Making of the Moon【翼宿side】

「翼宿さんが・・・手を怪我したって・・・」
「養成所の子供の母親の病院に一緒に行って・・・そこで母親が階段から落ちたところを庇ったみたいなんです」
MICHEALと一緒に外回りの営業から帰ってきた玲に、魄狼から告げられた知らせ
『・・・・・・・・やむおえない・・・事故か』
MICHEALがため息をつく
「だけど・・・翼宿さん、テレビ出演もやっと決まって・・・」
「左手です・・・弦は押さえられないと思います」
その場が凍りついた

「っく・・・ひっく・・・ううっ・・・」
その頃、翼宿の部屋に翼宿と翼は戻ってきていた
「・・・・・・・・・もう泣くな」
「だって・・・だってえ・・・」
「母ちゃん、よかったやないか・・・これからは気をつけて看病せえよ」
「・・・・・・・・翼宿。手が・・・」
「・・・・・・・・・・・気にすんな。お前のせいやない」
「やけど・・・やけど・・・もう、ベース・・・」
その言葉に、翼宿は黙る
「・・・・・・・・・しゃあないやろ」
「せっかく頑張ってきたのに・・・それを俺・・・」
玲は、そっとその部屋の様子を覗いた
窓枠にもたれている翼宿の横で、翼が泣いている
「今更嘆いても戻ってこん」
「・・・・・・・・・・・・・俺、どうすれば・・・」
「どうもしなくてえぇ」
「だって・・・」
「もう、泣くのやめ言うとるやろが!!」
厳しい口調に、翼と玲が竦む
「・・・・・・・・翼。お前、それでも男か?今のお前は弱虫すぎる」
翼の泣き声が小さくなった
「ひとつ山を越えたら、また同じ事の繰り返しなんか?」
翼宿は、溜息をついた
「・・・・・・・・翼宿」
「・・・・・・・・・・・・・・はっきり言う。俺は、もうベースはしばらく弾けない」
「・・・・・・・・・・・・・」
「やけど、お前は弾けるやろ?」
「え・・・」
「それを自分の事のようにめそめそ泣くな」
「翼宿・・・」
「この世界では、他人の心配などしとれんのやで」
「・・・・・・・だけど、翼宿は・・・」
そこまで言って、翼は言葉を飲み込んだ
翼宿は、自分の為に叱ってくれているのだ
以前と同じように、大切な事に気づかせてくれる為に
「・・・・・・・・・・ベースを弾け」
たったさっき、ここで音楽を続けていく意味を教えて貰ったばかりではないか
翼は、涙を拭いて頷いた
翼宿は微笑んで、その頭を撫でた

♪♪♪
その夜、翼は一人稽古場に居残ってベースを弾いていた
「・・・・・・・・・・翼君?」
「・・・・・・玲お姉さん」
そこに、玲は現れた
「・・・・・・・・・・こんな遅くまで練習?」
「うん・・・遅れ取り戻さんと」
「そう・・・」
さっきの出来事を聞いていた玲は、そんな姿に胸が締め付けられそうになった
「・・・・・・・大丈夫?」
「え・・・?」
「さっきの事・・・」
「見てたんですか?」
「ごめん・・・見ちゃった」
「・・・・・・・・・・・そうですか」
「・・・翼宿さん。あなたの気持ちは嬉しかったと思うわ」
「だけど、俺分かりました。翼宿・・・俺に責任感じてほしくなかったんですよね?」
「えぇ・・・」
翼の少し大人な発言に、翼宿の影を感じた
「・・・・・・だから、俺ベース弾きます」
「・・・・・・・・うん」
「翼宿の為にも・・・」
「そうね・・・」
「だけど、翼宿・・・どうなるんですか?テレビにも出られなくて・・・ライブも出来ないですよね・・・?」
「そう・・・ね・・・どうしたら・・・」
どうしたらいいのか

『翼宿・・・今回は大変だったね。君も今までせっかく頑張ってきたのに・・・今回の事で・・・ベースでのこれからの活動が難しくなってきた・・・』
翼宿は、次の日Poleに呼び出された
『ご心配おかけしました』
『それで・・・どうだろう。このまま白紙も君にとっては気の毒だから・・・ベースに魄狼を補佐につけて、君が歌う形でメディアに出演を・・・』
『いいえ』
そこは、きっぱりと返事をした
『白紙でもこのまま期限切れで帰国でも構いません・・・俺は・・・俺のベースを捨てるつもりはありません』
ただ世界の頂点に立つ事が夢ではない
いつだって共に歩んできた「相棒」を捨てる事は出来ないから・・・
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