Making of the Moon【翼宿side】

欧米の葬式なんて、英語だらけで何を供養しているのかさっぱり分からない
参加なんてしたくなかった・・・自分がここにいる意味はこんなんじゃない

「杏・・・・・・・・・・お前の事、誰よりも心配してたんだぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前の事しか見えてなくて、お前の為に笑って泣いて怒って・・・それだけだった。あいつの毎日」
まだ目が赤い魄狼の横で、翼宿は黙って煙草を吸う
その煙と同時に、葬儀場の煙突から出る杏を焼く煙が重なった
「ったく・・・馬鹿だよな、あいつ。最後もお前に会いに行くって・・・言って」
むせかえる魄狼の涙
「・・・・・・・・・・・ホンマに阿呆な奴でした」
魄狼は、翼宿を見る
「正直最初会うた時、あんな世の中知らん餓鬼が音楽の世界に入ってける訳ないてナメてました。やのに・・・いつの間にか俺を超えとって、どんどん成長しとって・・・ホンマは才能あるのに未だに泣き言言うて・・・我儘で甘えん坊で寂しがり屋でどうしようもなくて」
翼宿は、微笑む
「魄狼はんは・・・杏の事が好きやったんですよね」
「・・・・・・・何を」
「分かりますよ。魄狼はん、割と分かりやすいですから」
「・・・・・・・・・・・・・・まぁ、お前には敵わなかったからさ」
そこに、車椅子に座ったMICHEALを押す玲、そしてPoleがやってきた
「お疲れ様です・・・」
「遺骨は、無事焼き終わりました。ご家族の方にもきちんと連絡しました」
玲が、報告をする
「ありがとうございました・・・何から何までお世話になって」
『何を言ってるんだ。杏は・・・世界の大スターだったじゃないか』
MICHEALが微笑む
『翼宿・・・』
Poleが手渡した一枚のCD
『お前に・・・渡しに行く筈だったCDだ。これを握り締めて倒れていたそうだ』
翼宿は、それを受け取る
「そういえば・・・お前への気持ちを綴った曲って言ってたな」
『聞いてやってくれ・・・』

葬儀場の控室で、一人プレーヤーにCDを入れる
雑音がかったその音源に、キーボードが鳴り響く
杏の懐かしい歌声が響いた

-もし今でも二人一緒にいたなら 別れはこれ以上に辛かっただろう・・・
二人でいる それだけで私は 幸福だったのに
それ以上に 望んでしまった
あなたを 身勝手な 愛を押しつけて・・・

あなたが与えてくれた素敵な時間の中で どれほど心を奪われていただろう
あなたの傍で生きてた素敵な時間の中で どれほど自由になれる術を知っただろう
今は、もう遠くへ行ってしまったあなたに 
「ありがとう」も、「ごめんなさい」も言えないままに
涙がこぼれてった・・・-

『会いたかったよぉ・・・翼宿・・・。どこ行ってたの・・・!?あたし・・・テレビで見た時・・・本当びっくりして・・・』
『あたし・・・あたしなら・・・ずっと・・・ずっとあんたの傍に・・・』
『ちゃう・・・ちゃうよ・・・。翼宿・・・あたし・・・ごめんなぁ・・・』
『弱音吐いてえぇんやでっ・・・たすき・・・』
『早く帰ってきてな・・・』
『あたしの大好きな翼宿は・・・絶対に暴走族なんかやらん!!音楽の為におるような男や!!
あんたみたいに金に使う汚い男に使われてたまるもんか!!!』
『翼宿を貶す奴おったら、さっきみたいにめっちゃ怒鳴ってやるんや』

杏の夢、杏の願い
全て護れなかったのは、自分だった
あんな手のかかる妹・・・目を離していた事自体がいけなかったのだ

『見てろや!!あたし、絶対ミュージシャンになって、あんたのその不良じみた心に絶対いい歌響かせてやるんや!!』

「ドアホッ・・・・・・・・・・・・・・杏・・・・・・・・ドアホォ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

流れるのは、大粒の涙
大声をあげて泣いた

玲が、その光景をじっと扉の向こうから眺めていた

「当然・・・中止だよな。明後日のドームツアー」
それから一週間後
Wolfのメンバーは、まだアポを断りきれずにいた
『残念だけど・・・仕方がない』
『ボーカルがいないんじゃ、話にならないからな』
キィ
そこに、顔を出した翼宿
「翼宿・・・お前、もう大丈夫なのか・・・?」
「歌いましょう」
「え・・・?」

「歌わせてください。俺を・・・・・杏の代わりに」

彼女への限りない哀悼の意
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