Making of the Moon【翼宿side】

その日は養成所の練習室で翼宿はベースの練習をしていた
相変わらず、外の報道はやまないからだ
「こんな日も、練習?」
杏は、今日も練習をしている翼宿に声をかける
珈琲を差し出す
「おおきに」
「あんた・・・ホンマに音楽好きなんやね」
「そりゃあな・・・だったら、何の為にアメリカ残ったんかって感じやし」
杏は、一番気になる話題を未だ聞き出せないでいた
柳宿との事
確かに、留守電に入った彼女の声は聞いたが
まだ、彼女との交際が確定した訳ではなかった
もしかしたら、本当に鬼宿と付き合っていたのかもしれないし
「・・・今頃、日本ではどないしてるんやろね。あの二人」
「・・・・・・・・・・」
「仲・・・良かったんやろ?みんな」
「・・・せやな」
「そら、ショックやろ。打ち明けてくれへんかったら・・・あたしだって」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あんたの彼女も・・・そうなってなきゃえぇけどね」
そう呟く
そこで、彼の反応はなくなった
その時
携帯が鳴る
窓を見て、翼宿はベースを置いた
「ちょっと・・・」
「どこ行くん!?」
「大事な電話なんや」
翼宿は、そのまま練習室を出て行った

「もしもし?」
『もしもし。翼宿・・・?あたし・・・』
「柳宿か・・・どないしたん?」
『あのさ・・・怒ってるよね?』
翼宿は、微笑んだ
「怒ってへんわ・・・。お前の焦りよう見ると、怒る気も失せるがな」
『ありがとう・・・あたし・・・さっきの電話で言えなかったけど・・・あんたに何て言えばいいか・・・』
「えぇよ。気にしてへん」
『・・・・・・・・・・・美朱とか、友達とかからさ、いっぱいメール貰った。一番ショックなの美朱だよね』
「お前のせいやない。誤解なんやから」
『うん・・・それで、あたし考えたんだ』
「何をや?」
『これは・・・あんたにしか相談出来ないと思って』
その次の言葉を聞いて、翼宿は驚いた
「・・・本気か?」
『次に迷惑をかけるのは・・・翼宿だと思う。だけど・・・だけどね?嘘の報道をされるよりは・・・いいと思うんだ』
その言葉に、暫し考える
『ごめん・・・勝手だよね。ごめん』
「・・・・・・・・・・・えぇよ」
『え?』
「俺も・・・ついてかなきゃあかんよな」
苦渋の決断だった

数日後
相変わらず、養成所の前にはたくさんの報道陣
「しつこいですね・・・世界のメディアも」
『そろそろライブ前の追い込みもしなきゃいけないのに』
玲とMICHEALは、心配そうにその光景を眺める
しかし、その後ろで翼宿はベースを背中に背負う
「翼宿?外出るん!?」
その顔つきは、何かを決心しているようだった
「あぁ。今に分かる」
つけていたテレビから、その報道は流れた

『私は・・・翼宿とお付き合いしています。今回の報道は、誤解です』
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