Making of the Moon【翼宿side】

[退学]
そんな紙を突き付けられたのは、自分が中学の時だった
勉強なんかつまらない。出来るのは運動だけ。
酒と煙草・・・大人の世界に酔いしれて、手を出してみた
そうしたら、学校にばれた

親に散々叱られ、良心のある高校に入れてもらった
今度こそ自分の道をと思っていたけれど、中々夢中になれるものが見つからない
そんなある日だった

ザーーーー
雨の降る大阪の繁華街
軒下で煙草を吸いながら、今日も考え事をする
(何かおもろい事ないやろか・・・)
ドサッ
そんな時、傍のごみ置き場に何かが投げられた
見ると、黒いギターケースのようなもの
翼宿はそれを拾い上げた
中身は・・・まだ新品のベース
「裕福な坊ちゃんやなぁ・・・こんなん捨てるなんぞ」
呟いたが、そのベースの輝きに一瞬で心を奪われた
まだ、遅くないなら・・・やってみてもいいか
そんな気持ちだった

♪♪♪
「翼宿!!何時やと思うてるの?はよう寝なさい!!」
それからというもの、翼宿はベースの魅力にのめり込んだ
教本は店のものを全て制覇した
楽器店にも通い詰めて、指導してもらった
音楽って楽しい。いつしかそう思えるようになったのだ

『ベーシスト魄狼さんが、今年のベストオブベース賞を受賞しました!!』
テレビから流れる受賞の声
世界のベーシストや日本のベーシストにも強い興味を持っていた翼宿
(俺も・・・いつかこんな風になれたら・・・)
それは、今しかない。今しか・・・スタートラインには立てない事なのだ
翼宿は次の瞬間、居間に飛び出していた
「親父!!おかん!!俺・・・東京行きたいんや!!」
両親は度肝を抜かれた顔をした
「東京・・・何言うとるの!!せっかく高校にも慣れて最近大人しくしてる言うのに!!」
「迷惑かけたんは、ホンマに謝る・・・せやけど、俺・・・プロになりたいんや!!呑気に大阪の高校通ってる場合じゃないんや!!せやから、お願いや!!明日から高校辞めて、東京行かせてくれ!!向こうではちゃんと転入もするし、一人暮らしもするよって!!」
「ドアホ!!!!何ふざけた事言うてるんや!!」
突然、父親が立ち上がった
ドカッ
「あんた・・・!!」
父親は翼宿を殴り飛ばした
「散々親に迷惑かけといて、次は独り立ちだぁ!?ふざけんなや!!お前は世の中甘く見とるんや!!一人で生きていける訳がないやろが!!!」
「・・・・・・・・・・・・親父は賛成してくれへんのやな」
翼宿は黙って立ちあがった
「・・・やらせたってくれや・・・。泣き言吐いて帰ってきたら、もうあんたらの息子て認めなくてもえぇ・・・」
すぐさま、鞄とベースを持つ・・・そして、家を飛び出した

「翼宿!!」
次の日の朝、東京駅で待っていたのは好青年な男
「久し振り!!半年ぶりかぁ!?いや~また派手になったな!!」
「・・・たまも、相変わらずやな」
その「たま」と呼ばれた少年は、鬼宿
「あの時は、妹が世話になったよ!!」

そう。翼宿が以前一人旅をした時、迷子になっていた鬼宿の妹を助けたのがきっかけだった
宿もないし、お金もなかった翼宿は一週間鬼宿の家で世話になった事があるのだ

「お前の親父さん・・・まだ悪いんか?」
「ああ・・・。全部家事は俺と次男がやってるよ。せめて親父も仕事出来ればいいんだけどな。それより、親父さんと喧嘩して家飛び出しちまったんだって!?お前、これからどーすんだよ!?」
「とりあえず、お前の家に居候・・・って訳にもいかんからな。今日から家探しや」
そう言って、眩しそうに笑う翼宿

数ヶ月後
♪♪♪
「おい」
高校の屋上でベースを弾いている時、誰かに声をかけられた
見上げると、そこには黒い長髪の男
「お前、ベースラインいいな。俺ら今、バンド組んでるんだけどさ。ベースに穴が開いて・・・一緒にやってみないか?」
これも一種の経験。翼宿は素直に誘いを受けた

「バンド組んだのか!?」
その夜、酒を飲みながら鬼宿と翼宿は語り合っていた
「ああ。何や見るからにファン欲しさでやっとるバンドやけどな。経験やと思ってやってみる事にした」
「いいじゃねえか!!いいなぁ~俺もそういうの出来たら・・・」
「・・・お前、ドラムやってみぃひんか?」
「へ・・・?」
「この前見学に行ったスタジオのバンド、ドラムがいぃひんらしいんや。せやけど、バンドしたい言うとってて・・・次のドラムが決まれば初心者でも、前のドラムが教えてくれる言うとったから、気分転換にやってみたらどうや?」
「ドラムかぁ・・・俺に出来るかな」
「スタミナは十分やろvほな、紹介してやるさかい」
東京に出てきて、音楽の仲間がどんどん増えていく
そんな感じがした

「いっやぁ~v今日のライブは最高だったなv女の固定ファン増えてきたんじゃねえかぁ!?」
「モテてる気がしていいよなvやっぱ、ライブは最高だv」
ライブが終わり、バンド一同は控え室へ入っていった
「よう。翼宿。ステージでもびびんないでよくやれたな」
ボーカルの星が翼宿の肩を叩く
「まぁ、あんなもんやろ」
そのまま、翼宿は外に出た
Plllll
『はい。候です』
「おかんか…?俺や」
『翼宿!?あんた今、どこにおんの!?半年間も連絡よこさんと!!』
「東京や。家も見つけたし、学校もちゃんと行ってる」
『翼宿・・・』
「おかん・・・。親父にも言うといてくれや。いつか・・・いつか恩返しできる日が来る」
音楽という形での恩返し
今までの自分への罰と、これからの自分への希望
交錯した上京生活は始まった
そして・・・君と出会う日が来る
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