スパイス

ハァハァハァハァハァ
決して足は速くない
ずっと家にいたから
誰かの為に何かをした事がない
ずっと家にいたから
だけど、今、あたしは
課長の為に走っている
「課長・・・何も言わずに行かないでよ・・・」

駅のターミナル
タクシーがたくさん停まっている
その中に
大きな鞄を持った翼宿の姿が見えた
「か・・・・・・・・・・・・・・・・ちょう!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絞り出したように叫んだ名前
翼宿は、振り向く
そこに、柳宿は抱きついた
「どわっ!」
翼宿はバランスを崩して、その場に倒れた
「な!何するんや!柳宿!お前仕事は・・・」
柳宿は涙で濡れた顔をあげた
「・・・・・・・・・・・・・・ちょ・・・」
「何で、勝手に行っちゃうんですかぁ!!」
「柳宿・・・」
「あたし・・・あたしは、課長と一緒にいる時間に安心してたんです!ドキドキもワクワクもしない!いつものあたしでいられたのは、課長の前だったから!だから、もっともっと一緒にいたい!!あたし、課長が好きって気付いたの!離れたくない!奥さんからも絶対に護るから!!勝手に大阪になんか高跳びすんな馬鹿ぁ!!」
駅前で大声で怒鳴り散らす
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柳宿」
「・・・・・・・・・・・・・へ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰が高跳びするて言うた」
「・・・・・・・だって、辞令が・・・」
「ただの日帰り出張や」
「は!?」
「てめえ、今朝配られた知らせ呼んでへんやろ」

「あ。理子さん。そういえば、この知らせ柳宿さんと理子さんの分」
星宿が、柳宿と隣のデスクの理子の分の知らせを渡す
「あら・・・知らなかった。課長、日帰り出張?」
「そうみたいですね」
星宿は微笑むと、最後のアイデア作りに取りかかる

「・・・・・・・・・・・・・・・・・あああああの!私、課長に何て事・・・あの・・・」
「ま、えぇんやないか?お前らしくて」
翼宿はコートについたゴミを払うと、立ちあがった
「23時には帰る。それまで、家の中を掃除しておけ」
「は・・・は!」
「それと、俺のごっつ好きなブランデー買って置いておけ!」
「は!」
従う柳宿に翼宿は微笑むと、そっと頬にキスをした
「・・・・・・・・・・・・・・・へ!」
「お前は一生俺が面倒見てやるから、大人しく待っとけ」
「課長・・・」

干物女最初で最後の恋
スパイスのように甘く弾ける生活が
この先に待っている
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