Making of the Moon【翼宿side】

「翼宿さん。久々のステージですねv」
まだ若手の店長が、翼宿にエールを送る
「いや~・・・ステージで歌うんは、実に解散ライブぶりですね」
「来るといいですね。・・・お客さん」
「・・・えぇ」
夕方の便で発たなければならない
また、しばらく会えなくなるが
それでも祝いたかった。今日この日を

コツン
足音が聞こえた
・・・来た
ゆっくりと奏でる曲は、懐かしいあの曲
死ぬほど照れくさいけど、率直な歌詞
普段触れないギターで作った不器用な旋律
だけど、他の誰でもない彼女を想って書いた曲だった

彼女の反応は分からない
なぜなら、彼女と自分の間には白い垂れ幕が下がっているからだ
顔は見られない。声だけ伝える
これは、最初からそう決めていた事だからだ

「・・・・・・・・久し振り」
曲が終わり、驚いた事に声をかけてくれたのは彼女の方だった
「・・・よう」
「元気そうだね」
彼女の声が震えていたのは、分かっていた
「色々・・・すまんな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿」
だけど、その言葉には含み笑いもあって
「翼宿。あたし・・・」
「やけど、今は会えん」
そこははっきりと答える
「もう少し待ってくれや。まだ・・・俺は、お前にふさわしい男になっとらん」
「そんな事・・・」
「やけどな、いつかお前にとっても音楽の世界でも・・・必ず頂点に立ってみせるから」
自分の精一杯の思い
「・・・・・・・・・・・・分かった。あたしも、あんただけしか見てないよ」
彼女は、泣いていた
翼宿は、そっとギターを片付ける
すると
やわらかい香水の香り
そして・・・彼女の手はそっと垂れ幕の間から自分の手を握っていた
「だけど・・・・・今だけ」
翼宿は、微笑みそっと手を握ってやった

今、誰よりも近くにいる


「翼宿!!」
空港のターミナルでは、杏が待っていた
そして、MICHEALと玲の姿も
「・・・お帰りなさい」
「ただいま」
自分のもう一つの場所
自分は、まだここでやるべき事がある
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