Making of the Moon【鬼宿side】

「失礼します」
鬼宿は、それから毎日小田島の病室を訪れた
「今日、バイト先の客がさ~」
「今日の講義まぢで眠くてさ~」
毎日毎日他愛のない話題
小田島は、そんな話をいつもくだらなそうに聞いていた
そして、鬼宿はいつ核心に迫る話をしようか思い悩んでいた

「はぁ・・・」
今日も、溜息をつきながら病院を出る
どうすれば、彼の心の闇を取り除けるのだろうか
勿論、全ての闇を取り除きたいなどとは思わない
だけど、せめて彼にとって「一番の友人」になれるならば
彼とは、不思議な縁で繋がっているような気がしてならなかったから

すると
向こう側から、幸樹が走ってくるのが見えた
「幸樹」
声をかけようとして、凍りついた
彼の後ろから、スーツの男性集団が追いかけてきたからだ
「幸・・・・樹」

ドサッ
路地裏に追い詰められた幸樹
「おいおい~藤村さん。困りますよ~?払ったもんは返してくれなきゃ」
「あんた、利子分の50万随分遅れてますよね?」
「だから・・利子なんて聞いてませんってば・・・」
「ざけんなっ!!!!」
そう。幸樹は、鬼宿から貸してもらった300万を全て返済した筈だった
しかし、後から貸し手側から利子50万の請求があったのだ
鬼宿への返済の為にバイトしていた幸樹には、とてもそんな有り金はなかった
「だったら、あんたの命と交換でもいいんですぜ?」
男の一人が、ナイフを突きつけた
「やめろ!!!」
鬼宿が、その間に割って入った
「んだー?お前は」
「幸樹が何したって言うんですか!?もうやめてください!!」
「鬼宿・・・」
「兄ちゃん。邪魔するなら、あんたも怪我する事になるぜ。おい」
後ろの集団に声をかけるボス
「幸樹・・・逃げるんだ」
「え・・・」
「俺が囮になってる間に・・・早く!!」
ドカッ
頭に、衝撃が走る
そのまま、鬼宿は倒れた
「やっちまえ!!!!」
「鬼宿!!!!」

「新人発掘なんて、無理でしょー・・・いきなり街に出てまで」
「何を弱気になってるんだ、天文!!!もういい加減に次のバンドを見つけないと・・・」
夕城プロと天文は、新人を探そうと街を散策していた
「ちょっと・・・あれ、喧嘩?」
おばさんの声に、二人はふとそちらを見た
「物騒だなー・・・こんな隅っこでみっともない」
夕城プロが呟いたが、次の瞬間目を疑った
「たっ・・・鬼宿!?」

「やっちまえ!!!」
男たちは、鬼宿と幸樹を殴り続ける
「幸樹・・・逃げろ!!!!」
鬼宿は、必死に叫んだ
「おい!!何やってんだおめぇら!!」
そこに、天文が割って入る
「警察に連絡した!!そこ動くんじゃないぞ!!」
夕城プロも、その後ろから怒鳴りつける

「鬼宿!!!」
美朱と柳宿が、病院に駆けつけたのは御用になって三時間後だった
「美朱・・・柳宿。いやー派手にやられたよ」
応急処置室では、包帯をあちこちに巻いた鬼宿が苦笑いをしている
「馬鹿!!鬼宿、喧嘩弱いんだから無理しないでよぉ~」
美朱が、涙交じりに抱きつく
「よかったよ。発見が早くて。あの大人数に二人は地獄だったよな」
夕城プロは、安堵の笑みを浮かべている
「本当・・・すみませんでした。俺のせいで」
「何言ってやがんだ。お前一人なら、確実にあの世行きだったぞ?」
謝る幸樹を、天文が励ました
「よかった・・・二人とも無事で」
柳宿も、ホッと胸をなでおろした
「あ・・・紹介するよ。俺と同じ専門学校の藤村幸樹。翼宿に憧れて、ベース始めたんだってさ」
改めて、鬼宿は幸樹を紹介した
「そうか。あんな集団に追われて大変だろ。しばらくうちの寮に住んだらどうだ?」
夕城プロが、思いもかけない提案
「それいいな!!お前、これからも何があるか分かんないからな」
「本当すみません・・・だけど、俺お金・・・」
「いいよ。こっちで援助してやるから。音楽の世界で生きる者は、みんな仲間じゃないか」
夕城プロの言葉に、一同は胸を熱くした
これで、幸樹の問題は一件落着
しかし、鬼宿は応急処置室の扉から覗くもう一人の存在に気づいた
「博人・・・?」
そういえば、彼の入院している病院だった
小田島は、名前を呼ぶと逃げるように立ち去って行った
次は、彼の心を開く事
未解決のまま、夏は終わっていく・・・
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