Making of the Moon【柳宿side】

「柳宿。今日で帰国ね・・・」
「はい」
「いい勉強になった?」
「はい!!お家の方々も親切にしてくださったので、楽しかったです!!」
「そう。あなたは、女としてもピアニストとしても成長したと思うわ。これからも自信を持って」
「はい・・・よろしくお願いします!!」
「今日の夜の最終便で発つわ」
「え・・・最終便?」
「・・・・・・・・・・・・・・・まだ、やり残した事があるでしょう?」
柳宿は、静かに首を振る
「いいんです・・・加奈子さん。あたし・・・」
「あたしからもお願いよ。会ってやってちょうだい」
「加奈子さん・・・?」
翼宿の報道は、まだ柳宿の耳には入っていない

『最終便の時間まで、LA駅の像の前で待ってる』
そうメールをしたはいいものの、大して期待はしていなかった
翼宿の中で心の整理がまだついていないのかもしれないし
逆に前より忙しくなったのかもしれない
今は、距離が近いせいか素直にそう思えるようになった
彼と同じ空気を吸える事が、今は一番幸せなのだから
バサッ
荷物の整理をしていると、加奈子の荷物から何かが落ちた
「加奈子さんったら~ちゃんとしまわなきゃ・・・」
その雑誌を拾い上げて、柳宿はギクリとなった
「翼宿、熱愛発覚」
「柳宿?何見て・・・」
加奈子が、部屋に入ってきた
「それは・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・加奈子さん、知ってたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
初めてのスキャンダル報道だった
「・・・・・・・・・あのさ。柳宿・・・彼はそんなだらしない人間じゃないわよ・・・あんた、今まで見てきたんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・はい」
だけど、柳宿は割と冷静だった
「焦らない・・・の?」
「・・・・・・・・・・・・・・もう振り回されるのは慣れました」
柳宿は、微笑んだ
「あたしが今出来る事は、彼の返事を待つ事。それだけです」
Pllllllllllllllll
『桜井様。お客様がお呼びです』
「あら・・・誰かしら?」
『MICHEALさんという方が、お連れ様にお会いしたいと・・・』
その言葉に、柳宿はハッとなる
「・・・・・・・・何か聞けるかも・・・よ?」
加奈子は、ポンと柳宿の背中を押した

ホテルのロビーの椅子で待っていたのは、二年前に翼宿をプロデュースした人物
『やぁ・・・柳宿君。久し振りだね』
MICHEALは、握手を求めてきた
『お久しぶりです・・・演奏会も来てくださっていたみたいで・・・すみません。挨拶もなしに』
『いいんだよ。演奏会とても素晴らしかった。君からだと会いづらいだろうと思ってね。私からお邪魔したんだ』
『・・・あの。また、何で・・・』
『・・・・・・・・少し、彼の事を教えておこうと思ってね』

傍の喫茶店に入る
『翼宿と杏君については・・・君を色々と困惑させたようだね。奎介から聞いていた』
『すみません・・・大袈裟にしてしまって』
『いや・・・今回の事も君に一番申し訳ないと思っている』
『そんな事言わないでください!!同じメンバーが認められたんですもの・・・喜ばなきゃ』
『やはり、翼宿の選んだ女性だな。気高く強い』
『え・・・』
『あの報道の事は、知っているか?』
『はい・・・』
『あれは、私の通訳をやっている女性なんだ。決して関係は持っていない。翼宿に対して何かと世話を焼いていてね。杏君が死んでから翼宿は抜け殻になったみたいだった。玲は・・・それを心配して行動したんだ』
『ご迷惑・・・おかけしました』
『だけど、お陰で今は新曲も発表した。もうすぐメディアにも出られる。もうすぐの辛抱だよ』
『・・・・・・・・・・・わざわざありがとうございます。あたしは、大丈夫です。ただ・・・この騒ぎだと翼宿・・・また外には・・・』
『出られないだろう。今は謹慎中だ』
だから、彼はメールを返さないのだ
『私・・・今回はピアノの研修で来ただけなんです。彼が元気なら・・・それでいいんです』
『本当に・・・』
MICHEALの口調が変わった
『本当に・・・いいんだね?』
『・・・はい』
今夜、彼に会えなくてもそれでもいいんだ

「じゃあ・・・また迎えに来るから。三時間後ね?あんまり体冷やさないのよ」
荷物をまとめ、柳宿は例の待ち合わせ場所に来ていた
「・・・・・・・・あまり期待しないでくださいねぇ!!会えなくても、どうか寛大に接してください!!」
「柳宿・・・」
強がる柳宿の頭を、加奈子はそっと撫でる
「あたしは・・・あんたの味方だから。一人で抱え込まないでね?」
「・・・・・・・・・・・ありがとうございます」
彼は、来るだろうか?
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