Making of the Moon【翼宿side】

翼宿は、こぢんまりとした稽古場とそれに隣接する寮で、稽古をする事にした
そこは、MICHEALが入院している病院には、徒歩で5分で行ける場所だった
それ以外は、色々と不便な場所ではあるが、レーベルの人間は送り迎えをその都度してくれる事になっている
そして、寮母なども何人か派遣されたので、あまり苦には感じなかった
まぁ、問題はほぼ玲との二人暮らしになっている事くらいだが

『翼宿。いつも悪いね。私の為に・・・』
『何言うてるんですか。また無理されたら、こっちが困りますから』
今日も、翼宿はMICHEALの見舞いに来ていた
『お前も、稽古に根を詰めているそうではないか。玲から聞いているぞ』
『大丈夫です。自分のペースで出来るので、割と楽ですよ』
『お前・・・玲とは、どうなんだ?』
その質問に、翼宿は驚く
『何でですか?』
『玲の事情、ある程度お前も分かっているだろう?どう思う?彼女の事』
『そんな・・・頼れる方だとは思いますが、そこまでは』
『日本にいる柳宿の事、今でも好きなのか?』
『そりゃあ・・・』
『こっちの国では、二股も三股も自由だぞ』
『MICHEALはん!?』
『冗談だ』
MICHEALは、明らかに自分をからかっていた

「翼宿さん!!今日も、お疲れ様です!!」
玲が、自分の帰りを待っていた
「ああ、玲さん。先に寝てて、よかったんですよ」
色々と、レーベルにも寄り道して帰りはすっかり遅くなっていた
「いえ・・・翼宿さんがお仕事頑張ってるのに、一人だけ休んでいられませんから」
「だけど、十分真面目に働いてるじゃないですか。十分ですよ」
その時、玲の表情が曇った
「もうひとつ・・・翼宿さんを待っていた理由があるんです」
「へ?」

「どうぞ」
翼宿は、自分の部屋に通し茶を薦めた
「すみません・・・」
「何かあったんですか?」
「実は・・・ここ数日、ろくに家に帰ってないんです」
そうだ。玲は、結婚していたのだ
しかし、そう言われてみれば自分につきっきりで、玲が帰宅している姿を見た事がない
「あの・・・それ、俺のせいで」
「いえ・・・違うんです。私が帰りたくないだけなんです」
「・・・え?」
「私・・・暴力振るわれてるって言いましたよね?あの日から、家に帰れないんです。怖くて」
玲の肩が震えだした
「玲さん・・・」
「だって私・・・翼宿さんとお仕事していた方が何倍も楽しいんですもの」
濡れた瞳で、翼宿を見上げる玲
昼間のMICHEALの言葉を思い出し、翼宿は視線をそらす
「せやけど・・・連絡もなしにはまずいんやないですか?せめて連絡だけでも・・・」
「翼宿さんっ・・・」
玲は、翼宿に抱きついた
衝動で、翼宿は半分後ろに倒れた
「れっ・・・玲さんっ・・・」
「私・・・あなたが欲しいんです」
スーツの間には、わざとはだけた肌が見える
「翼宿さーん。もう消灯ですよ」
その時、外から寮母の声が聞こえた
「あ。すんません・・・今、寝ますわ」
その瞬間、二人は離れた
「失礼しました・・・私、とんでもない事・・・」
「い・・・いえ」
「だけど、私本気なんです。ずっとあなたの傍に・・・」
玲は、そこまで言うと立ちあがった
「おやすみなさい・・・」
翼宿の脈は、なぜか激しかった
(何や・・・俺・・・他の女に・・・)
唇をかみしめた

「翼宿・・・元気かなぁ」
その頃、スタジオの外では杏が星空を見上げていた
「んだよ~今日も、翼宿かぁ?」
「えぇやん!!毎日それだけが気になるんや!!」
「それより、明後日のライブについて気になってほしいんだけど」
魄狼は、杏に珈琲を手渡す
「翼宿。見に来てくれると思う?」
「さあなぁ。今頃、玲さんとかいう秘書の人とラブラブになってたりして?」
杏は、その言葉に急に押し黙る
「・・・・・すみません」
「えぇよ。あたし、あの人と比べたら魅力ないし」
「だけど、かなり仲いいじゃんー?俺、お前らの方が絶対お似合いだと思うけど」
「本当!?なら、よかったv」
単純な杏は、すぐに喜んだ

この時、まだ翼宿も杏も知らなかった
これから、二人の身に襲いかかる恐ろしい出来事が待っていようとは・・・
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