Making of the Moon【柳宿side】

「ただいまぁ」
「柳宿。お帰り!!今日も、仕事は何ともなかった?」
「平気平気!!兄貴心配しすぎだよぉ~」
柳宿は笑いながら、食卓に入る
「ただいま・・・」
「柳宿。夕食の前にお前に話がある」
父が神妙な面持ちで、こちらを見つめている
「な・・・何よぉ?深刻な顔しちゃって」
母親も隣に座る
呂候と共に、柳宿は首を傾げる
「何・・・」
そこに差し出された一通の書類
『紅南女優養成専門学校』
「パパ・・・」
「悪い事は言わない。今こそ、もう一度挑戦する時だ」
「何言ってるの?やっと今の仕事安定してきたのに・・・」
「この間、トラブルを起こしたばっかりだろう。お前には一般の仕事など所詮無理なんだ」
「どうしてそんな事言うのよ・・・あたしは、表向きの仕事はもうやらないって決めたの」
「何が不満なんだ・・・お前なら、絶対に売れる事間違いなしだって・・・ここの校長先生も言ってくださったんだぞ?」
「お言葉ですが、お父さん。僕も反対です」
呂候も、間に割って入った
「普通の音楽家なら、メディアの世界というキラキラした場所が好きかも知れない。だけど、柳宿は違うんだよ?色々な子供たちにピアノの素晴らしさを教えたいという夢がある。その夢は、誰にも消す事は出来ないんだよ」
「兄貴・・・」
「別にピアノを教えるのはお前じゃなくたって・・・」
「パパは知らないんだよ!!」
途端に大声をあげる柳宿
「・・・前のパパに教えて貰ったピアノを弾く喜びや苦しみが、今のあたしを作ったって事を」
途端に、母親と呂候は俯く
「あたしがピアノを捨てるって事は・・・パパとの思い出を捨てる事なんだよ!!」
そのまま、柳宿は部屋を飛び出した
「柳宿!!」

バタン
自分の部屋のドアを閉める
途端に目に入ったピアノの上の写真立て
それは、生前父親と一緒にピアノのコンクールで撮影した一枚の写真だった
パパのお陰で、あたしは自分を好きになれた
たくさんの仲間や、愛する人に会えたんだ
それを忘れたくないのに
なぜか涙が溢れた
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