Making of the Moon【翼宿side】

『翼宿!!君もだいぶ稽古したし、どうだい?NYのライブハウスでバンドを組んで演奏してみないかい?』
突然のMICHEALの提案
「ホンマですか?まだ入寮して3か月しか経ってないじゃないですか・・・」
『なぁに。お前のようなベテラン、3か月も稽古すれば、もう立派なもんだよ!!・・・というか、君と組んでみたいという男がいてな』
彼の後ろから顔を出したのは
「魄狼はん!!」
「やぁ。久々だね、翼宿」
「魄狼はんが・・・ですか?」
「あぁ。君が嫌でなければ」
「そんな・・・光栄です」
『・・・という事だ。是非やってみなさい』
「ありがとうございます」

「よかったですね!!翼宿さん。魄狼さんの事憧れてましたもんね!!」
「そうですねぇ~・・・実感ないですが。足引っ張らないすかねぇ」
「大丈夫ですよ!!応援してます!!ライブには、私も行かせてください!!」
通訳の玲は、瞳を輝かせて翼宿を応援する
すると・・・Poleの社長室から声が聞こえてきた
「・・・杏さん。今日もPoleさんに交渉してるみたいです」
杏の英語の声が聞こえてくるが、勿論何を言っているのか聞き取れない
「何か・・・あったんですか?」
「どうやら・・・中々外に出ていけないみたいで、杏さんも飽き飽きしてて」
「・・・・・・・・・」
『玲!!』
「あ。はい!!では、私はこれで」
玲はMICHEALに呼ばれ、そそくさと去って行った
カチャ
その時、杏が社長室から出てきた
目を真っ赤にしている
「杏?」
「!!・・・翼宿」
「・・・どないしたん」

『あたし・・・あたしなら・・・ずっと・・・ずっとあんたの傍に・・・』

先日の一件以来、二人はあまり口を聞いていなかった

英語の勉強・・・といいたいところだが、杏の表情は暗くなっている
「・・・今日は、やめや」
「えっ?」
「お前が不調やと、出来へんやろ」
「そんな・・・あたしは平気やて・・・ほら。はよう次の問題」
「無理は禁物や。音楽かてそうやで。無理してやっても、無理が生じるだけや」
その言葉に、杏はしゅんとなる
「さすがやね・・・音楽の常識、あたしよりも分かっとるやん」
「何かあったん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・Poleさんに、お前には才能がないから、早く日本に帰って実家を継いだ方がいいんじゃないかって言われた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あたし、実家豆腐屋やねん。あんたのお母さんはよく買いに来はったんやけどね。元々継げ言われてはおったし・・・」
杏の瞳から涙が流れる
「ごめ・・・あたし・・・」
「・・・Poleっちゅー奴・・・俺もあんまり好きやないんや」
その言葉に、杏は顔をあげる
「あいつは自分の利益の為だけに生徒を育てとるような気がしてならん。お前が気にする事はないやろ」
「・・・・翼宿」
「この前、お前の歌聞いたけど、悪くないと思うで」
天下のボーカリストの慰めが、大手音楽企業の社長からの侮蔑よりも嬉しかった
「ごめん・・・勉強せなあかんのに」
「構わん。ちょい休憩や」
翼宿は、煙草に火をつけた

コンコン
その夜遅く、翼宿は玲の部屋を訪ねた
ドアを開けた玲は、驚いていた
「どうしたんですか?こんな夜遅くに」
「すんません・・・ちょいと来てくれませんか?」

『翼宿。私に話って何だね?』
MICHEALの部屋に玲と共に訪れた翼宿
「すんません・・・実は、杏の事で話があって」

「あたしとした事が・・・不覚やわ」
明日の稽古の予定を確認してきた杏がため息をつく
(よりによって、あいつに・・・)
その時、聞き覚えのある声が聞こえた
「今回のバンドの件、俺と一緒に杏もやらせてあげてくれませんか?」
その言葉に立ち止まる
『翼宿?何を・・・』
「俺の代わりにあいつにボーカルを・・・お願いします」
「翼宿・・・?」
『どうしたというんだい?翼宿』
「あいつ・・・頑張っとるんですわ。俺よりも早く歌手目指して渡米してきて・・・ずっとここで稽古しとるんですよね?そろそろ・・・あいつにも外の世界を見せてやりたいんです」

『翼宿・・・』
(翼宿・・・あたし・・・あんな酷い事言うたのに・・・)
杏の瞳からポロポロと涙が零れた

『分かった。検討してみよう』

その声に、顔をあげる
今・・・検討するて・・・
「ありがとうございます」
杏は急いで部屋へ戻った
そのまま、ベッドに泣き崩れた
(あたしは・・・あいつのお陰で・・・)
愛しさは増すばかり
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