Making of the Moon【鬼宿side】
家族を護っていく事が、生きがいだと思っていた
誰かの為に生きる事が、優しさだと思っていた
だけど、違うんだ。自分の為に生きていいんだ
俺には、いつだって仲間がいるんだから
「結蓮~結蓮~ったく・・・どこ行ったんだ」
黒髪の好青年が東京駅を走る
さっきまで一緒にいた筈の妹がいない
こんな人の多い東京駅で迷子になったら、たまったもんじゃない
兄貴は顔を真っ青にしながら、妹の名を呼び続けた
「兄ちゃん・・・兄ちゃぁ~ん・・・」
一方、兄が本を買っている間に、ついつい傍を通り過ぎた風船を持った少年に気を取られてしまった
妹の結蓮は、そのまま東京駅の人ごみの中に紛れ込んでしまった
この歳じゃ、迷子センターも分からない
目をこすりながら歩いていた結蓮は
ドカッ
目の前に立ちはだかっていた足にぶつかった
恐る恐る見上げると、そこには橙色の髪の毛をした青年
きつそうな三白眼に、思わず結蓮は顔を歪ませる
「・・・何や。お前・・・」
ピンポンパンポーン
『迷子のお知らせです。都内から起こしの鬼宿様。鬼宿様~。迷子センターで、妹の結蓮ちゃんがお待ちです』
「えぇっ!?」
まさかあの歳で本当に迷子センターへの行き方が分かったのだろうか
とりあえず、鬼宿は迷子センターへ急いだ
「結蓮!!」
「兄ちゃん!!」
迷子センターで待っていた妹は、ぱっと顔を輝かせ、兄に飛びついた
「お前・・・勝手に兄ちゃんから離れるなって言っただろ!?」
「だってぇ~・・・風船が~」
鬼宿は、結蓮の頭を撫でた
「結蓮は、兄ちゃんの宝物なんだぞ?いなくなられたら、兄ちゃん本気で困る。もう絶対離れたりなんかするなよ?」
「ごめんなさぁ~い・・・」
「いやぁ。よかったねぇ~お兄さん。この人が迷子センターまで連れてきてくれたんだよ」
見上げた青年は、橙色の派手な頭に派手なアクセサリー
明らかに自分と同い年の未成年のはずなのに、煙草を吹かしている
「あの・・・ありがとうございます・・・。俺・・・何てお礼言ったらいいか・・・」
「・・・あぁ。気にすんなや。こんなナリで誘拐犯にでも見間違えられたら、たまったもんやあらへんしな」
すぐに灰皿に煙草を突っ込むと、青年は迷子センターを出て行こうとした
「待って!!お兄ちゃん!!」
結蓮は、青年を呼びとめた
「ありがとう!!兄ちゃんと会わせてくれて!!」
青年は振り向くと、フッと微笑んだ
「あの・・・あの!!関西弁って事は・・・旅行か何かですか!?」
鬼宿は、そのまま結蓮の手を引いて、青年の後を追った
「・・・あぁ。ちと気晴らしにな。一人旅や」
「そんな少ない荷物で・・・あの・・・宿とか決まってるんですか・・・?滞在期間とかは・・・」
青年は呆気に取られた顔で、振り返った
「・・・まだ、決まっとらん・・・。さっき、着いたばっかなんや。大体、一週間くらいおるつもりやけど・・・」
明らかに、用意周到には見えないその格好に、鬼宿はまさかあてもなく旅に来た人なのではないかと察したのだ
「家・・・2駅乗った先なんです。・・・よかったら、お礼に俺の家に泊まっていきませんか・・・?春休みだし、俺が東京案内します!!」
「家族が一人増えたみたいで、嬉しいよ!!翼宿!!さぁ。どんどん食べて!!」
その晩の夕食の席、結蓮の他にも3人の兄弟と共に食卓を囲んだ旅人・翼宿
そんな翼宿に手料理を与えるのは、鬼宿
「たすき兄ちゃんね!!ゆいれんをスーパーマンみたいに助けたんだよ!!」
「かっこいい~大阪って、どんなところなんですか!?」
「兄ちゃん、明日僕と遊ぼう~v」
「だめ~玉蘭と遊ぶの~」
「・・・偉い賑やかな家族やな」
翼宿は茶碗片手に苦笑いする
「こんなもんだよ。母親は、小さい時に死んで、ずっと俺一人で面倒見てる訳」
「親父はんは・・・?」
「ああ・・・。そうだ。親父にもご飯運ばなきゃ。せっかくだから、翼宿を紹介したいから、一緒に来てくれよ」
ガラガラ
「親父。ご飯だよ」
「ああ・・・。いつも悪いね。鬼宿」
「親父。昼間、結蓮が東京駅で迷子になった時に、助けてくれた翼宿だよ。大阪から一人旅に来てるみたいで、宿がなかったらしいから、一週間家で面倒見てもいいかな?」
「ああ・・・。それは・・・ありがとう。世話になりました。何もない家だが、ゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
それから、一週間、翼宿と鬼宿は色々な場所で遊び、仲良くなった
翼宿は中学を中退し、何とか高校に入学させてもらえて迎えた春休みだという事
それで、家族から離れて自分を見つめなおしたくて、一人東京に旅に来た事
しかし、鬼宿はその派手な見た目に惑わされる事なく、すぐに翼宿は悪い奴ではないと分かった
本当は優しくて熱い男だという事が伝わったから
「家族の面倒見てしんどくなったら、いつでも話聞いてやる」
そう言って、翼宿は帰って行った
鬼宿は、半分翼宿に尊敬の気持ちを抱いていた
一人でも生きていける・・・自立した男だったから
しかし、その半年後、翼宿から連絡が来た
「家を出て、東京で暮らす」と
鬼宿は親友を東京駅まで迎えに行った
「久し振り!!半年ぶりかぁ!?いや~また派手になったな!!」
「・・・たまも、相変わらずやな」
音楽活動がやりたくて、また東京へやってきたらしい
しかも、学校もこっちで探すと言っていた
鬼宿は、成績も優秀だったので、自分の高校に何とか転入させてやれないか頼んでみた
すると、幸運にも席が貰えた
「やったなvこれで、お互い同じ高校だよv」
鬼宿は、それはそれは本当に喜んだ
そして、1年の春休みに、翼宿が「FIRE BRESS」のベースに引き抜かれたという話を聞いた
「バンド組んだのか!?」
「ああ。何や見るからにファン欲しさでやっとるバンドやけどな。経験やと思ってやってみる事にした」
「いいじゃねえか!!いいなぁ~俺もそういうの出来たら・・・」
「・・・お前、ドラムやってみぃひんか?」
突然の翼宿の提案
「へ・・・?」
「この前見学に行ったスタジオのバンド、ドラムがいぃひんらしいんや。せやけど、バンドしたい言うとってて・・・次のドラムが決まれば初心者でも、前のドラムが教えてくれる言うとったから、気分転換にやってみたらどうや?」
「ドラムかぁ・・・俺に出来るかな」
「スタミナは十分やろvほな、紹介してやるさかい」
ドラム・・・確かに、自分も音楽に興味がない訳ではなかった
だけど、家族の世話もある
自分は、そこまで自由になっていいのだろうか
「・・・あのさ。親父」
晩飯が済んで、鬼宿は父親に話を切り出した
「俺さ・・・実は、翼宿にドラムやってみないかって誘われたんだ」
「ドラムを・・・?」
「・・・ごめんな。こんな大変な時に。だけどさ、俺も翼宿見てて、自立した男になりてぇなって思うようになったんだよ。だから・・・親父はどう思う・・・?」
父親は考え込んでいた
「ごめん・・・無理だよな!!変な事言って・・・」
「やってみなさい」
「え・・・?」
「鬼宿。自分の為に生きなさい」
父親は微笑んでいた
「兄ちゃん!!ドラムやるの!?」
「すごい~v」
「兄ちゃんのドラム聞きたい~v」
「兄ちゃん~ドラムって何~?」
「みんな・・・」
鬼宿は、涙ぐんだ
「みんな・・・ありがとう!!俺・・・頑張るよ!!」
「おう。新人!!待ってたぞ!!」
翼宿の紹介で来てみたライブハウスには、バンドのメンバーが集まっていた
皆、笑顔で迎えてくれた
「初めまして。俺は亢宿!!悪いね。僕、夏に引っ越す事になったんだ。ちゃんと君にはドラムを教えてから引っ越すから!!」
「よろしく・・・頼みます!!」
「じゃあ、スティックを持ってみて」
スティックに恐る恐る触れる
その時、体に電流が走ったように感じた
(何だ・・・?この感じ・・・)
次にスネアを叩いてみる
(もっと・・・叩いてみたい)
そう思えるようになった
それから生まれたリズム感は半端がなく
鬼宿はどんどんリズムを覚えていった
そして、亢宿が引っ越していって、初めてのライブ
勿論ガチガチだった
「平気平気v俺らがフォローするからさ!!」
バンドメンバーは暖かく励ましてくれた
そのお陰か、ファーストライブは成功した
しかし、その後控室でこのバンドは解散という事が決まった
一度だけだったけど、一緒に演奏出来てよかったと言ってくれた
素敵な仲間との出会い・・・音楽との出会いに、鬼宿は感謝した
そして、一週間後に来たメール
翼宿からだった
『ライブお疲れ。今度は・・・俺と組んでみぃひん?』
夢のような現実
大好きな仲間と演奏できる日が・・・やってくるんだ
誰かの為に生きる事が、優しさだと思っていた
だけど、違うんだ。自分の為に生きていいんだ
俺には、いつだって仲間がいるんだから
「結蓮~結蓮~ったく・・・どこ行ったんだ」
黒髪の好青年が東京駅を走る
さっきまで一緒にいた筈の妹がいない
こんな人の多い東京駅で迷子になったら、たまったもんじゃない
兄貴は顔を真っ青にしながら、妹の名を呼び続けた
「兄ちゃん・・・兄ちゃぁ~ん・・・」
一方、兄が本を買っている間に、ついつい傍を通り過ぎた風船を持った少年に気を取られてしまった
妹の結蓮は、そのまま東京駅の人ごみの中に紛れ込んでしまった
この歳じゃ、迷子センターも分からない
目をこすりながら歩いていた結蓮は
ドカッ
目の前に立ちはだかっていた足にぶつかった
恐る恐る見上げると、そこには橙色の髪の毛をした青年
きつそうな三白眼に、思わず結蓮は顔を歪ませる
「・・・何や。お前・・・」
ピンポンパンポーン
『迷子のお知らせです。都内から起こしの鬼宿様。鬼宿様~。迷子センターで、妹の結蓮ちゃんがお待ちです』
「えぇっ!?」
まさかあの歳で本当に迷子センターへの行き方が分かったのだろうか
とりあえず、鬼宿は迷子センターへ急いだ
「結蓮!!」
「兄ちゃん!!」
迷子センターで待っていた妹は、ぱっと顔を輝かせ、兄に飛びついた
「お前・・・勝手に兄ちゃんから離れるなって言っただろ!?」
「だってぇ~・・・風船が~」
鬼宿は、結蓮の頭を撫でた
「結蓮は、兄ちゃんの宝物なんだぞ?いなくなられたら、兄ちゃん本気で困る。もう絶対離れたりなんかするなよ?」
「ごめんなさぁ~い・・・」
「いやぁ。よかったねぇ~お兄さん。この人が迷子センターまで連れてきてくれたんだよ」
見上げた青年は、橙色の派手な頭に派手なアクセサリー
明らかに自分と同い年の未成年のはずなのに、煙草を吹かしている
「あの・・・ありがとうございます・・・。俺・・・何てお礼言ったらいいか・・・」
「・・・あぁ。気にすんなや。こんなナリで誘拐犯にでも見間違えられたら、たまったもんやあらへんしな」
すぐに灰皿に煙草を突っ込むと、青年は迷子センターを出て行こうとした
「待って!!お兄ちゃん!!」
結蓮は、青年を呼びとめた
「ありがとう!!兄ちゃんと会わせてくれて!!」
青年は振り向くと、フッと微笑んだ
「あの・・・あの!!関西弁って事は・・・旅行か何かですか!?」
鬼宿は、そのまま結蓮の手を引いて、青年の後を追った
「・・・あぁ。ちと気晴らしにな。一人旅や」
「そんな少ない荷物で・・・あの・・・宿とか決まってるんですか・・・?滞在期間とかは・・・」
青年は呆気に取られた顔で、振り返った
「・・・まだ、決まっとらん・・・。さっき、着いたばっかなんや。大体、一週間くらいおるつもりやけど・・・」
明らかに、用意周到には見えないその格好に、鬼宿はまさかあてもなく旅に来た人なのではないかと察したのだ
「家・・・2駅乗った先なんです。・・・よかったら、お礼に俺の家に泊まっていきませんか・・・?春休みだし、俺が東京案内します!!」
「家族が一人増えたみたいで、嬉しいよ!!翼宿!!さぁ。どんどん食べて!!」
その晩の夕食の席、結蓮の他にも3人の兄弟と共に食卓を囲んだ旅人・翼宿
そんな翼宿に手料理を与えるのは、鬼宿
「たすき兄ちゃんね!!ゆいれんをスーパーマンみたいに助けたんだよ!!」
「かっこいい~大阪って、どんなところなんですか!?」
「兄ちゃん、明日僕と遊ぼう~v」
「だめ~玉蘭と遊ぶの~」
「・・・偉い賑やかな家族やな」
翼宿は茶碗片手に苦笑いする
「こんなもんだよ。母親は、小さい時に死んで、ずっと俺一人で面倒見てる訳」
「親父はんは・・・?」
「ああ・・・。そうだ。親父にもご飯運ばなきゃ。せっかくだから、翼宿を紹介したいから、一緒に来てくれよ」
ガラガラ
「親父。ご飯だよ」
「ああ・・・。いつも悪いね。鬼宿」
「親父。昼間、結蓮が東京駅で迷子になった時に、助けてくれた翼宿だよ。大阪から一人旅に来てるみたいで、宿がなかったらしいから、一週間家で面倒見てもいいかな?」
「ああ・・・。それは・・・ありがとう。世話になりました。何もない家だが、ゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
それから、一週間、翼宿と鬼宿は色々な場所で遊び、仲良くなった
翼宿は中学を中退し、何とか高校に入学させてもらえて迎えた春休みだという事
それで、家族から離れて自分を見つめなおしたくて、一人東京に旅に来た事
しかし、鬼宿はその派手な見た目に惑わされる事なく、すぐに翼宿は悪い奴ではないと分かった
本当は優しくて熱い男だという事が伝わったから
「家族の面倒見てしんどくなったら、いつでも話聞いてやる」
そう言って、翼宿は帰って行った
鬼宿は、半分翼宿に尊敬の気持ちを抱いていた
一人でも生きていける・・・自立した男だったから
しかし、その半年後、翼宿から連絡が来た
「家を出て、東京で暮らす」と
鬼宿は親友を東京駅まで迎えに行った
「久し振り!!半年ぶりかぁ!?いや~また派手になったな!!」
「・・・たまも、相変わらずやな」
音楽活動がやりたくて、また東京へやってきたらしい
しかも、学校もこっちで探すと言っていた
鬼宿は、成績も優秀だったので、自分の高校に何とか転入させてやれないか頼んでみた
すると、幸運にも席が貰えた
「やったなvこれで、お互い同じ高校だよv」
鬼宿は、それはそれは本当に喜んだ
そして、1年の春休みに、翼宿が「FIRE BRESS」のベースに引き抜かれたという話を聞いた
「バンド組んだのか!?」
「ああ。何や見るからにファン欲しさでやっとるバンドやけどな。経験やと思ってやってみる事にした」
「いいじゃねえか!!いいなぁ~俺もそういうの出来たら・・・」
「・・・お前、ドラムやってみぃひんか?」
突然の翼宿の提案
「へ・・・?」
「この前見学に行ったスタジオのバンド、ドラムがいぃひんらしいんや。せやけど、バンドしたい言うとってて・・・次のドラムが決まれば初心者でも、前のドラムが教えてくれる言うとったから、気分転換にやってみたらどうや?」
「ドラムかぁ・・・俺に出来るかな」
「スタミナは十分やろvほな、紹介してやるさかい」
ドラム・・・確かに、自分も音楽に興味がない訳ではなかった
だけど、家族の世話もある
自分は、そこまで自由になっていいのだろうか
「・・・あのさ。親父」
晩飯が済んで、鬼宿は父親に話を切り出した
「俺さ・・・実は、翼宿にドラムやってみないかって誘われたんだ」
「ドラムを・・・?」
「・・・ごめんな。こんな大変な時に。だけどさ、俺も翼宿見てて、自立した男になりてぇなって思うようになったんだよ。だから・・・親父はどう思う・・・?」
父親は考え込んでいた
「ごめん・・・無理だよな!!変な事言って・・・」
「やってみなさい」
「え・・・?」
「鬼宿。自分の為に生きなさい」
父親は微笑んでいた
「兄ちゃん!!ドラムやるの!?」
「すごい~v」
「兄ちゃんのドラム聞きたい~v」
「兄ちゃん~ドラムって何~?」
「みんな・・・」
鬼宿は、涙ぐんだ
「みんな・・・ありがとう!!俺・・・頑張るよ!!」
「おう。新人!!待ってたぞ!!」
翼宿の紹介で来てみたライブハウスには、バンドのメンバーが集まっていた
皆、笑顔で迎えてくれた
「初めまして。俺は亢宿!!悪いね。僕、夏に引っ越す事になったんだ。ちゃんと君にはドラムを教えてから引っ越すから!!」
「よろしく・・・頼みます!!」
「じゃあ、スティックを持ってみて」
スティックに恐る恐る触れる
その時、体に電流が走ったように感じた
(何だ・・・?この感じ・・・)
次にスネアを叩いてみる
(もっと・・・叩いてみたい)
そう思えるようになった
それから生まれたリズム感は半端がなく
鬼宿はどんどんリズムを覚えていった
そして、亢宿が引っ越していって、初めてのライブ
勿論ガチガチだった
「平気平気v俺らがフォローするからさ!!」
バンドメンバーは暖かく励ましてくれた
そのお陰か、ファーストライブは成功した
しかし、その後控室でこのバンドは解散という事が決まった
一度だけだったけど、一緒に演奏出来てよかったと言ってくれた
素敵な仲間との出会い・・・音楽との出会いに、鬼宿は感謝した
そして、一週間後に来たメール
翼宿からだった
『ライブお疲れ。今度は・・・俺と組んでみぃひん?』
夢のような現実
大好きな仲間と演奏できる日が・・・やってくるんだ
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