Making of the Moon【翼宿side】

『翼宿。「冬の幻」が凄い快挙だぞ。一日で300万枚の売り上げだ!!』
今年も、LAに暑い夏がやってくる
翼宿は、Poleから企画会議の席で朗報を受け取った
『さすがは、翼宿だな。やっと才能が開花してきたようだ』
MICHEALも頷く
『ありがとうございます・・・俺を育ててくれたPoleさんやMICHEALさんのお陰です』
『そろそろ、テレビ局からもオファーが来ている。日本のファンに姿を見せられるチャンスだな』
Poleは、すっかり上機嫌になっていた

『翼宿・・・そういえば』
『何すか?』
会議が終わった後、MICHEALが声をかけてきた
『柳宿君とは、会ったのかね?』
『いいえ・・・』
『そうか・・・残念だ。色々あった時期だったにせよ・・・』
『いつかは、必ず再会出来るんですから・・・その時まで待ちます』
『私は、彼女の演奏会見に行ったのだよ』
『そうだったんですか!?』
『凄く綺麗で、ピアノの腕に長けた女性だった。見る目があるな』
『やめてくださいよ』
そう言って笑った翼宿は、何だか嬉しそうだった

「「冬の幻」、素敵でしたよ」
「ありがとうございます」
「杏さんも・・・きっと喜んでいると思います」
「そうだと・・・いいですね」
翼宿と玲は、そんな話をしながらロビーへ向かっていた
「そろそろ、ここに帰ってきませんか?」
「え・・・?」
「MICHEALも無事に退院した事ですし、メディアに出られればまた会社に顔を出す機会も増えるでしょう?」
「・・・・・・・・・・そうっすねぇ」
帰ってきても、いいのだろうか
♪♪♪
どこからか、可愛らしいギターの音が聞こえる
「ん?」
「あら。稽古室の子供たちかしら?」
「子供?」
「えぇ。今年から、日本に音楽の勉強をしに来ている子供たちを対象に定員制3か月間だけの講習合宿をPole社長が始めたんですよ。子供の内から、本気になって音楽を学ぶ事はいい事だってね」
「へぇ・・・えぇ考えですね」
「きっと、翼宿さんに憧れて入った人が多いと思いますよ」
稽古室の中には、様々な楽器と戯れる30人ほどの生徒達がいた
しかし、その中から
「やーーーーーーーーーーーーい。下手くそー」
「お前のベース、三味線にしか聞こえねえぞー」
「そんなんで、よく翼宿目指すとか言うよなー」
そんな声が聞こえてきた
「あら・・・・・やだわ。ここで、いじめ?」
玲が気の毒そうに顔を歪める
「うっさいわぁ!!!お前らなんかに、ベースの良さが分かってたまるか!!俺は、俺の好きなように弾くんや!!」
「そんなんじゃあ、いつまでたってもバンド組めないぞー」
「一生仲間外れだーーー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こら」
「わあああああ!!翼宿だあ!!」
「他人いじめてる暇あったら、練習せんかい」
「逃げろーーーー」
その場から、いじめっ子は立ち去った
「・・・・・・・・・・・・・・・・・翼宿」
その場にいた子供たちも、その少年も唖然としている
「・・・・・・・・・出てっちゃ、まずかったか?」
玲は、指で小さくバツを作った
「・・・・・・・・・・・・翼宿だあ!!!本物だあ!!!」
みんなが、翼宿に群がる
「・・・・・・・・・・・まずったな」

ガコン
休憩室で、翼宿は煙草を自販機から買う
「・・・・・・・・・・・・参ったなあ。餓鬼相手にするんは、疲れるわ」
翼宿は、溜息をつきながら煙草をくわえる
すると、傍の椅子に見覚えのある少年が座っているのが見えた
しかも、その瞳にはうっすら涙が浮かんでいた
翼宿は、何も言わずにその横に座って煙草をふかし始めた
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・俺にもくれや」
「これは、餓鬼の吸うもんやあらん」
「ミュージシャンやん。そんなん関係あらへん」
「阿呆。まだ、ミュージシャンの見習やろ」
お互い、関西弁で変な感じがした
「お前、大阪から来たんか?」
「そうや」
「珍しいなぁ。普通都心から来る子供のが多いんちゃう?」
「・・・・・・・・色々あるんや、色々!!」
「ふーん・・・」
「翼宿」
「あ?」
「どないしたら、そんな上手くなれんねや!?教えてくれや!!」
その少年は、翼宿にしがみついてそう問う
「・・・・・・・・・・・・・そんなん特訓や。朝から晩までずーっとや」
「やっぱ、特訓なんや・・・」
「何で、そんな必死なん?」
「べ・・・別に教える必要ないやろ!!」
「ま、別にえぇけど」
「・・・・・・・・・・・・「冬の幻」聞いたで。えぇ曲やな」
「・・・・・・・・・・・・おおきに」
「俺も・・・・・・・・・・いつか絶対翼宿超えるベーシストになって、世界デビューしてやんねん!!」
「お前、俺を目指してるんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・めっちゃ憧れや。だから、さっきめっちゃ恥ずかしかった」
生意気だけれど、純粋な心を持つ彼に胸を打たれた
「お前、名前は?」
「・・・・・・・・翼」
「そか。覚えとくわ。また、何か縁があったらな、翼」
彼との出会いが、LAでの最後の出会い
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