Making of the Moon【翼宿side】
「翼宿!!」
杏が、翼宿の部屋を訪ねた時は、既に大方の荷物が始末されていた
「あんた・・・ここを出るって、本当・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・あぁ」
「何言うとるん!?ここを出たら、社会のごみになったも同然なんよ!?」
「別に、ここだけがゴールやないやろ」
「あんた・・・ホンマにそれで・・・」
「俺は、MICHEALはんに感謝しとるんや。今度はMICHEALはんの看病しながら、自己流で稽古したい」
「翼宿・・・」
「玲はん一人にも、任せておけんしな」
「・・・・・・・!!!」
その言葉に、杏は反応する
「杏。お前は頑張るんや。俺は男やからやってけるだけやし。魄狼はんと頑張れ」
翼宿は、最後の荷物を持ち部屋を出て行こうとした
「嫌やっ!!!!!」
杏は、翼宿を後ろから抱き締めた
「・・・・・・杏!?」
「何で・・・何で、そうやっていつもあたしを置いてこうとするん!?」
杏の頬には、涙が流れていた
「あの日も・・・あの日もそうやった・・・追いかけようとしたあたしを振り切ってあんたは一人で・・・もう、あたしはあんたの後ろ姿は見たくないんや!!」
すると、玲が廊下の角からこちらを見ているのが分かった
「・・・・・・・・・玲さん」
そのまま、杏は廊下の向こうへ駆けだした
「杏!!」
そこには、玲と翼宿が取り残された
「・・・・・・・・翼宿さん。今の話本当ですか?」
「・・・・・・・・・はい」
「私とMICHEALの為に・・・?」
「・・・・・・・・・いつも、世話になってますから」
しかし、玲には今のやり取りが気になって仕方がなかった
「あの・・・杏さんと翼宿さんの間に何があったんですか?」
「え?」
「もし差支えなかったら・・・教えてくださいませんか?」
「うっ・・・・・・・・・・・ひっく・・・うっ・・・」
杏は、自販機の前で泣いていた
置いて行かれる
「杏・・・?」
別の声に呼ばれた
振り返ると、魄狼が立っていた
「魄狼はん・・・」
「何してるんだ?お前・・・」
「別に・・・何でもない・・・」
涙は止まらない
「翼宿か?」
杏は、無言で頷く
魄狼は、溜息をつきながら杏の横に座った
「お前もいつまでも餓鬼だな。そんなんでビッグになれると思ってるのか?」
「え・・・」
「俺だって、悔しいよ。だけど、今は認めたいと思ってる。そんなあいつが一人でやってこうとしてる。すげー度胸だよ。あいつは本物だ。人への義理も恩も忘れない。人間としてもアーティストとしても出来た男だよ」
「・・・・・・・・・・・」
「お前は、何年あいつと一緒にいたんだ?ブランクはあっても、ずっと好きだったんだろ?そーいう翼宿が好きじゃなかったのかよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・魄狼はん」
涙は、止まった
「そうですか。そんな事が・・・」
翼宿は、当たり障りなく説明を終えたところだった
「この間聞いたライブでの歌詞、ホンマは驚いてました」
「そうですよね。だけど、彼女もここまで這い上がってきたんです。それだけは認めてあげましょう?」
「それは、そうです。別にこれで別れやない。あいつの事は、ちょくちょく気に掛けるつもりです」
玲は、そこで一瞬間をあけた
「だけど・・・私も、翼宿さんのお世話をずっとしていきたいです」
「玲さん・・・」
「いいですか?」
「えぇ・・・それは構いませんが」
先日の出来事が頭を過ぎる
「とりあえず、出発は明日にしましょう?私も、準備します」
翼宿は、夜になっても眠れずに煙草を喫煙室で吸っていた
今日で、この寮ともお別れだ
名残惜しいが、これも全てMICHEALの為だ
「翼宿」
すると、誰かに名前を呼ばれる
振り向くと、ドアのところに杏が立っていた
「杏」
「隣・・・えぇ?」
杏は、無理に笑っているようだった
「あぁ」
「・・・・・・・昼間はごめん」
「いや」
「あたしらしくないよね。あんな取り乱して・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「行ってえぇよ・・・翼宿」
「杏・・・」
「あたしも、いつまでもあんたにくっついてちゃあかんよね。自立する。頑張る」
その語調が震えていた事に、翼宿は気づいていたが
「・・・・・・・・・・・・おおきにな。杏」
杏の涙は、今にも零れ落ちそうで
そんな彼女の頭を、翼宿はそっと撫でた
「お前の様子、見に来るから」
「うん・・・」
「すぐそこにある小さい稽古場や。お前も息抜きに遊びに来い」
「うん・・・」
様々な不安はある。翼宿がどんどん遠くに行く事。一人ぼっちになる事。玲の事・・・
だけど、きっと信じられる・・・あんたは、絶対にまた帰ってくるって
Plllllllllllll
『もしもし』
「もしもし?たまか?久し振り」
『翼宿・・・珍しいな。お前からなんて』
「ちぃと、経過報告にな。お前とサシで話したかったし」
『どうしたんだ?』
「俺、今の稽古場離れる事にしたんや」
『何で・・・何でだよ?あんな待遇いい養成所他にないって夕城プロも言って・・・』
「MICHEALはんが、倒れた。看病しながら、自由に稽古出来る場所を紹介してもろたんや」
『そうだったのか・・・』
「ま、しばらくはそこでみっちり稽古や。もう日本にはしばらく帰れんと思う」
『そっか・・・残念だな』
「夕城プロには、FAXしといた。柳宿にも・・・その内言うつもりや」
『早めがいいよ。まぁ、分かってくれるだろうけど』
「・・・・・・・・・・・・たま」
『何だ?』
「何かあったか?元気ない」
彼の語調がいつもと違う
『や・・・何もねぇよ!!何言ってんだよ!!』
「なら・・・えぇけど」
『何てな・・・嘘。今、結構大変でさ。バイト先の先輩が麻薬やってて、昨日橋から転落したんだ。見舞いに行ったんだけど、追い返されちまった。日辺りのいい場所で育ってきた俺には気持ち分からないって』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
『はは・・・まぁ、当然だよな。何で俺・・・気持ち分かるみたいな言い方したんだろ』
「ホンマに、日辺りのいい場所で生きてきたか?」
『え・・・?』
「初めてお前と会うた時、とてもそんな風に見えへんかったで」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
「必死に妹探して、血相変えて怒って、兄弟背負って親父はんの看病しとって・・・並の男が経験しない事、お前はたくさんしてきてるやろ。その経験を、そいつに説明してやったか?」
『翼宿・・・』
「同じ目線で向き合えや。今のお前は、「空翔宿星」の鬼宿やない「普通の人間」の鬼宿なんやから」
『さんきゅ・・・翼宿』
それは、自分がこの稽古場で学んだ事でもある
同じ目線、同じ音楽、同じ世界を共有する事の楽しさと苦しさ
きっと、音楽を離れればみんな同じなんだと思う
杏が、翼宿の部屋を訪ねた時は、既に大方の荷物が始末されていた
「あんた・・・ここを出るって、本当・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・あぁ」
「何言うとるん!?ここを出たら、社会のごみになったも同然なんよ!?」
「別に、ここだけがゴールやないやろ」
「あんた・・・ホンマにそれで・・・」
「俺は、MICHEALはんに感謝しとるんや。今度はMICHEALはんの看病しながら、自己流で稽古したい」
「翼宿・・・」
「玲はん一人にも、任せておけんしな」
「・・・・・・・!!!」
その言葉に、杏は反応する
「杏。お前は頑張るんや。俺は男やからやってけるだけやし。魄狼はんと頑張れ」
翼宿は、最後の荷物を持ち部屋を出て行こうとした
「嫌やっ!!!!!」
杏は、翼宿を後ろから抱き締めた
「・・・・・・杏!?」
「何で・・・何で、そうやっていつもあたしを置いてこうとするん!?」
杏の頬には、涙が流れていた
「あの日も・・・あの日もそうやった・・・追いかけようとしたあたしを振り切ってあんたは一人で・・・もう、あたしはあんたの後ろ姿は見たくないんや!!」
すると、玲が廊下の角からこちらを見ているのが分かった
「・・・・・・・・・玲さん」
そのまま、杏は廊下の向こうへ駆けだした
「杏!!」
そこには、玲と翼宿が取り残された
「・・・・・・・・翼宿さん。今の話本当ですか?」
「・・・・・・・・・はい」
「私とMICHEALの為に・・・?」
「・・・・・・・・・いつも、世話になってますから」
しかし、玲には今のやり取りが気になって仕方がなかった
「あの・・・杏さんと翼宿さんの間に何があったんですか?」
「え?」
「もし差支えなかったら・・・教えてくださいませんか?」
「うっ・・・・・・・・・・・ひっく・・・うっ・・・」
杏は、自販機の前で泣いていた
置いて行かれる
「杏・・・?」
別の声に呼ばれた
振り返ると、魄狼が立っていた
「魄狼はん・・・」
「何してるんだ?お前・・・」
「別に・・・何でもない・・・」
涙は止まらない
「翼宿か?」
杏は、無言で頷く
魄狼は、溜息をつきながら杏の横に座った
「お前もいつまでも餓鬼だな。そんなんでビッグになれると思ってるのか?」
「え・・・」
「俺だって、悔しいよ。だけど、今は認めたいと思ってる。そんなあいつが一人でやってこうとしてる。すげー度胸だよ。あいつは本物だ。人への義理も恩も忘れない。人間としてもアーティストとしても出来た男だよ」
「・・・・・・・・・・・」
「お前は、何年あいつと一緒にいたんだ?ブランクはあっても、ずっと好きだったんだろ?そーいう翼宿が好きじゃなかったのかよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・魄狼はん」
涙は、止まった
「そうですか。そんな事が・・・」
翼宿は、当たり障りなく説明を終えたところだった
「この間聞いたライブでの歌詞、ホンマは驚いてました」
「そうですよね。だけど、彼女もここまで這い上がってきたんです。それだけは認めてあげましょう?」
「それは、そうです。別にこれで別れやない。あいつの事は、ちょくちょく気に掛けるつもりです」
玲は、そこで一瞬間をあけた
「だけど・・・私も、翼宿さんのお世話をずっとしていきたいです」
「玲さん・・・」
「いいですか?」
「えぇ・・・それは構いませんが」
先日の出来事が頭を過ぎる
「とりあえず、出発は明日にしましょう?私も、準備します」
翼宿は、夜になっても眠れずに煙草を喫煙室で吸っていた
今日で、この寮ともお別れだ
名残惜しいが、これも全てMICHEALの為だ
「翼宿」
すると、誰かに名前を呼ばれる
振り向くと、ドアのところに杏が立っていた
「杏」
「隣・・・えぇ?」
杏は、無理に笑っているようだった
「あぁ」
「・・・・・・・昼間はごめん」
「いや」
「あたしらしくないよね。あんな取り乱して・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「行ってえぇよ・・・翼宿」
「杏・・・」
「あたしも、いつまでもあんたにくっついてちゃあかんよね。自立する。頑張る」
その語調が震えていた事に、翼宿は気づいていたが
「・・・・・・・・・・・・おおきにな。杏」
杏の涙は、今にも零れ落ちそうで
そんな彼女の頭を、翼宿はそっと撫でた
「お前の様子、見に来るから」
「うん・・・」
「すぐそこにある小さい稽古場や。お前も息抜きに遊びに来い」
「うん・・・」
様々な不安はある。翼宿がどんどん遠くに行く事。一人ぼっちになる事。玲の事・・・
だけど、きっと信じられる・・・あんたは、絶対にまた帰ってくるって
Plllllllllllll
『もしもし』
「もしもし?たまか?久し振り」
『翼宿・・・珍しいな。お前からなんて』
「ちぃと、経過報告にな。お前とサシで話したかったし」
『どうしたんだ?』
「俺、今の稽古場離れる事にしたんや」
『何で・・・何でだよ?あんな待遇いい養成所他にないって夕城プロも言って・・・』
「MICHEALはんが、倒れた。看病しながら、自由に稽古出来る場所を紹介してもろたんや」
『そうだったのか・・・』
「ま、しばらくはそこでみっちり稽古や。もう日本にはしばらく帰れんと思う」
『そっか・・・残念だな』
「夕城プロには、FAXしといた。柳宿にも・・・その内言うつもりや」
『早めがいいよ。まぁ、分かってくれるだろうけど』
「・・・・・・・・・・・・たま」
『何だ?』
「何かあったか?元気ない」
彼の語調がいつもと違う
『や・・・何もねぇよ!!何言ってんだよ!!』
「なら・・・えぇけど」
『何てな・・・嘘。今、結構大変でさ。バイト先の先輩が麻薬やってて、昨日橋から転落したんだ。見舞いに行ったんだけど、追い返されちまった。日辺りのいい場所で育ってきた俺には気持ち分からないって』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
『はは・・・まぁ、当然だよな。何で俺・・・気持ち分かるみたいな言い方したんだろ』
「ホンマに、日辺りのいい場所で生きてきたか?」
『え・・・?』
「初めてお前と会うた時、とてもそんな風に見えへんかったで」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
「必死に妹探して、血相変えて怒って、兄弟背負って親父はんの看病しとって・・・並の男が経験しない事、お前はたくさんしてきてるやろ。その経験を、そいつに説明してやったか?」
『翼宿・・・』
「同じ目線で向き合えや。今のお前は、「空翔宿星」の鬼宿やない「普通の人間」の鬼宿なんやから」
『さんきゅ・・・翼宿』
それは、自分がこの稽古場で学んだ事でもある
同じ目線、同じ音楽、同じ世界を共有する事の楽しさと苦しさ
きっと、音楽を離れればみんな同じなんだと思う