Making of the Moon【翼宿side】
ギィ・・・
玲は、稽古場の重い扉を開ける
向こうには・・・・・・・彼の姿
「翼宿さん・・・?」
翼宿は、こちらを振り返った
片手にはベース、片手には譜面に向かう万年筆
「久し振りです・・・」
「ああ・・・・・・久し振りです。玲さん・・・」
翼宿は、微笑んだ
しかし、あまりにも寂しそうな微笑み
「みんな・・・心配してましたよ。翼宿さんがこもりっきりだって」
「すんません。色々一人で考えたかったんで」
翼宿は、煙草に火をつける
「・・・・・・・・・・・少し痩せましたね」
「何も食ってないんすよねぇ」
翼宿は、煙を大きく吐く
「そんな・・・大事な体です。無理をなさらないで」
「ありがとうございます」
「杏さんの事・・・」
翼宿の反応が止まる
「・・・・・・・・・・・・まだ、ふっきれませんか?」
「俺も・・・諦め悪いですよね」
「そんな事ないです。だけど、あなたが参ってしまっては杏さんも悲しみますよ」
そうだ。あいつは、そういう女だった
自分のせいで翼宿が・・・・・・・・いつもそう言っていた
翼宿は、額を抱える
「・・・・・・翼宿さん?」
「すんません・・・」
「え・・・」
「しばらく、この事について他人と話しとらんかったんで」
「翼宿さん・・・」
玲は、翼宿の体を抱きしめた
「・・・・・・・・・・・・私がついてます。だから・・・・・・・どうか泣かないで」
声を殺して、泣いた
あの傷は、消えない
Pllllllllllllllll
『もしもし』
『もしもし・・・yukimusicの夕城といいます』
『ああ・・・奎介君かね。初めまして・・・UNIVERSAL MUSICのPoleといいます』
『初めまして・・・いつも翼宿がお世話になっています』
『どうかしましたか?』
『翼宿・・・今、どうしてますかね?メンバー誰とも連絡がつかないみたいで』
『翼宿は・・・大事な人を亡くして、一人で・・・作曲活動をしています』
『やはり、そうでしたか・・・』
『あんなに勝ち気で負けず嫌いだった翼宿が・・・・・・・・・・・・こんなのは初めてです』
『本人も、切り替えられていないといったところでしょうか?』
『そうだと思います。今、MICHEALの秘書が様子を見に行っています』
『どうか・・・翼宿の事をよろしくお願いします』
『分かりました。失礼します・・・』
『そうか・・・まだ、立ち直っていないか』
『心配です・・・あのまま、新曲が書けなかったら』
『・・・そうだな。もうすぐ会社に提出しなければいけない新曲だろう?』
翼宿の体調と、そして新曲が気がかりだった
玲は、自分の横にある買い物袋を持って見せた
『私・・・翼宿さんの身の回りのお世話をしようと思います』
『玲・・・』
『杏さんがいなくなってしまった以上、私に出来るのはこれくらいの事ですもの・・・』
『だけど、お前まだ・・・』
『本当は・・・今でも好きです。だからこそ、彼を救いたい』
『・・・・・・・・・・・頼んだぞ』
Pllllllllllllllllllll
しばらく、横になって休んでいた翼宿
玲に、まずは睡眠を取るように薦められたのだ
そして、携帯の着信で目を覚ます
「着信:柳宿」
「もしもし・・・」
『もしもし・・・』
「柳宿・・・」
『久し振り。元気・・・?』
「あぁ・・・」
『やっと・・・繋がった』
「・・・・・・・・・・・・・すまんな。結局連絡せんで」
『大丈夫・・・あんた、ちゃんと食べてるの?』
「・・・・・・・・・・・・・残念ながら」
『何やってんのよ・・・まずは、体が主体でしょ?』
「何も喉通らへん・・・」
『・・・・・翼宿』
「・・・・・・・・・・・・・・・こんな情けない声聞かせとうないやん」
『だから・・・・・・ずっと連絡無視してたのね』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『翼宿。あたしさ・・・今年の春にそっちに行くんだ』
「・・・・・・・・・ああ」
『今、うきうきしながらあんたとデートの約束する気はない』
「・・・・・・・・・・・・」
『だけど・・・会いたいとは思ってる』
「・・・・・・・・・・・・」
『あんた次第だよ。あたしの事忘れてるなら、それでもいいし』
「・・・・・・・・・・・今は、まだ」
『分かってる・・・。だけどさ、あたしはずっとあんたの味方だから』
「・・・・・・・・・・ああ」
『それだけは、忘れないで?』
「・・・・・・・・・・・おおきに」
『・・・・・・じゃあ』
「・・・・・・・・・・・っ・・・」
『翼宿・・・?』
電話口で、翼宿は嗚咽を堪え切れなくなった
『どうしたの・・・?』
「・・・・・・・・・・・・・・すまん。お前の声聞いたら、何だか」
『翼宿・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・怖い」
初めて見せた弱さ
「怖いんや・・・」
大事なものを得ながら、大事なものを手放している
これが音楽の世界
勝ち組と負け組の世界
『翼宿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・負けないで。あんたが選んだ道だよ?みんな・・・・・・・・・・信じて待ってる。みんなの気持ちがあんたを支えてる・・・・・・・・・・その気持ちだけは、絶対に消えないんだよ?』
どうして、お前はそんなにも気高いんだ
「・・・・・・・・・・・・・・すまんな」
『ううん・・・また・・・電話するね』
「ああ・・・」
そのやり取りを、玲は扉の向こうで黙って聞いていた
玲は、稽古場の重い扉を開ける
向こうには・・・・・・・彼の姿
「翼宿さん・・・?」
翼宿は、こちらを振り返った
片手にはベース、片手には譜面に向かう万年筆
「久し振りです・・・」
「ああ・・・・・・久し振りです。玲さん・・・」
翼宿は、微笑んだ
しかし、あまりにも寂しそうな微笑み
「みんな・・・心配してましたよ。翼宿さんがこもりっきりだって」
「すんません。色々一人で考えたかったんで」
翼宿は、煙草に火をつける
「・・・・・・・・・・・少し痩せましたね」
「何も食ってないんすよねぇ」
翼宿は、煙を大きく吐く
「そんな・・・大事な体です。無理をなさらないで」
「ありがとうございます」
「杏さんの事・・・」
翼宿の反応が止まる
「・・・・・・・・・・・・まだ、ふっきれませんか?」
「俺も・・・諦め悪いですよね」
「そんな事ないです。だけど、あなたが参ってしまっては杏さんも悲しみますよ」
そうだ。あいつは、そういう女だった
自分のせいで翼宿が・・・・・・・・いつもそう言っていた
翼宿は、額を抱える
「・・・・・・翼宿さん?」
「すんません・・・」
「え・・・」
「しばらく、この事について他人と話しとらんかったんで」
「翼宿さん・・・」
玲は、翼宿の体を抱きしめた
「・・・・・・・・・・・・私がついてます。だから・・・・・・・どうか泣かないで」
声を殺して、泣いた
あの傷は、消えない
Pllllllllllllllll
『もしもし』
『もしもし・・・yukimusicの夕城といいます』
『ああ・・・奎介君かね。初めまして・・・UNIVERSAL MUSICのPoleといいます』
『初めまして・・・いつも翼宿がお世話になっています』
『どうかしましたか?』
『翼宿・・・今、どうしてますかね?メンバー誰とも連絡がつかないみたいで』
『翼宿は・・・大事な人を亡くして、一人で・・・作曲活動をしています』
『やはり、そうでしたか・・・』
『あんなに勝ち気で負けず嫌いだった翼宿が・・・・・・・・・・・・こんなのは初めてです』
『本人も、切り替えられていないといったところでしょうか?』
『そうだと思います。今、MICHEALの秘書が様子を見に行っています』
『どうか・・・翼宿の事をよろしくお願いします』
『分かりました。失礼します・・・』
『そうか・・・まだ、立ち直っていないか』
『心配です・・・あのまま、新曲が書けなかったら』
『・・・そうだな。もうすぐ会社に提出しなければいけない新曲だろう?』
翼宿の体調と、そして新曲が気がかりだった
玲は、自分の横にある買い物袋を持って見せた
『私・・・翼宿さんの身の回りのお世話をしようと思います』
『玲・・・』
『杏さんがいなくなってしまった以上、私に出来るのはこれくらいの事ですもの・・・』
『だけど、お前まだ・・・』
『本当は・・・今でも好きです。だからこそ、彼を救いたい』
『・・・・・・・・・・・頼んだぞ』
Pllllllllllllllllllll
しばらく、横になって休んでいた翼宿
玲に、まずは睡眠を取るように薦められたのだ
そして、携帯の着信で目を覚ます
「着信:柳宿」
「もしもし・・・」
『もしもし・・・』
「柳宿・・・」
『久し振り。元気・・・?』
「あぁ・・・」
『やっと・・・繋がった』
「・・・・・・・・・・・・・すまんな。結局連絡せんで」
『大丈夫・・・あんた、ちゃんと食べてるの?』
「・・・・・・・・・・・・・残念ながら」
『何やってんのよ・・・まずは、体が主体でしょ?』
「何も喉通らへん・・・」
『・・・・・翼宿』
「・・・・・・・・・・・・・・・こんな情けない声聞かせとうないやん」
『だから・・・・・・ずっと連絡無視してたのね』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『翼宿。あたしさ・・・今年の春にそっちに行くんだ』
「・・・・・・・・・ああ」
『今、うきうきしながらあんたとデートの約束する気はない』
「・・・・・・・・・・・・」
『だけど・・・会いたいとは思ってる』
「・・・・・・・・・・・・」
『あんた次第だよ。あたしの事忘れてるなら、それでもいいし』
「・・・・・・・・・・・今は、まだ」
『分かってる・・・。だけどさ、あたしはずっとあんたの味方だから』
「・・・・・・・・・・ああ」
『それだけは、忘れないで?』
「・・・・・・・・・・・おおきに」
『・・・・・・じゃあ』
「・・・・・・・・・・・っ・・・」
『翼宿・・・?』
電話口で、翼宿は嗚咽を堪え切れなくなった
『どうしたの・・・?』
「・・・・・・・・・・・・・・すまん。お前の声聞いたら、何だか」
『翼宿・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・怖い」
初めて見せた弱さ
「怖いんや・・・」
大事なものを得ながら、大事なものを手放している
これが音楽の世界
勝ち組と負け組の世界
『翼宿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・負けないで。あんたが選んだ道だよ?みんな・・・・・・・・・・信じて待ってる。みんなの気持ちがあんたを支えてる・・・・・・・・・・その気持ちだけは、絶対に消えないんだよ?』
どうして、お前はそんなにも気高いんだ
「・・・・・・・・・・・・・・すまんな」
『ううん・・・また・・・電話するね』
「ああ・・・」
そのやり取りを、玲は扉の向こうで黙って聞いていた