Making of the Moon【柳宿side】
あの日、世間に疲れたあたしを拾ってくれたのはあなたでした
「柳宿~突然なんだけど、今度の日曜、ライヴ行かない?」
世間は受験シーズン
しかも受験期の冬といえば、受験生にとって追い込みの時期である
そんな中、名を呼ばれて振り向いた柳宿
「え??鳳綺・・・どうしたの?急にライヴなんて・・・」
声をかけたのは、親友の鳳綺
しかも身なりは、いかにもライヴといった感じでもないお嬢様
まぁ、既に彼女は推薦で行く高校が決まっていたが
「朱雀高校の星先輩がギターやってるバンドが出るのよ!!このバンド、イケメンが多いらしくてさ!!地元でも一番人気のバンドらしいのよ!!このチケットだって、苦労してやっと手に入れたんだから!!柳宿だって、ピアノやってたんだから、バンドに興味あるでしょ??」
「・・・バンドかぁ・・・」
実は、柳宿は今年の春の進路がまだ決まっていなかった
自分のやりたい事が見つからないのだ
このまま平凡に進学するのが無難だが、親や担任からは
「柳宿は顔立ちが整っているから、女優やモデル向きだ」と言われている
しかし、柳宿がやりたいものはそんなものじゃない
いつしか柳宿は自分を見失い、親や担任からのプレッシャーや友達との格差に押しつぶされる毎日を送っていた
そんな柳宿だからこそ、鳳綺は声をかけたのかもしれないが
「気晴らしにいいかもね」
「本当!?じゃ、日曜の17時にCLUB SUZAKUで待ち合わせね★」
そう言って、手渡されたライヴチケット
その中に一際大きく書かれたバンド名
『FIRE BRESS』
(バンドかぁ・・・若い頃からステージに立って演奏出来るなんていいよね・・・)
ライヴ当日
17時半開場のライヴハウスは、たくさんの女性ファンでごった返していた
「柳宿~」
「鳳綺!!何なの、この人の数!!ライヴハウスってこんな最初から並ぶもんなの??」
「全員、FIRE BRESSのファンよ!!早く入らないといい位置取られちゃうからね!!」
「そんなに・・・」
地元バンドなのに、こんなに人気があるのか
柳宿は予想以上に凄いバンドを目の当たりにするのだと実感し、緊張が走った
中に入ると、既にステージ前には女性ファンが陣固めをしている
「もう少し前に行けたらなぁ・・・まぁ、常連ファンには敵わないか」
「いいじゃない、見れるだけ!!このチケット取るのに苦労したんでしょ??」
「そうよ!!知り合いの先輩に頼んで、取ってて貰ったんだもの!!あ~、星先輩・・・」
鳳綺は、懐から大きな花束を取り出した
「鳳綺・・・」
「終わったら、あげるのよ!!」
「さすがね・・・」
その時
キャーーーーーーーーーーーーーー
照明が消え、4人の男性がステージに出てきた
「あの真ん中の人が星先輩よ!!」
まだ暗くて、誰が誰だか分からない
みんな音のチェックをしているようだ
暫くして、真ん中の星が手を挙げてスタッフに合図した
『こんばんは、FIRE BRESSです』
キャーーーーーーーーーーーーーーー
途端に赤い照明がステージを照らした
「きゃ~~~~~~、星先輩~~~~~~」
一曲目が始まった
まだ明るさで目が眩む
柳宿は必死にメンバーの一人一人を目で追った
髪の毛を少し長めに伸ばしている金髪のドラム
赤髪で派手な見た目だが、どこか落ち着いているギター
真ん中でギターボーカルをしている黒い長髪の男
恐らく、彼が鳳綺が大ファンの星
まぁ、想像していた通り、いかにもバンドマンといった感じの面子だ
しかし、最後のベースを見て、柳宿の視線はそこで止まってしまった
その男は、橙色の珍しい色の髪の毛をツンツンに立てて、三白眼で一番人相はきつく見えるものの長いしなやかな指で確実にベースを弾いている
(何だろ・・・あの人・・・目が離れない・・・)
その雰囲気に引き寄せられるように、柳宿は彼のベースに魅入っていた
暫く、鳳綺は星に魅入っていたが、視点が止まったままの柳宿に気づいた
「もしかして、翼宿先輩見てる??」
「えっ??」
「あの橙色の髪の毛のベースの人でしょ??彼、このバンドで一番人気よ??柳宿が魅入るなんて、意外なタイプだけどね~」
「そうなんだ・・・」
「何??もしかして、気に入っちゃった??」
「そんな事ある訳ないじゃないの!!」
そう言いながらも、また魅入る
すると彼と一瞬目が合った
胸が高鳴った
(何・・・??何かあの人を見てると・・・凄い眩しい・・・)
ベースを弾いているだけで、特に何もパフォーマンスをしていない男だったが
柳宿は、彼が放つ特殊なオーラにただただ導かれていた
『ありがとうございました!!』
気づくと、演奏が終わっていた
「・・・宿。柳宿!!」
「はっ!!」
「どうしたの??さっきから、上の空で・・・もう演奏終わったわよ??」
「あっ・・・そう・・・」
「他のバンドもせっかくだから見てかない??その後、私、星先輩に花束渡しに行くから♪」
しかし、その後のバンドには何も先ほどのような違和感はなかった
ベースを集中して見てみても、何も変化はなし
あの人だから
あの人だったからなのだ・・・
全てのバンド演奏が終了した
「さっ!!早くもファンが動き出したし、私は行くけど・・・柳宿、どうする??」
「あたし、ココにいるわよ。何かみんな出てくみたいだし」
「そか。じゃあ、花束渡したらすぐに戻ってくるからね!!」
柳宿は、あっという間に空っぽになったライヴブースの椅子に腰かけた
あっという間に駆け抜けた時間だった
彼も今頃、たくさんの女の子に囲まれてるんだろうなぁ・・・
一番人気だもんなぁ・・・
ふと、ステージを見上げる
いいな、あたしも見つけたいな
キラキラに輝ける場所
すると
バサッ
物陰から人が出てきた
スタッフだろうかとよく目を凝らしていると
「・・・あ」
さっき、見たベースの男だった
確か、名前が「翼宿」とかいう・・・
ベースを持って、アンプに繋いでいる
(あれ・・・さっき、メンバーと外出たんじゃないのかな・・・)
~~~~~~~
逞しいベースの音が響く
すると、足元にあった花束の山に彼は気づいた
その時
彼が此方に気づいた
途端に鼓動が鳴った
「何や。人いたんか・・・」
関西弁・・・
驚いた
「あんた、行かへんのか?外、ごった返してるけど」
「いえっ・・・あたしは、別に・・・友達の付き添いなんで・・・」
「珍しいな。うちのバンド見た奴、みんな星の虜になるんやけど」
ベースのシールドを抜いて丸める
「・・・貴方こそ・・・大人気なんでしょ?どうして、こんなトコでベース弾いてるの?」
「別に・・・俺は、ファン作りたくてバンドやってる訳やないからな。わざわざサービスで外に出るつもりあらへんし」
(そっか・・・だから、花束、ステージの上に置いて帰る人がいるんだ)
それにしてもさっきからドキドキしてるこの感覚は何なんだ!?
すると、彼は煙草を取り出して火をつけて、ステージに座った
「・・・楽しいでしょ?」
「あ?」
「こんなステージでベース弾けるの」
「まぁ、ここは俺らの穴場みたいなもんやからな」
「そうなんだ・・・あたし、何も知らないで来ちゃったのよね・・・」
「ホンマ珍しいな。もしかして、ライヴ初めて来たん?」
「そ・・・ね・・・外からしか見てなかったから、中に入るのは初めて」
「怖くないん?」
「え?」
「俺」
確かに一見見ると、一番怖そうな顔つきである
「全然・・・」
「ホンマかぁ?」
「うん・・・寧ろ、一番輝いてたよ、あんた」
「え?」
「何か素直に見れる演奏だった」
「・・・へぇ。褒められるのなんて初めてやな」
「いいね・・・」
そこで、彼は柳宿を見た
「あたしも・・・あんたみたいに輝けたらな・・・」
「・・・・・・・・」
そこで、沈黙
「悩みあって、来とるやろ」
「・・・まぁねぇ・・・」
そこで、ベースの少年翼宿は笑った
「なっ・・・何で笑うのよ!?」
「だって・・・お前、ホンマ変わってるな。ライヴに癒し求める奴なんぞ、相当あらへんぞ?」
「そうなの・・・?気分転換にって思って」
「気分転換にしては、かなり煩い曲ばっかやったろ」
「ま・・・そりゃね」
すっかり普通に話せてしまっている
「・・・あたしさ、全然駄目なんだ。自分が熱くなれるものが全然見つからない。周りに流されてばっかで、一人では何も決められないの。もうすぐ高校受験なのに、本当やんなっちゃう」
「・・・・・・・」
彼の吸っている煙草の煙がゆっくり立ち昇っている
「ごめん。本当何話してんだか・・・あたし」
「別に・・・高校受験だけが人生の分岐点やない」
「え?」
「あくまで通過点や。分岐点は、自分で決めるもんや」
「・・・通過点・・・」
「俺かて、中学中退したしな」
「本当!?」
「こんなナリやしな。煙草も酒も手つけるの早かったし。親にも見離された」
バンドマンは、孤独を抱えているというが、彼もやはりそうだったのか
「だけど・・・ちゃんと自分のやりたい事もやってるんだ・・・」
「そうせぇへんとな。俺のプライドが許さん」
そんな風に正直に生きられたらいいな
「俺かて、ベースに出会ったんはホンマ最近や。今から焦らんでもえぇやろ」
翼宿はステージから降りた
「・・・行くの?」
「あぁ。もうすぐメンバー帰ってくるからな」
もっと話していたかった
もっと彼から色々教わりたい
「・・・待って!!!」
「・・・とは言ったものの・・・」
家に帰って携帯とにらめっこする
「何で連絡先なんて聞いてんのよ・・・超変な子じゃん」
別にファンでもなければ、知り合いでもないのに、柳宿はつい勢いでメアドを聞いてしまったのだ
案外、すんなりと教えてくれたのは意外だったけど
「まぁ・・・いいや」
柳宿は電話帳のページを開いたまま、ベッドに仰向けに転がった
「翼宿・・・か」
名前を呼ぶ
何となく繋がってるだけで安心した
また鳳綺が、ライヴの情報を仕入れてくれるだろう
それにいつか自分のやりたい事が見つかる気がした
それから一週間後
柳宿は用事があって、進路指導室を訪れていた
先生に頼んで、色々と資料を見せて貰いたかったからだ
ドアの前まで来て、ノックをしようとした時
「後、進路が決まってないのは・・・柳宿だけか」
先生の声にその手は止まる
「・・・どうするんですか?彼女、このまま浪人なんて事は・・・」
「実はご両親から内密で・・・女優養成学校への書類を勝手に送ったと連絡があってな」
柳宿は鞄を落とした
(嘘・・・)
「まぁ・・・あの子のやりたいようにやらせるのが一番だが・・・こればっかりはな」
「そうですね。私もその方が彼女には適任だと思います」
柳宿は駆け出した
外は雷雨
(そんな・・・事・・・ないでしょ・・・!?勝手に人の将来決めて・・・)
昨日まで、家族は自分に対して普通に接してくれていた
最近は進路に関して色々と口出しをしてこなかったのに
勝手に書類を送られた・・・?
自分が寝静まってから、両親二人で遅くまでこっそり書類を書いていた様子が目に浮かぶ
(最低・・・)
女優は、才能の塊だ
自分には全然才能がないのに、見た目だけで評価されて、周りからの嫌らしい目に耐えられる訳がない
その時
「会いたい・・・」
呟いた
あの熱い男
何もかも投げ出して、自分のやりたい事本当に楽しんでいて輝いていたあの人に
メールの作成画面を開く
「アイタイ」
来る訳ないと分かっていた
場所も言わなければ、番号も教えていない
とある高校の路地裏に座り込む
柳宿は泣き出した
誰でもいいから、助けて
誰でもいいから、信じさせて
どれくらい時間が経っただろうか
雨は小降りになっていた
遠くで部活動から帰る生徒の話し声が聞こえる
(やっぱり・・・メール見ても・・・来られる訳ないよね)
もう会えないというのも分かっていた
あんなメールを送った後だから
家にも帰りたくない
どこへ行けばいいのか
すると
ザクッ
抜かるんだ土を踏む音が聞こえた
そっと顔をあげる
そこには
「・・・あ」
制服を着崩して、ベースを背負った翼宿の姿
片手には携帯を持っている
「何しとんねん。お前」
「たす・・・きっ・・・あたし・・・なんで・・・」
「せやかて、ここ、うちの学校や」
そうなんだ
神様も親切なものだ
こんな偶然もあるんだ
「あたし・・・もう分かんない。親には勝手に・・・女優の学校に書類送られるし・・・あたしだって・・・好きで分かんなくなってんじゃない・・・だけど・・・誰もあたしの気持ち・・・分かってくれないの・・・」
周りから同情の目を向けられて、周りから勝手に将来を決められて
「自分」が分からない
「せやったら、一緒にバンドやるか?柳宿」
彼はそう言葉を言い放った
柳宿は顔をあげた
「え・・・?」
「そんな書類、俺が破ったる」
「・・・・・」
「俺と一緒にやればえぇ」
自分本位に聞こえるけれど、彼が支えてくれる?
自分の将来を
いいんだ
周りに遠慮しなくて
壁があればぶち壊せばいい
それでも自分を信じて進めば、きっと答えが見つかる
翼宿は、あたしにそう教えてくれたんだ
「よろしく。柳宿」
素敵なリーダードラマーとの出会い
そして、3人の長く苦しい戦いが始まるのだ
「柳宿~突然なんだけど、今度の日曜、ライヴ行かない?」
世間は受験シーズン
しかも受験期の冬といえば、受験生にとって追い込みの時期である
そんな中、名を呼ばれて振り向いた柳宿
「え??鳳綺・・・どうしたの?急にライヴなんて・・・」
声をかけたのは、親友の鳳綺
しかも身なりは、いかにもライヴといった感じでもないお嬢様
まぁ、既に彼女は推薦で行く高校が決まっていたが
「朱雀高校の星先輩がギターやってるバンドが出るのよ!!このバンド、イケメンが多いらしくてさ!!地元でも一番人気のバンドらしいのよ!!このチケットだって、苦労してやっと手に入れたんだから!!柳宿だって、ピアノやってたんだから、バンドに興味あるでしょ??」
「・・・バンドかぁ・・・」
実は、柳宿は今年の春の進路がまだ決まっていなかった
自分のやりたい事が見つからないのだ
このまま平凡に進学するのが無難だが、親や担任からは
「柳宿は顔立ちが整っているから、女優やモデル向きだ」と言われている
しかし、柳宿がやりたいものはそんなものじゃない
いつしか柳宿は自分を見失い、親や担任からのプレッシャーや友達との格差に押しつぶされる毎日を送っていた
そんな柳宿だからこそ、鳳綺は声をかけたのかもしれないが
「気晴らしにいいかもね」
「本当!?じゃ、日曜の17時にCLUB SUZAKUで待ち合わせね★」
そう言って、手渡されたライヴチケット
その中に一際大きく書かれたバンド名
『FIRE BRESS』
(バンドかぁ・・・若い頃からステージに立って演奏出来るなんていいよね・・・)
ライヴ当日
17時半開場のライヴハウスは、たくさんの女性ファンでごった返していた
「柳宿~」
「鳳綺!!何なの、この人の数!!ライヴハウスってこんな最初から並ぶもんなの??」
「全員、FIRE BRESSのファンよ!!早く入らないといい位置取られちゃうからね!!」
「そんなに・・・」
地元バンドなのに、こんなに人気があるのか
柳宿は予想以上に凄いバンドを目の当たりにするのだと実感し、緊張が走った
中に入ると、既にステージ前には女性ファンが陣固めをしている
「もう少し前に行けたらなぁ・・・まぁ、常連ファンには敵わないか」
「いいじゃない、見れるだけ!!このチケット取るのに苦労したんでしょ??」
「そうよ!!知り合いの先輩に頼んで、取ってて貰ったんだもの!!あ~、星先輩・・・」
鳳綺は、懐から大きな花束を取り出した
「鳳綺・・・」
「終わったら、あげるのよ!!」
「さすがね・・・」
その時
キャーーーーーーーーーーーーーー
照明が消え、4人の男性がステージに出てきた
「あの真ん中の人が星先輩よ!!」
まだ暗くて、誰が誰だか分からない
みんな音のチェックをしているようだ
暫くして、真ん中の星が手を挙げてスタッフに合図した
『こんばんは、FIRE BRESSです』
キャーーーーーーーーーーーーーーー
途端に赤い照明がステージを照らした
「きゃ~~~~~~、星先輩~~~~~~」
一曲目が始まった
まだ明るさで目が眩む
柳宿は必死にメンバーの一人一人を目で追った
髪の毛を少し長めに伸ばしている金髪のドラム
赤髪で派手な見た目だが、どこか落ち着いているギター
真ん中でギターボーカルをしている黒い長髪の男
恐らく、彼が鳳綺が大ファンの星
まぁ、想像していた通り、いかにもバンドマンといった感じの面子だ
しかし、最後のベースを見て、柳宿の視線はそこで止まってしまった
その男は、橙色の珍しい色の髪の毛をツンツンに立てて、三白眼で一番人相はきつく見えるものの長いしなやかな指で確実にベースを弾いている
(何だろ・・・あの人・・・目が離れない・・・)
その雰囲気に引き寄せられるように、柳宿は彼のベースに魅入っていた
暫く、鳳綺は星に魅入っていたが、視点が止まったままの柳宿に気づいた
「もしかして、翼宿先輩見てる??」
「えっ??」
「あの橙色の髪の毛のベースの人でしょ??彼、このバンドで一番人気よ??柳宿が魅入るなんて、意外なタイプだけどね~」
「そうなんだ・・・」
「何??もしかして、気に入っちゃった??」
「そんな事ある訳ないじゃないの!!」
そう言いながらも、また魅入る
すると彼と一瞬目が合った
胸が高鳴った
(何・・・??何かあの人を見てると・・・凄い眩しい・・・)
ベースを弾いているだけで、特に何もパフォーマンスをしていない男だったが
柳宿は、彼が放つ特殊なオーラにただただ導かれていた
『ありがとうございました!!』
気づくと、演奏が終わっていた
「・・・宿。柳宿!!」
「はっ!!」
「どうしたの??さっきから、上の空で・・・もう演奏終わったわよ??」
「あっ・・・そう・・・」
「他のバンドもせっかくだから見てかない??その後、私、星先輩に花束渡しに行くから♪」
しかし、その後のバンドには何も先ほどのような違和感はなかった
ベースを集中して見てみても、何も変化はなし
あの人だから
あの人だったからなのだ・・・
全てのバンド演奏が終了した
「さっ!!早くもファンが動き出したし、私は行くけど・・・柳宿、どうする??」
「あたし、ココにいるわよ。何かみんな出てくみたいだし」
「そか。じゃあ、花束渡したらすぐに戻ってくるからね!!」
柳宿は、あっという間に空っぽになったライヴブースの椅子に腰かけた
あっという間に駆け抜けた時間だった
彼も今頃、たくさんの女の子に囲まれてるんだろうなぁ・・・
一番人気だもんなぁ・・・
ふと、ステージを見上げる
いいな、あたしも見つけたいな
キラキラに輝ける場所
すると
バサッ
物陰から人が出てきた
スタッフだろうかとよく目を凝らしていると
「・・・あ」
さっき、見たベースの男だった
確か、名前が「翼宿」とかいう・・・
ベースを持って、アンプに繋いでいる
(あれ・・・さっき、メンバーと外出たんじゃないのかな・・・)
~~~~~~~
逞しいベースの音が響く
すると、足元にあった花束の山に彼は気づいた
その時
彼が此方に気づいた
途端に鼓動が鳴った
「何や。人いたんか・・・」
関西弁・・・
驚いた
「あんた、行かへんのか?外、ごった返してるけど」
「いえっ・・・あたしは、別に・・・友達の付き添いなんで・・・」
「珍しいな。うちのバンド見た奴、みんな星の虜になるんやけど」
ベースのシールドを抜いて丸める
「・・・貴方こそ・・・大人気なんでしょ?どうして、こんなトコでベース弾いてるの?」
「別に・・・俺は、ファン作りたくてバンドやってる訳やないからな。わざわざサービスで外に出るつもりあらへんし」
(そっか・・・だから、花束、ステージの上に置いて帰る人がいるんだ)
それにしてもさっきからドキドキしてるこの感覚は何なんだ!?
すると、彼は煙草を取り出して火をつけて、ステージに座った
「・・・楽しいでしょ?」
「あ?」
「こんなステージでベース弾けるの」
「まぁ、ここは俺らの穴場みたいなもんやからな」
「そうなんだ・・・あたし、何も知らないで来ちゃったのよね・・・」
「ホンマ珍しいな。もしかして、ライヴ初めて来たん?」
「そ・・・ね・・・外からしか見てなかったから、中に入るのは初めて」
「怖くないん?」
「え?」
「俺」
確かに一見見ると、一番怖そうな顔つきである
「全然・・・」
「ホンマかぁ?」
「うん・・・寧ろ、一番輝いてたよ、あんた」
「え?」
「何か素直に見れる演奏だった」
「・・・へぇ。褒められるのなんて初めてやな」
「いいね・・・」
そこで、彼は柳宿を見た
「あたしも・・・あんたみたいに輝けたらな・・・」
「・・・・・・・・」
そこで、沈黙
「悩みあって、来とるやろ」
「・・・まぁねぇ・・・」
そこで、ベースの少年翼宿は笑った
「なっ・・・何で笑うのよ!?」
「だって・・・お前、ホンマ変わってるな。ライヴに癒し求める奴なんぞ、相当あらへんぞ?」
「そうなの・・・?気分転換にって思って」
「気分転換にしては、かなり煩い曲ばっかやったろ」
「ま・・・そりゃね」
すっかり普通に話せてしまっている
「・・・あたしさ、全然駄目なんだ。自分が熱くなれるものが全然見つからない。周りに流されてばっかで、一人では何も決められないの。もうすぐ高校受験なのに、本当やんなっちゃう」
「・・・・・・・」
彼の吸っている煙草の煙がゆっくり立ち昇っている
「ごめん。本当何話してんだか・・・あたし」
「別に・・・高校受験だけが人生の分岐点やない」
「え?」
「あくまで通過点や。分岐点は、自分で決めるもんや」
「・・・通過点・・・」
「俺かて、中学中退したしな」
「本当!?」
「こんなナリやしな。煙草も酒も手つけるの早かったし。親にも見離された」
バンドマンは、孤独を抱えているというが、彼もやはりそうだったのか
「だけど・・・ちゃんと自分のやりたい事もやってるんだ・・・」
「そうせぇへんとな。俺のプライドが許さん」
そんな風に正直に生きられたらいいな
「俺かて、ベースに出会ったんはホンマ最近や。今から焦らんでもえぇやろ」
翼宿はステージから降りた
「・・・行くの?」
「あぁ。もうすぐメンバー帰ってくるからな」
もっと話していたかった
もっと彼から色々教わりたい
「・・・待って!!!」
「・・・とは言ったものの・・・」
家に帰って携帯とにらめっこする
「何で連絡先なんて聞いてんのよ・・・超変な子じゃん」
別にファンでもなければ、知り合いでもないのに、柳宿はつい勢いでメアドを聞いてしまったのだ
案外、すんなりと教えてくれたのは意外だったけど
「まぁ・・・いいや」
柳宿は電話帳のページを開いたまま、ベッドに仰向けに転がった
「翼宿・・・か」
名前を呼ぶ
何となく繋がってるだけで安心した
また鳳綺が、ライヴの情報を仕入れてくれるだろう
それにいつか自分のやりたい事が見つかる気がした
それから一週間後
柳宿は用事があって、進路指導室を訪れていた
先生に頼んで、色々と資料を見せて貰いたかったからだ
ドアの前まで来て、ノックをしようとした時
「後、進路が決まってないのは・・・柳宿だけか」
先生の声にその手は止まる
「・・・どうするんですか?彼女、このまま浪人なんて事は・・・」
「実はご両親から内密で・・・女優養成学校への書類を勝手に送ったと連絡があってな」
柳宿は鞄を落とした
(嘘・・・)
「まぁ・・・あの子のやりたいようにやらせるのが一番だが・・・こればっかりはな」
「そうですね。私もその方が彼女には適任だと思います」
柳宿は駆け出した
外は雷雨
(そんな・・・事・・・ないでしょ・・・!?勝手に人の将来決めて・・・)
昨日まで、家族は自分に対して普通に接してくれていた
最近は進路に関して色々と口出しをしてこなかったのに
勝手に書類を送られた・・・?
自分が寝静まってから、両親二人で遅くまでこっそり書類を書いていた様子が目に浮かぶ
(最低・・・)
女優は、才能の塊だ
自分には全然才能がないのに、見た目だけで評価されて、周りからの嫌らしい目に耐えられる訳がない
その時
「会いたい・・・」
呟いた
あの熱い男
何もかも投げ出して、自分のやりたい事本当に楽しんでいて輝いていたあの人に
メールの作成画面を開く
「アイタイ」
来る訳ないと分かっていた
場所も言わなければ、番号も教えていない
とある高校の路地裏に座り込む
柳宿は泣き出した
誰でもいいから、助けて
誰でもいいから、信じさせて
どれくらい時間が経っただろうか
雨は小降りになっていた
遠くで部活動から帰る生徒の話し声が聞こえる
(やっぱり・・・メール見ても・・・来られる訳ないよね)
もう会えないというのも分かっていた
あんなメールを送った後だから
家にも帰りたくない
どこへ行けばいいのか
すると
ザクッ
抜かるんだ土を踏む音が聞こえた
そっと顔をあげる
そこには
「・・・あ」
制服を着崩して、ベースを背負った翼宿の姿
片手には携帯を持っている
「何しとんねん。お前」
「たす・・・きっ・・・あたし・・・なんで・・・」
「せやかて、ここ、うちの学校や」
そうなんだ
神様も親切なものだ
こんな偶然もあるんだ
「あたし・・・もう分かんない。親には勝手に・・・女優の学校に書類送られるし・・・あたしだって・・・好きで分かんなくなってんじゃない・・・だけど・・・誰もあたしの気持ち・・・分かってくれないの・・・」
周りから同情の目を向けられて、周りから勝手に将来を決められて
「自分」が分からない
「せやったら、一緒にバンドやるか?柳宿」
彼はそう言葉を言い放った
柳宿は顔をあげた
「え・・・?」
「そんな書類、俺が破ったる」
「・・・・・」
「俺と一緒にやればえぇ」
自分本位に聞こえるけれど、彼が支えてくれる?
自分の将来を
いいんだ
周りに遠慮しなくて
壁があればぶち壊せばいい
それでも自分を信じて進めば、きっと答えが見つかる
翼宿は、あたしにそう教えてくれたんだ
「よろしく。柳宿」
素敵なリーダードラマーとの出会い
そして、3人の長く苦しい戦いが始まるのだ
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