Making of the Moon【柳宿side】

日曜日
「あれ?柳宿とパパは?」
「ドライブ」
母親の問いに、呂候は悪戯に微笑みながら答える

ブロロロロロロ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人は、終始無言のまま
「・・・・・・・何か飲むか?」
「いらない」
「そうか・・・」
これは父親がリードしなければと、父親から話しかけるのだが
中々話が続かない
「・・・・・・・・・・・・・晴れてよかったなぁ」
「うん」
「海にでも行くか。柳宿」
「何でパパとこんな冬に・・・」
「嫌か?」
「車の中からなら」
「そうか・・・」

暖房をきかせた車の中で、二人は海を眺める
「・・・・・・・一度、家族で海に来た事あったよなぁ」
「そうだね」
「パパがこの家族に新入りした日の事だ」
「・・・・・・・・・・・・うん」
「正直不安だった」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「だけど、お前たち特に・・・・柳宿は優しかった」
「え・・・?」
「俺を何の抵抗もなく受け入れてくれた時、俺はこの娘は世界一優しい娘になると思った」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だからこそ、こんな美しい娘に羽ばたいてほしいと思ったんだ」
「パパ・・・それは」
「だけど、俺はピアノと一緒に生きてきたお前を少しも知らなかった」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ママから聞いたよ。お前と生前の父親の話を」
「・・・・・・・・・・・・・」
「交通事故に遭ったのは・・・お前の新しいピアノを彼が一人で下見に行った日だったんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だから、君はピアノをやめた。彼の死を受け入れようと」
「そうだよ」
「だけど、あのバンドに出会ってお前はもう一度鍵盤に指を置いたんだ」
「・・・・・・・うん」
「一時はパパも応援したよ。だけど、それも長くは続かないと思っていた。現に解散してしまった」
「それはそうだけど・・・」
柳宿は、父に向きあう
「だけどね。パパ・・・これだけは譲れない。あたしはピアノを教えていきたい。パパの分まで・・・ピアノの素晴らしさをみんなに教えたいの。誰でもいいって思うかもしれないけど・・・あたしが教えたい。あたしのやり方で・・・これからもずっと」
「・・・・・・・・柳宿」
父は窓の外の景色に視線を移した
「・・・・・・・・それだけじゃないだろ?」
「え?」
「大事な人の為にもやめられないんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「その人のお陰でも、今の柳宿があるんだもんな?」
「うん・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・分かった」
「パパ・・・」
「もう何も言わない」
父親は、渋々ではあるがそっと了解した
「ありがとう・・・・・・・・・・・・」
カモメの声が遠くで聞こえたような気がした
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