スパイス

「・・・ただいま~」
午前0時過ぎ
翼宿が疲れた顔で帰宅した
見ると、居間にぼんやり明りがついている
「・・・・・電気消して寝ろや」
居間を覗きこむと、柳宿が机の上を散らかしたまま寝転がっている
「う~ん・・・」
机の上には、たくさんの設計のスクラップが散りばめられていた
今回、星宿にとって役立ちそうな情報ばかりだ
「・・・・・・・・・・・・・・・・阿呆」
翼宿はフッと笑うと、柳宿の体の上に毛布をかけた
惹かれあっていく2人

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、街は大雨だった
幸い土曜日だったからよいが
「あーーーーーーーてめえ!!それじゃ、雨が入ってくるやろうが!」
「課長がここに打ちつけろって言ったんでしょ!?」
雨が入ってくるのを防ぐために家の壁にベニヤ板を打ち付け、相変わらず痴話喧嘩を繰り広げる上司と部下
「ぷぅ。もう疲れた」
「3ヶ所1度ずつしか打ちつけてないやろが!ったく・・・干物はこれだから!」
もう一度、ベニヤ板をはがして打ち付け直す翼宿
その間に、柳宿は携帯を開いた
「・・・・・・・・・・・星宿さん。大丈夫かな」
明後日が〆切だ
会社できっと頑張っているだろうに
晴れていれば、スクラップを持って行きたかったのだが

♪♪♪
星宿の携帯が光る
星宿は、相変わらずいいアイデアが浮かんでいなかった
着信窓には、「柳宿」
「もしもし」
『あ・・・お疲れ様です。柳宿です』
「柳宿さん・・・どうしたんですか?」
『あの・・・仕事どうかなって・・・』
「相変わらずです。しかも外には出られないし、今夜は会社に寝泊まりですかね」
『そっか・・・』
「何か用事ありました?」
『あの・・・あの。仕事に役立ちそうなスクラップがあったので・・・参考になればいいなって思ったんですが・・・』
「え?」
『本当は届けてあげたかったんですけど・・・』
「この雨の中?無理ですよ。気持ちはありがたいですが・・・」
『そ・・・そうですよね。また電話します。すみませんでした!』

「はぁ・・・」
「何の溜息?」
「分からないんです。気持ちがもやもやしていて・・・気持ち悪い」
「・・・・・・・・・・・・・」
翼宿は、柳宿の手元のスクラップを見やる
「それ」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「届けたいんやろ?」
「え・・・そんな事は・・・」
翼宿は、柳宿のスクラップを奪う
「今から、会社に所用がある。届けてやるから」
「課長・・・」
「ここで、お前が気持ちを諦めたら、また面倒や」
「え?」
「ゆっくり考えておけ」
レインコートを完全装備する翼宿
「課長。気をつけてね?」
「おう」
私の気持ち
まだ、気付いていなかった
動いていた私自身の気持ちに

ガラガラガラ
「酷い・・・・・・・・・・・・・・」
30分後、哀れな姿で到着した翼宿
「あんな女の為に・・・なぜ俺はここまで・・・」
本当は用事なんてなかった
それでもここ数日の柳宿の喜怒哀楽を見ていた翼宿は、なぜかこの時彼女に協力してやりたくなった
「星宿」
「課長。お疲れ様です!こんな雨の中、仕事ですか?」
「ああ・・・まあ、近くを通ったもんでな」
翼宿は、星宿の机にスクラップを置く
「どうしても届けたい奴がいたもんで、代わりに預かってきた」
「・・・・・・・・・・・・これは」
「お前の役に立ちたいんやて」
「柳宿さん」
「ほな。頑張れ。アイデア期待してる」
「・・・・・・・・・・・あの!」
星宿に呼び止められ、翼宿は立ち止まる
「・・・・・・・・・・・・柳宿さんの事、課長はどう思ってるんですか?」
振り向かずに答える
「お前は自分の事だけ考えてればえぇんや」
自分でも分からなかった

会社を出て、翼宿は携帯を見る
「着信 愛華」
かつての妻の名前
もう、ずいぶん前から着信履歴に名前が続いていた
9/12ページ
スキ