Making of the Moon【翼宿side】

『日本から渡米してきたベースボーカリスト翼宿のシングルが発売日当日から完売という事態が起こりました!!』
街のテレビからは、そんな英語が流れてくる
12月中旬、翼宿の米国でのシングル発売
チャートは大変な騒ぎになった
そんなニュースは年明けもやまず、翼宿には既に2月の時点で、アルバム制作、写真集撮影、エッセイ執筆、楽曲提供に握手会、ライブの依頼が殺到していた

「あいつ、まぢですげーな・・・」
魄狼を筆頭とするインディーズバンド「Wolf」のメンバーもこの報道には驚いている
「どうせ、最初だけだろ」
魄狼が面白くなさそうに煙草に火をつける
そんな中、杏は一人満面の笑みを浮かべていた

「翼宿さん!!次のお仕事です!!」
少し髪の毛の色を変え、少し高級なアクセサリーをつけた翼宿は車に乗り込んだ
「凄い反響ですね。私も嬉しいです」
『翼宿。事務所に日本からのプレゼントも届いているぞ』
セレブのような扱いを受けて、幸せな筈なのになぜか脳裏によぎるのは最後の言葉

『距離置こう・・・・・・・・・・・・・あたし達』

あれから、二か月

「翼宿!!今日もお疲れv」
寮のロビーでは、杏が待っていた
「何や。今日も張り込みかいな~」
翼宿は苦笑いする
「ここであんたを待つのが楽しみなんやvなぁ~今日も仕事の話聞かせてやv」
休憩室でほんの少しだが、仕事の話をするのが最近では日課になっていた
「それよりも、Wolfの次のライブ決まったんやろ?」
「ああ~また、あのライブハウスで出来る事になったんやv絶対見に来てよねv」
「いつや?」
「来月の1日やv」
携帯でスケジュールをチェックする
そして、指が止まる
「翼宿?」
「いや・・・」
忘れていた。10日は、あいつの誕生日
「俺・・・帰るかもしれん。その次の日辺りに」
「え・・・帰るん?」
「えぇ加減にあっちにも顔出さんとな」
「そ・・・か・・・。そうやな」
以前は自分の騒動のせいで、翼宿は帰れなかった
もう、自由を拘束する事は出来ない
「まぁ、いられて一週間やろ。まだこっちのプロモーションの予定もぎっしりやし」
「メンバーのみんなにも会うんやろ?楽しみやね・・・」
その言葉に、翼宿は口を噤む
「翼宿?」
杏は気づいていた
翼宿の右手の小指の指輪が二か月間消えている事を
「柳宿さんと・・・別れたん?」
「・・・・・・・・・・・・・・さぁな」
「さぁなって・・・。あんた、柳宿さんの事好きなんやろ?」
「もう、音信不通になって二か月も経っとるしな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしは、柳宿さんは翼宿と会わない方がえぇと思う」
翼宿は意外な表情をする
「てーか、あんたも何もこだわる事ないやん!!国際恋愛なんて、体力要る事やで!?そりゃあ・・・大事な仲間かもしれんけど、それだけでえぇやん・・・」
「そうなんやけどな」
珍しく気落ちする翼宿
しかし、次の瞬間すぐに笑顔を取り戻す
「お前には関係ないやろが!!それより、お前もこっちでえぇ男でも作ればえぇやん!!」
杏は顔を赤くする
「そんな・・・・・・・・・・・・・・あたしは・・・あんた以外は・・・」
「翼宿さん!!」
玲の声
「MICHEALが話があるそうですよ」
「分かりました!!すまんな。また、今度・・・」
玲は杏をちらりと見たが、すぐに引き返した
「翼宿・・・」

MICHEALにも了承を貰い、今度こそ日本に連絡をする
FAXで直筆で
帰る。帰るんだ・・・
日本で応援してくれた美朱
飲み屋で暖かく出迎えてくれた奎宿や昴宿
世話になった事務所の天文や夕城プロ
共に楽器を奏でた鬼宿や・・・

「俺は・・・やっぱり会わん方がえぇのかもな」

そのまま、FAXを送信する

会いたいのに、会えない
君は今・・・何を考えている?
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