Sign~心のメッセージ~

「・・・き・・・翼宿?」
呼びかけに顔をあげる
「あ・・・何や。玲麗か・・・どないしたん?」
「もう~さっきから何ぼけっとしとんねん!!早坂教授のプリント持ってきたったんや!!」
「ああ・・・すまんな」
朝から浮かない顔をしている翼宿に玲麗は意味深な言葉をかける
「気になるん・・・?功児とあの子の事」
「別に・・・そんなんやないて。功児思いつめた顔しとったからな・・・上手く行っとるのかと思って」
「あんたは・・・人の事ばっかり気にして・・・自分の事は考えへんの?」

『お前の事なんか・・・・・・・・・・忘れさせたるで』

身に覚えがないその言葉
なぜ・・・自分は功児に恨まれなければいけない?

大学の校門前
そこで待ち合わせだった
柳宿は、そこに来ていた
しかし、浮かない顔をして
昨日の出来事が頭から離れない
(鳳綺は・・・実は私の事を・・・)
誰かに相談したかった
だけど・・・功児になんて相談は出来ない
自分達だって今、胸を張って言いたい事を言い合える関係ではないのだから
その時、誰かに肩を叩かれた
振り向くと、功児だった
『待たせたな』
柳宿は、静かに首を横に振った
『ちょっと歩くけど、そんなかからへんから』
そのまま、功児は、少々強引に柳宿の手を引いて歩き出した
そんな光景を・・・図書室から翼宿は眺めていた
明らかに少し様子がおかしい事に気づいていた・・・

通りから少し外れたアパート
そこに、彼は住んでいた
部屋に入る時、柳宿は立ち止まった
『どないした?』
『功児さん・・・あの・・・昨日は・・・』
功児は、優しく微笑みかけた
『別に気にしてへん。嫌ってたら、誰も呼ばへんしな』
そのまま、柳宿はアパートへと上がった

『何か出すから、適当に座っといて』
功児は、そう言って台所へ入っていった
机の上をふと見ると、そこには大学の仲間で撮った写真が飾られていた
そこには・・・太陽のように眩しい笑顔で笑う翼宿の姿もあった
柳宿は、それに惹かれて写真たてを手に取った
もう・・・どのくらい会っていないんだろう?
功児と付き合うようになって、当たり前だが一度も会っていない
懐かしさに胸が熱くなった
その光景を・・・見ていたのは、ココアを両手に持った功児
気配を感じて振り返ると、明らかに無理して微笑む功児の姿
『・・・・・・・・・お前、好きなん?翼宿の事』
ぎくりとなって、写真たてを元に戻す
『そんな事ないよ・・・』
『あいつはやめといた方がえぇで?大学でも一番人気。その気になれば女の一人や二人作れんねん。せやけど、変にクールぶって俺ら連中の気も知らずに悠々と普通の大学生活送ってんねん。多分、女に興味ないんやないか?せやから、好きになっても傷つくだけや』
何だかその言葉に、腹が立つ自分がいた
どうして・・・そんな事言うの?
『功児さん・・・親友なのに・・・そんな事言っちゃ駄目・・・ですよ』
途切れ途切れにそう返す
その言葉に功児は、乱暴に柳宿を引き寄せた
柳宿は何が何だか分からなかった
そのまま、寝台に運ばれる
押し倒されて見上げた顔は、功児ではなかった
「何やねん、お前は!!!こそこそこそこそあいつの事ばかり調べよって!!!全然俺の事見向きもせんで!!!そんなにあいつがえぇんか!?俺やったら、駄目なんか!?あんな奴の事なんか俺が忘れさせたる!!!!」
柳宿は傍の枕で乱暴に功児を振り払った
息切れで鼓動が速い
溢れる涙
そのまま、柳宿は家を出た
功児は、その枕を窓に向かって投げつけ、頭を掻き毟った

どうせ、分かってくれない
誰も・・・誰も私の苦しみなんて
本当は功児に聞いてほしかった・・・
だけど・・・だけど、私が彼と向き合っていなかったんだ
私が悪いんだ・・・私が・・・
柳宿は、あてどもなく路地を駆け巡った
溢れる涙は止まらない
ドンッ
誰かにぶつかった
怖い・・・今の私には「ごめんなさい」だって言えない
感情を素直に伝えられないんだ
顔をあげると・・・そこには
今でも大好きな大好きな橙頭
相手は、心配そうな顔つきでこちらを見ている
もう・・・もう、嘘つきたくない。自分の気持ちに・・・
柳宿は、抱きついた・・・がむしゃらに。
本当に大好きな人の胸に
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