紡歌

ガチャ
「鬼宿・・・なぁに?話って」
鬼宿の部屋に美朱はやってくる
何も知らずに
「美朱・・・ごめんな。こんな夜遅くに」
鬼宿は無理に微笑む
「あ・・・もしかして、柳宿に何か聞いた?」
「ん・・・いや」
「ごめんね・・・自分で伝えればよかったんだけど、自信なくて。鬼宿・・・あたしは、巫女と七星の運命があったって鬼宿の事が好きだよ。だから、もしも誤解しているんだったら・・・」
鬼宿は、そっと美朱の頭を撫でる
「ごめんな・・・美朱。俺さ・・・お前を傷つけるかもしれない」
「どういう意味・・・?」
「俺の事一生恨んでくれたっていい。だけど、美朱だから打ち明けるんだ」
美朱が喉を鳴らす音が聞こえる
「俺・・・好きな奴出来た」
神妙な空気が流れる
「え・・・好きな人って・・・」
「本当にごめん。このまま黙っててもお前を傷つけるだけだって分かったから」
「待ってよ、鬼宿・・・その人って」
「そいつの為にも、名前は言えない。だけど、分かってほしい。・・・ほら。巫女と七星は結ばれない運命なんだし、ちょうどよくないか?俺もお前もこれ以上頑張らなくて済むんだぜ」
自分でも酷い事を言っている事は分かっている
美朱の瞳に涙が浮かんだ事だって分かっている
「だから・・・・・・・・・・・・・・・ごめんっ!!」
鬼宿は、部屋を飛び出した
握り締めた両の拳に涙が伝って落ちたと分かった時、美朱は大声で泣いた

夕立ちが降ったらしく、地面は濡れていた
柳宿は森の中を歩いて行く
鬼宿と翼宿の心を同時に掴んでしまった
自分はどちらにも返事をしていない
そして、鬼宿は今頃美朱に別離を告げているだろう
自分の存在は、これからの旅で間違いなく重荷になる
想われている事は嬉しい筈なのに、とても心が苦しい
どうすれば、誰も傷つかなくて済むんだろう
「柳宿?」
後ろから声が聞こえる
「翼宿・・・」
「お前、こんな夜中にこそっとどこ行くねん」
「別に・・・関係ないでしょ。あたしがどこへ行こうと」
冷たく突き放す
「翼宿ぃ・・・あたしさ、今回の旅パスしようかな」
「は?」
「何か邪魔じゃない?色んな意味で」
「お前、何言うとるん」
「嫌なの・・・あたしのせいで誰かが傷ついてるのは・・・」
「おい、お前・・・」
「触らないで!」
ズルッ
足場が崩れた
「・・・・・・・・・・・・・っ!!」
「柳宿っ!!」
柳宿は、翼宿に腕を掴まれた
葉で隠れた崖から足を滑らせたのだ
「翼宿っ・・・」
「動くな!!絶対動くなよ!!」
腕を掴む彼の手に、また顔が赤くなる
「・・・・・・・・・・・いいから・・・構わないでよ。一人で登れる・・・」
「えぇから!!!!黙っとけ!!!!」
彼の凄い形相に、柳宿はびくつく

ハァハァハァハァ
柳宿は、無事に引き上げられた
「お前・・・冗談やないで。俺のせいなら、俺のせいて言うたらえぇやないか・・・」
翼宿は、まだ鬼宿に告白された事を知らない
柳宿の頬に涙が伝った
「おい・・・」
「だって・・・・・・・・・・・だって、しょうがないじゃない!!決められない・・・決められないの、あたしは・・・!!」
「落ち着け・・・おい!!」
柳宿は、その場から走り去った

宮殿の外に出ると、嫌な空気が流れた
鬼宿は、全て言い終えたといった妙な達成感を覚えていた
「・・・・・・・・・・・・鬼宿」
鬼宿は振り向いた
柳宿が立っていた
涙で頬を濡らして
「柳宿・・・どうしたんだ?」
「あたし・・・どうして・・・」
俯いた柳宿の頬にそっと触れる
「・・・・・・・・・・・・・・二人で、逃げないか?」
愛の逃避行
6/10ページ
スキ