Making of the Moon【翼宿side】

『翼宿。本当によかったのかい?私が無理に君を彼らから引き離しはしなかっただろうか?』
LA空港に迎えに来たUMの車の中
MICHEALは、心配そうに隣のスターに問いかける
スターは、微笑んで首を横に振る
「平気です・・・。俺の夢が叶うんです・・・。一緒に頑張らせてください」
翼宿・・・世紀の大スターの笑顔だった

車が向かう先は、UMの上を行くLA一の音楽企業『FirePowerSound』
ドーム並の大きなオフィスに、翼宿は驚く
「すっげ・・・」
『さぁ。降りなさい、翼宿』
MICHEALが先導する
その時、様々な報道陣のシャッターが光った
「翼宿さん!!少しお話を!!」
「遂に海外での活動を開始されるという事ですが、今の心境は!?」
「メンバーの皆さんときちんと話はついたんですか!?」
『今はそっとしておいてやってくれ!!』
MICHEALが英語で報道陣を払いのける
そのまま、扉はガードマンによって閉められた
「すんません。何か・・・」
『あぁ。失敬。私は日本の報道陣が嫌いなものでね。ところ構わず他人の事情に首を突っ込んでくる・・・海外に来てまでね』
「まぁ、そりゃ確かに」
『気にせずに。こちらへ』

『失礼いたします』
MICHEALが社長室を開ける
少し派手な髪形をしてスーツを着た男が、椅子から立ち上がる
『君が翼宿かね!?』
すぐさま駆け寄り、手を握る
『君の活躍はテレビで拝見していたよ。日本を代表するトップシンガーに会えて光栄だよ。私はPole。よろしく頼む』
「初めまして・・・。よろしくお願いします・・・」
『翼宿。私とPole氏で提携した養成所に、まずはお前を一年間通わせよう。まぁ、君の技量なら一年経たずとも立派になってくれるだろうが。世界で競い合う各国のトップシンガーやミュージシャンとの交流も、お前には必要だろう』
「光栄です・・・ありがとうございます」
『今日は疲れただろう?裏のホテルでゆっくり休むがいい。明日の昼から打ち合わせをしよう』
Poleも、にっこりと微笑んだ

「こちらです。翼宿さん」
MICHEALの通訳である日本人の玲は、ホテルの部屋を案内する
「すまんな・・・玲さん。俺、全然英語喋れんで」
「気にしてません。私に出来る事があったら、何でも言ってくださいね」
玲は、そう言うと「おやすみなさい」と告げ、自室へ戻っていった

部屋に入ると、高級すぎるベッドに腰をおろした
「こんなん・・・窮屈やなぁ」
自分が未だトップシンガーと認められた自覚がない翼宿
その時、小指の指輪が光った

『あんたも・・・最高のミュージシャンになって帰ってきて』

妹の最後の願い
涙を堪えていた妹の顔を思い出すと、頭痛がする
「すまんな・・・柳宿」
今はまだ、連絡はしてはいけないだろう
少し落ち着いたら必ず連絡する・・・そう決めていたから

そして、取り出した一枚の写真
それは、まだ誰にも見せた事がない翼宿の中の『思い出』

『翼宿!!見てろや!!あたし、絶対ミュージシャンになって、あんたのその不良じみた心に絶対いい歌響かせてやるんや!!』

それは、中学の同級生が無理矢理グレていた自分を連れ込んで撮った一枚のポラロイド
その女は、自分にところ構わずつきまとい、自分を更生しようとしてくれた女性
そしていつしか自分も追いかけた夢を、自分よりずっと前から追いかけていた前向きな女性だった
結局退学をして、連絡もつかずじまいではあるが
「どないしてるんやろな・・・今頃」
翼宿は、懐かしそうに微笑んだ
運命の再会は、もうそこまで来ていた
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