Sign~心のメッセージ~

ブロロロロロロロ
雨の匂いがする6月
東京・新宿は、今日も傘を持った通勤客でごった返していた
信号が赤になると、たくさんの人間が一斉に立ち止まる
そんな列から少し離れたところに・・・少女はいた
目は空ろで、何かを求めるように・・・彼女は空を仰いだ
そして・・・ゆっくりと渋滞している道路へと歩を進めた
パッパー
車のクラクション
特に驚きもせずに

キキーッ

後に残ったのは、地面に叩きつけられた音
しかし・・・・・・・・・それとは裏腹に腕の温かさ
誰かが私を庇ってくれている・・・?
「ばっかやろう!!!!飛び出すな!!!!」
運転手は怒鳴り散らすと、急いで走り出した
ゆっくりと、顔を上げると
「大丈夫か!?」
橙色の・・・・・・・髪の毛の青年
少しきつそうな顔つきをしつつも・・・どこか優しげな雰囲気だった
「危ないやろ・・・こんなトコで・・・」
私を叱っているようだった
私は・・・何も答えなかった
ただ・・・涙が頬を伝った
すると、彼はため息をついて私を歩道へ連れて行った
ベンチに腰掛けさせると、私の頭を撫でた
「気ぃつけろや」
そのまま・・・・・・・彼は、鞄を持って去っていった

誰なんだろう・・・。見ず知らずの私を・・・助けてくれて
しかし・・・その時、彼女には間違いなく・・・希望の光が差した
絶望の淵に立たされていた筈だった彼女に・・・

すると、足元に何かが落ちているのを見つけた
拾うと、それは学生証だった
『閣山大学 翼宿』

カチャ
ドアを開く
「柳宿!!」
中からは、仕事へ行くのかスーツを着た一人の女性
「何処へ行っていたの!?朝から・・・心配するじゃない!!」
その女性は、怒鳴り散らした
しかし・・・私は何も答えない。答えられない
女性は、ため息をついた
『どうして・・・朝早くから出て行ったの?』
静かに、手話を使う
そう。私は、耳が聞こえない
幼い頃、両親共々事故に遭い・・・それ以来ずっと。
今は、この鳳綺という親友の元へ居候させてもらっている
唯一、自分を拾ってくれた優しい親友だった
『ごめんなさい・・・。少し朝の空気が吸いたかっただけ』
柳宿も、手話で返した
『朝の空気もいいけど・・・あなたは一人で出歩ける身じゃないんだから・・・誘拐でもされたらどうするの?』
鳳綺も、柳宿も、誰からも振り向かれるような美女だった
そんな鳳綺も、先日彼氏が出来た
自分に隠れて、自宅に呼び出し、昨夜愛し合っている姿を・・・たまたま目撃した
それ以来、鳳綺に合わせる顔がなくて
しょうがないと分かっているつもりでも・・・鳳綺は少しずつ自分の元から離れていってしまう
私がいると、結婚も出来ないだろう
だから、逃げた。どうせ、他に自分を必要としてくれる人なんていないだろうと思って・・・
そんな事、言える筈もなかったが
『とにかく、今日はもう外に出ちゃ駄目よ。あたしの仕事が終わるまで、ここにいる事』
柳宿は、静かに頷いた
しかし、頭の中は・・・さっきの『彼』の事で頭がいっぱい


閣山大学 臨床心理学部
「翼宿!!」
呼ばれた少年は、振り向いた
「功児!!」
「なぁ~お願い!!課題、見せてや!!今日、提出だったのすっかり忘れててん!!」
「お前はなぁ~・・・。前も、見せたやろが!!きちんとやって来い!!」
「せやかて、店長が俺を週6でバイトに入れさせたんやねんで!!まじ癒しがほしいわぁ~・・・」
功児は、伸びをする
「じゃあ、今日はぱーっとやりますかv功児!!翼宿の家で!!」
「おぉ~玲麗やないか!!」
「友達も2.3人呼ぶし!!やっぱ、こういう時は異性やろ!!功児v」
「おぉv待ってましたわ!!さすが、気が利く玲麗姉さん!!」
「何で、俺んちやねん・・・」
「あ~あ~。まったく、お堅いなぁ、翼宿は!!先週も、ロッカーに山のようなラブレター貰ってた癖して!!」
「せやせや~お前かて、その気になりゃ女の一人や二人出来るやろ~」
「俺は、バイトで忙しいんや!!」
その場に、笑い声が溢れる

「あれ・・・?どないしたん?その傷」
見ると、翼宿の腕から、血が出ている
「ああ・・・今朝、ちぃと車に轢かれそうになってな」
「まじで~気をつけんと!!」
「つーか、正確には助けたんやけど」
「まじかよ!!よく助けたな~さすが、俺の親友やv」
「せやけど、何や思い詰めとってなぁ~ちぃと心配でな」
「何~?まさか、女ぁ?」
「おいおい!!そうなんか!?」
「そこまで、関係あらんやろ!!あんま、他人が関わるもんでもあらん」
「見てみたいなぁ~その子v」
そう言いつつも、本音は気になっていた
あの哀しい目の意味が・・・

リーンゴーンリーンゴーン
終礼のチャイム
柳宿は・・・こっそり大学まで来ていた
家にある地図を引っ張り出すと、そんなに遠くはなかったこの大学
しかし、生徒はたくさんいる
橙頭で目立つものの、こんなにたくさんの人ごみの中から見つけられない
皆が、こっちをじろじろ見ていく

そんな中・・・
「あれ~?君、ここの学生~?」
声をかけられた
聞こえなかったが、そう感じた
「可愛いねぇ~v何でこんなトコにいんの?これから、遊ばない?」
何人かの男子生徒が群がる
柳宿は、怖くなった

「ほな、翼宿が買出し係なぁvあたしら、あんたの家で先に待っとるけん!!」
「せやからぁ!!勝手に決めんなや!!」
「えぇやんえぇやん!!たまには、お前の一人暮らしの家を盛り上げたろうって言うとるんやないか!!」
「ねぇねぇ。あれ、C組の田村じゃない?」
突然の女子生徒の言葉に、皆が校門を見る
「ああ~あのナンパ癖が悪いって評判の奴ね。また、ナンパしてるのかしら・・・校門でやめてほしいわ」
目を凝らしてみると・・・どこかで見た事がある少女
「すまん・・・ちょっと」
「え・・・?翼宿?」
翼宿は、駆け出した

「なぁなぁ~何か言ってよ~。連れてっちゃうよぉ?」
いきなり、田村が腕を引いた
「おい。やめろや」
その肩を掴む
「んだよ。翼宿!!邪魔すんなよな!!」
「校門でやめろ言うんや、みっともない。お前みたいな奴誰も相手にしとらんってえぇ加減気づけや」
「んだと・・・このっ!!」
「やめろよ。校門だぞ」
「また、いいの街で見つけりゃいいさ」
周りに止められ、田村は舌打ちをするとその場を去っていった

「・・・ったく。すまん。大丈夫やったか?」
翼宿は、声をかける
柳宿は耳まで真っ赤だった
「あいつ、うちの学校一番のナンパ男や。危なかったな・・・」
しかし、何も答えない
代わりに、学生証を差し出す
「おぉ!!お前が持っとったんか!!何や、今日ずっと探してて大変やったんや!!おおきにv」
柳宿は、そのままお辞儀をすると立ち去っていった
「おい、翼宿。誰なんや?今の子」
「ああ・・・今朝の子や。学生証届けてくれたみたいでな」
「結構可愛い子やんvえぇなぁ、翼宿v何気に外で女でも作っとったりしてv」
「阿呆抜かせ。これっきりやろ」
玲麗は、そんな翼宿を複雑に見やっていた

そう。これっきり・・・誰もがそう思っていた
だけど、これは初恋だった
あの日から、あなたは私の太陽になったんだ
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