Making of the Moon【翼宿side】

バンドの初練習日
杏はいつになく緊張していた
「ほれ!!行くで!!」
翼宿がその後ろから、ヘルメットを被せる
「え・・・バイク・・・?」
「スタジオ、こっから結構離れとるらしいんや。養成所の奴らには極秘でやりたいんやと。レンタカーやけどな」
翼宿が真新しい真っ赤なバイクを撫でる
「あんた・・・乗れるん?」
「これでも退学した後、すぐに取ったんや」
杏は恐る恐る翼宿の背中に捕まる
ヴォン
ほんの少し、不安が薄れた

「翼宿。よく来たな」
「すんません・・・遅れました」
魄狼が、スタジオの入り口で待っていた
杏をちらりと見たが
「こっちだ」
二人を誘導した

ガチャ
「二人が到着したよ」
そこで待っていたギターとドラムがこちらを見た
「紹介するよ。こっちが蒼翠。中国から留学してるギターだ」
「初めまして」
かたことの日本語で挨拶する
「こっちがKate。アメリカの頂点に立つドラマーだ」
「Hello」
黒人の彼は英語で挨拶する
「この5人でのプレーだ。集中して、来月のライブに向けて頑張ろう」

「少し休憩!!」
まずは軽い音合わせを始めて3時間・・・魄狼の指示で休憩の時間が設けられた
「ふわ~・・・」
「どうや?調子は」
「ぐったりやで~あたし、出来てた?」
「平気や。全然いけるやん」
「あんまり調子に乗らない方がいいぞ」
横から魄狼が、冷たい言葉をかける
「気にすんな」
翼宿がこっそりフォローする
「あ!!父ちゃんからメールや」
携帯を見た杏が、歓喜の声をあげる
「最近連絡来るようになったんよ~vやっぱ、心細いからなぁ」
(そういや・・・携帯見てなかったな)
ふと、翼宿も携帯を見やった
『着信:柳宿』
一週間前の日付で、あいつからの着信
「やば・・・」
「どないしたん?」
「ちょっと出てくるわ」
翼宿は急いで喫煙室へ行った

Pllllll
カチャ
『もしもし・・・?』
「もしもし・・・柳宿か?」
『翼宿・・・』
「連絡遅れてすまんな・・・。何かあったん?」
『たすき・・・』
「どないしたん?」
相手の声は怯えているようだった
『やばいの・・・あたし・・・・・・・・・・・・・・・・誰かにつけられてて・・・』
その言葉に、頭が真っ白になる
「何・・・言うとんねん。今、どこや?」
『大学・・・たまの迎え待ってるの』
「おい・・・平気なんか?」
『毎日嫌がらせの電話とメールよ・・・。ロッカーとかにも悪戯されてて・・・部屋にいても落ち着かなくて』
「あれからずっと・・・?」
あの着信から、優に一週間は経っている
「すまん・・・俺・・・全然気づかなくて」
『いいよ・・・。でも・・・翼宿・・・あたし、怖いよ』
「大丈夫。誰かと一緒におれば、襲われる事ないから・・・」

『会いたいよ・・・』

電話の向こうから、掠れるような声
「・・・もう少し目処がついたら、俺もそっち帰ったるから。もう少し我慢せぇ」
『うん・・・ごめんね。心配かけて』
「大丈夫や。俺こそ・・・すまんな」
電話が終わる
その時、杏が自分を迎えに来ていた
「翼宿・・・?何かあったん?」
「いや・・・」
不安を押し殺し、練習へ向かう
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