Making of the Moon【柳宿side】

「加奈子さん・・・あたし・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あたしだって、信じたくないわよ」
何とか、興奮する蛍の母親を帰して、二人は事務室に閉じこもっていた
「・・・・・・・・あたし、してません・・・」
「だけどね、柳宿・・・証拠の写真まで持ってきたのよ?」
「してないんです!!昨日もいつも通り帰りました!!」
「何か、彼女を傷つける事を言ったとかは?」
「予選に出ないかって・・・言っただけです」
思い当たる節が全然ない
彼女が故意にこのような事をしたなら、何か自分に恨みを持っているのだろうか

とりあえず、帰宅を命じられた柳宿
溜息をつきながら、自宅へ向かう
しかし、頭の中は蛍の事でいっぱい
すると、公園のブランコに人影が見えた
「・・・・・・・蛍ちゃん?」
すぐさま、柳宿は駆け寄った
「蛍ちゃん・・・あなた」
蛍は気づくと、そのまま駆けだそうとした
「待って!!訳を聞かせて・・・怒らないから」
怒っては駄目だ
蛍は振り返らないで、呟いた
「先日の・・・・・・・・・・・・・・・海外でやった演奏会見ました」
「え・・・」
「柳宿さん・・・凄いですね。やっぱりあなたは才能がある素晴らしい人です」
よそよそしい敬語になっている
「・・・・・私は挫折組。負け組だから・・・いくらあなたに教えて貰ったって、落ち目が出るだけです」
「何言ってるの・・・あなただって頑張れば・・・」
「そういうのが・・・!!」
蛍は振り返った
泣いていた
「そういう「頑張れば出来る」って言葉が一番嫌いなんです・・・!!私の先生もそう言ってた・・・だけど、駄目だった・・・先生なんてみんなう嘘つきなんだっ・・・」
誰よりも負けず嫌いで、誰よりもピアノが好きだから
「人生が順調な柳宿先生だって、少しは苦労すればあたしの痛みが分かるでしょ・・・!?」
だから、自分の体に傷をつけた
「クビかもしれないね・・・せっかくなった先生かもしれないけど」
「弱虫・・・」
柳宿は、思わずそんな言葉を呟いていた
「あんたは・・・・・・・・・・・・弱虫よ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「何も変わってないんじゃない・・・どんなにピアノが好きだって・・・過去にしがみついてばかりじゃ何も変わらないのよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あたしは・・・そのお手伝いが出来ればと思ったのに・・・そうやって、一生逃げてればいいのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あたしは負けないから。どんな事があっても、自分を押し通してみせる」
そのまま、柳宿は駆けだした

音楽の世界は、才能の世界
そんな事は、誰よりも柳宿が一番分かっている
だからこそ、応援していたのに
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