スパイス

『・・・別れた妻に会った』
『奥さんに・・・?』
『ちょっとモメてな。それでつい・・・すまんかった』
寂しそうに笑った翼宿の顔が
頭から離れない

「・・・さん!柳宿さん!」
「はっ!」
「朝からどうしたの?全然進んでないじゃない」
「あ・・・すみません。つい・・・」
朝から、翼宿は来ていない
「あの・・・課長どうしたんですか?」
「さあ?誰も聞いてないみたい」
そういえば、家にも朝からいなかった
そんな柳宿を、星宿はじっと見つめていた

「はあ・・・」
朝から32回目の溜息
柳宿は、1人ビールを屋上で飲んでいた
星宿を好きになれた
やっと好きになれる人を見つけた
だけど、心はちっとも踊らない
その代わり、翼宿の顔を思い浮かべると
胸が苦しくなる
「あたし、どうしちゃったの・・・?」
「柳宿さん!」
そこに、星宿が訪れた
「あ・・・星宿さん。おはようございます」
「ここ、お気に入りなんだね」
何事もなかったかのように、星宿が微笑む
「あ・・・まぁ」
上手く笑えない
すると、星宿が近寄ってきた
「昨日・・・よく眠れた?」
「あー・・・あまり。分かります?」
「顔色悪いよ。まあ、僕も眠れなかったけどね。アイデアの事もあるし・・・柳宿さんの事も」
肩に手がかかる
「え・・・ちょっと・・・」
星宿の唇が近づく
「・・・・・・・・・・・・・やだっ!」
カラン
ビールの缶が落ちる
「・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして?」
「あ・・・ごめんなさい。まだ・・・ちょっと」
「昨日は・・・課長と平気で抱き合ってたのに・・・?」
「え・・・」
背筋が凍りついた
「ごめん。会社の帰りに、お礼持って君の家に立ち寄ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・そんな。違うんです!あれは事故っていうか何ていうか・・・ただそれだけで・・・」
「柳宿さん。自分の気持ちに素直になるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・自分の気持ち」
「僕の事、「好きだと思う」って言ってくれたよね?だけど、「思う」じゃない本当の気持ちが君の中にある筈だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・星宿さん」
「課長。大阪に帰るらしいよ」
「え・・・?」
「今朝、早急に辞令が出たみたい。上層部と話してるのを見た」
「そんな・・・」
星宿は微笑むと、そっと柳宿の肩を叩いた
「行きなよ。自分の気持ち。ちゃんと伝えてきなよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・星宿さん」
今、気づいた
翼宿が好き
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