Making of the Moon【翼宿side】

「ごめんな・・・色々と嫌味言って」
「いや。気にしてへん」
「俺・・・今朝発表された今度のジュニアバンドミュージックの選考で落ちて苛々してただけなんだ」
「・・・ああ」
「お前が教えてた餓鬼が選ばれたみたいだな。よかったじゃん」
「ま・・・な」
「俺も、負けないように頑張らないとな」
「その意気や」
「じゃ・・・な。その・・・完治祈ってる」
米原は申し訳なさそうに翼宿の左手を見やると、そのままその場を後にした

時計を見ると、日付は丁度「12月20日」
「後二か月・・・か」
翼宿は、溜息をついた

世はクリスマス
たくさんの恋人同士が街を賑わせる
たくさんのイルミネーションが街を彩る
そんな季節
とある一角のライブハウスで、「ジュニアバンドミュージック」が開催された
「翼宿さん!!」
玲が、ライブハウスの前で煙草を吸っていた翼宿に声をかけた
「すみません・・・事務の仕事が残っていたもので」
「もう年末っすよ?追い込み中に大丈夫なんすか?」
「平気ですよ!!翼君の晴れ舞台が見られるって楽しみにしてたんですから!!」
まるで自分の息子の出演を喜んでいるかのような玲に、翼宿は笑みを零した

中には、たくさんの子供から保護者がたくさん来ていた
「わぁ・・・やっぱり各地の養成所から集まる生徒のお披露目イベントなだけあって、凄い人ですね」
「玲さん・・・はしゃぎすぎて、はぐれんようにしてくださいよ」
「分かってますよ!!」
すると、その人込みから外れた場所に見覚えのある女性が立っていた
「あれ・・・翼のお母さん」
「え・・・?」
翼宿は、すぐさま駆け寄る
「あの・・・翼のお母さんですよね?」
「ああ・・・翼宿さん」
「どうしたんですか?こんな所で」
「翼の成長を一目見てあげたくて・・・」
「体の方は平気なんですか?病院にはちゃんと許可取って・・・」
「はい。あれから・・・ずっと療養していたので外出許可が出たんです」
「・・・そうでしたか」
「あの・・・その節はすみませんでした。私・・・何て詫びればいいか」
「いいんですよ。俺は・・・翼の成長を見てあげてください」
その瞬間、ステージの照明が消えた

各地から集まってきた生徒の演奏は、やはり目を見張るものがあった
「やっぱりみんな上手いですね・・・」
「えぇ・・・」
翼は、最後の出番だった
『では、最後の出演バンドShooting Starです!!』
そして、ガチガチになったベーシストが出てくる
「・・・緊張していますね」
「ああ・・・」
翼宿も玲も笑いを堪え切れなくなった
しかし演奏が始まると、彼の演奏は他の子供も目を見張る素晴らしいテクニックだった
「やっぱり・・・翼宿さんが教えた甲斐ありますね」
玲が、こっそりと耳打ちした
翼宿は、何も言わずにただ、彼のステージを食い入るように見つめていた

「翼宿ぃ!!!」
ステージが終わり、翼が駆けてくる
「おぉ。お疲れ」
「どやったぁ!?俺のステージ・・・」
「まぁまぁやないか。初めてのステージの割には」
「きっびし~・・・」
「阿呆。音楽の世界は甘くないんや。明日からまたスパルタ練習やで」
「は~い・・・」
「翼ぁ~」
「おう!!今、行く!!これから打ち上げなんやv」
「そか。あんま羽目外しすぎないようにな」
「うん!!母ちゃん!!俺、どやった!?」
「よかった・・・よかったよ。翼」
「これから、母ちゃん送ってくさかい。お前は安心して打ち上げ行ってこい」
「おう!!」
翼は、そのまま満面の笑みで手を振りながら駆けて行った

母親を無事に送り終えて、翼宿と玲は帰路に着いた
「翼君も、翼君のお母さんも喜んでいたみたいで・・・よかったですね」
「そうですね」
「これからが楽しみです」
「えぇ・・・」
そこで、無言になる
雪がパラパラと二人の間に落ちる
玲は、ずっとずっと飲み込んでいた言葉があった
それは翼宿への揺るぎない思い
「あの・・・」
「はい?」
ちゃんと伝えよう
「私・・・あなたに伝えたい事があるんです」
「・・・・・・・」
ありのままの自分で
「私・・・ずっと・・・ずっと・・・」
泣きそうなくらい切なくて
「ずっと・・・」
狂おしい思い
「あなたの事が・・・・・・・・好きでした」
伝わらなくてもいいから
「離れたくない・・・」
涙が零れた
「俺には・・・」
翼宿は口を開いた
「俺には、ずっと恋い焦がれてる女がいます」
それは杏でもない、玲でもない
「そいつの為に俺は日本に帰らなければいけない」
「翼宿さん・・・」
「ごめんなさい・・・」
「いいんです・・・」
玲の笑顔は曇りのない笑顔
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