やあ!!』
攻児は翼宿の胸ぐらをぐいと掴むと壁に押し付け、思いきり短剣を振り上げた。
間一髪、それを避けて背中の鉄扇を引き抜こうとするが。
『遅い!!』
目にも止まらぬ速さで、彼が隠し持っていたもうひとつの短剣が翼宿の腹に突き刺さる。
『ぐあっ!!』
『幻狼!!』
ガシャアン!
そのまま攻児が翼宿の首を掴み、座椅子へと押し倒した。
ギリギリと首を締め上げるその力は蠱毒に操られてるがゆえ、七星の力を持ってでもはね除ける事が出来ないものだった。
『こう…じ…!!』
『今まで…よう、頑張ったな?幻狼…!ここからは…俺に任せろ…』
『や…やだっ!攻児!!幻狼を、離して!!』
そんな秋桜の叫びなどものともせず、攻児は新たに獲物の首を締め付ける。
どうしよう…このままじゃ…このままじゃ、幻狼が死んじゃう…!!
秋桜は、無意識に右手の腕輪を握り締める。
すると…
(腕輪に…念を込めなさい!)
頭の奥で、女性のような声が聞こえる。
(えっ…!?)
(翼宿を助けて!お願い!)
『…………つっ!?』
腕輪が輝き、それは小手に姿を変えた。
左の鎖骨に輝くは、『柳』の文字。
"せや。俺は、ずっとお前の傍に着いてる事が出来んからな。これは…俺が昔一緒に戦った戦友から貰った腕輪や。これを付けておけば…きっとお前は大丈夫や"
"変なのお…幻狼が、おまじないみたいな事に頼るなんて~"
"ええやろ!男かて、たまにはロマンが必要なんや!"
そう言われて授けられた腕輪が、自分の右腕に光っている。
秋桜は宮殿に出かけた頭の寝室を、掃除していた。
まだまだ不安はあるけれど、幻狼を信じていればきっと大丈夫。
そう思う事で、秋桜はまた普通の生活に戻る気持ちになったのだ。
『それにしても…今日は、やけに屋敷が静かね。攻児もどこに行ったのかしら…?』
キイ…
すると後ろの扉が静かに開かれて、一瞬体がびくついた。
しかし入ってきた人物を見て、次には安堵の笑みを漏らす。
『何だ…攻児か。どこに行ってたの?』
『今日も、掃除…偉いな』
攻児はその問いには答えず、翼宿が使っている座椅子に座った。
どこか冷たい雰囲気を醸し出しているようにも思えたが、構わずに話を続ける。
『攻児…大変な事になっちゃったね』
『…………』
『でも、幻狼が何とかしてくれるよね?厲閣山…乗っ取られたりしないよね?』
そう言って同意を求めてくる彼女を射るような瞳で見つめ、攻児は静かに口を開いた。
『お前…兄貴のトコ戻る気ないんか?』
『えっ…?』
きっと大丈夫と励ましてくれるであろうと思っていた攻児から意外な言葉が飛び出し、秋桜は目を丸くした。
『攻児?何、言ってるの…?だって…兄さんはあたし達と敵対してるのに…そんなところに、あたしが戻る訳が…』
『何でや?ずっと、会いたかったんやないんか?』
攻児はスッと立ち上がると、秋桜にゆっくり近寄る。
『実はな…昼間、会いに行ったんや。あんたの兄貴に…そしたらお前を返せば、厲閣山を乗っ取る計画はやめる言うとったんやで?』
『…………っ』
追い詰められた先は、翼宿の寝台だった。
『嫌…あたしは、紅南から離れる事は…出来ない。永安も…いるし』
『幻狼もいるから…か?』
その言葉に、なぜか秋桜の顔は耳まで赤くなる。
『中途半端やなあ?お前は…どっちかにせんと…うちの頭が、いつまでも嫁貰えへんやないかあ?』
『…………っ』
怖い。攻児は、こんな事言う人じゃない。
目が座っている彼の顔に恐怖を覚え、咄嗟にその場から離れようとする…が。
『あっ…!』
手首を掴まれ、次にはドサリと寝台に押し倒されていた。
『やだっ!やめて…攻児!!』
『ほんなら痛ぶって、お前をこの山にいられんようにしたるさかい!』
ビリッ
攻児は秋桜の着物の襟を破き、露になった胸をぐっと掴む。
『痛っ………!!』
『ええ胸しとるやんか…幻狼とは何回ヤッたんや?なあ…?』
『やだ…幻狼!!幻狼ーーー!!!』
バキッ!
鈍い音が響いた瞬間、胸を掴んでいた手が弾け飛んだ。
急いで着物をかきあわせて起き上がると、その哀れな姿を隠すように゙兄゙の匂いがする上着が体にかかった。
目の前には、今まで自分を見守ってくれていた広い背中…
『幻狼……………』
『攻児…!貴様…!何、さらしとんじゃ!!』
ちょうど宮殿から帰った翼宿が、この騒ぎに気付いたのだ。
攻児は殴られた反動で吹き飛ばされた体を立て直すと、フッと笑う。
『何って…この山を護る為に、秋桜に冷龍山に行けて交渉してたんや。昼間、冷龍山に行った時に頭にそう言われてきたもんでな。そしたら嫌やて甘えた事言うもんやから、少し痛い目見させようとしたんや』
『な…んやて…!?』
自分に報告もせずに秋桜に直接詰め寄るなど、従順な攻児がする事ではない。
それに、嫌がる秋桜を襲うなど言語道断。
そもそも、今日は留守番を頼んでいた筈なのだが…
『どんな事情があったかて…お前、女に手荒な真似せんって言うとったやないか…!こんなん、お前らしくあらん…』
『俺らしいとか、言うてる場合じゃないやろ!山の存続が、かかってんねんで!?お前は、厲閣山の存続よりその女取るんかい!』
『そ…れは…!!』
翼宿は、ぐっと唇を噛み締める。
そんな彼の様子を見てくっと笑うと、攻児はそっと懐から短剣を取り出した。
『………ほんなら、やっぱりお前の命を差し出すしかあらへんわな。そんな情に揺れる男、頭にしとく意味あらへん』
『攻児…!やめて!』
『ホンマの頭は………この俺やあ!!』
攻児は翼宿の胸ぐらをぐいと掴むと壁に押し付け、思いきり短剣を振り上げた。
間一髪、それを避けて背中の鉄扇を引き抜こうとするが。
『遅い!!』
目にも止まらぬ速さで、彼が隠し持っていたもうひとつの短剣が翼宿の腹に突き刺さる。
『ぐあっ!!』
『幻狼!!』
ガシャアン!
そのまま攻児が翼宿の首を掴み、座椅子へと押し倒した。
ギリギリと首を締め上げるその力は蠱毒に操られてるがゆえ、七星の力を持ってでもはね除ける事が出来ないものだった。
『こう…じ…!!』
『今まで…よう、頑張ったな?幻狼…!ここからは…俺に任せろ…』
『や…やだっ!攻児!!幻狼を、離して!!』
そんな秋桜の叫びなどものともせず、攻児は新たに獲物の首を締め付ける。
どうしよう…このままじゃ…このままじゃ、幻狼が死んじゃう…!!
秋桜は、無意識に右手の腕輪を握り締める。
すると…
(腕輪に…念を込めなさい!)
頭の奥で、女性のような声が聞こえる。
(えっ…!?)
(翼宿を助けて!お願い!)
『…………つっ!?』
腕輪が輝き、それは小手に姿を変えた。
左の鎖骨に輝くは、『柳』の文字。