Making of the Moon【鬼宿side】

「鬼宿!!」
小田島が、病院の入り口で彼の帰還を待っていた
「退院おめでとう。俺でよかったのか?迎え」
「ああ。お前と一緒に帰りたかったからさ」
鬼宿は、いつも通り微笑んだ

「その・・・考えてくれたか?選手権」
港の路地を歩きながら、二人は話をした
「うん・・・色々考えたんだけどさ」
「予想以上に悩ませたみたいだな。本当ごめんな」
「いいんだよ。誘ってくれて嬉しかった」
「それで・・・」
「ごめん・・・俺、選手権には出られない」
海の風が、頬を掠める
「そっか・・・」
「本当ごめんな」
「いいんだよ・・・分かってた。何となく」
「理由もちゃんとあるんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「俺さ、本当はもっと新しい世界に飛び込みたい。色んな音楽と触れたいんだよ。そこで新しい発見も出来るかもしれない。何より俺・・・博人と演奏したかったんだ」
「鬼宿・・・」
「だけどな。本当・・・情けない話なんだけど・・・俺、「空翔宿星」の思い出を捨てたくないんだ」
それが本音。素直な本音
「いつまでも・・・情けないって思ってる。だけど、俺は「空翔宿星」のドラマーなんだ。何かに夢中になるともう二度と戻れない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「三人が日本に残って別々の道を歩んでいるなら、俺ももしかしたらもう一度ステージに立てたかもしれない。だけどさ、詳しい事は言えないけど・・・今、翼宿が向こうで必死に頑張ってるんだ。俺がここで出来る事はあいつの帰りを待つ事」
「鬼宿・・・」
「何もかも済んだら・・・また、誘ってほしい」
「分かった。今はお前のやりたいようにやれよ。俺はお前をずっと待ってるから」
「ありがとな」
鬼宿は、小田島の肩をポンポンと叩いた

「AKAONI・・・・・・・か」
「店長。どう思いますか?」
その夜、挨拶がてら先日届いた手紙をバイト先の店長に見せてみる
「確かに、いい機会かもしれない。ここはうちも入荷を要請した大手会社なんだ。だけど、ここは本当にチェーン店として認めた店にしか出荷をしていないらしい。とてもいい楽器を生産しているんだ」
「そうなんですか・・・」
「一度、店を見てきたらどうだ?確か、本社が埼玉にある筈だ」
「埼玉・・・か」
「まぁ、締切も迫ってきてるからな・・・早めがいいだろ。最終選考だろ?これ」
遂に自分の就職活動が始まる

Plllllll
『もしもし』
「美朱か?」
『鬼宿!!退院出来たんだね!!おめでとう!!』
「ありがとな。美朱のお陰だよ」
『そんな事ないよ~タフでよかったよねv』
「それでさ・・・美朱。ちょっとお願いが・・・」
『何?』
「春休み、俺と一緒に埼玉についてきてくれないか?」
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