ホーリー母校に帰る

「太一君校長!!!!いい加減に話してください!!!この学園で・・・あの団長に何があったんですか!?」
今度こそ・・・今度こそ、もう黙ってはいられない
うちのクラスの生徒が傷つけられたのだ
「現に、被害者が出たんです。うちのクラスの柳宿が、どうしてあんな目に・・・校長!!お願いします!!」
太一君校長は、頭を抱えていた
「星宿先生・・・落ち着いてください」
朱雀は、後ろから宥めた
職員室にいる者も、皆唖然としている

「・・・・・・・・・・俺が」

その中から、ぽつりとそんな声
皆が振り返ると、尾宿が自分の机で、身を震わせていた
「俺が・・・・・・あいつを、やったんだ」
「・・・え?」
「あいつ・・・人一倍・・・優秀だったのに・・・酒と煙草なんかやりやがって・・・俺、それで頭に血が上って・・・それで」
「殴ったんですよね」
横から、房宿が冷たく言う
「・・・房宿先生」
「翼宿・・・病院に送ったの・・・あんたでしょ?それなのに、まだよく居座れるわね。教育委員会のお坊ちゃまが」
数少ない当事者だった
「それから・・・翼宿は、この学園に因縁をつけるようになったんですよ」
太一君も、ぽつりぽつりと呟いた
そして、朱雀は尾宿に向き合った
「考えなければいけませんね・・・幾ら、教育委員会が絡んでいたとしても、あなたを・・・もうこの学園には置いておけません」
それは、尾宿の為でもあり、学園の為でもあった
尾宿は、観念しているようだった

柳宿は、教室で一人、星宿を待っていた
星宿には、一応落ち着いたらでいいから、放課後に学校へ来いと言われていたのだ
気丈な柳宿は、学校に来ていた
校庭をぼけっと眺める
その時
♪♪♪
携帯の着信音
「着信:軫宿」
「もしもし?」
『・・・もしもし』
「軫宿・・・どうしたの?」
『お前・・・昨日・・・』
「ああ・・・聞いたんだ?」
『先生の様子が尋常じゃなかった。俺と美朱達だけ・・・ごめんな』
「ううん。いいのよ」
『お前は、俺らの・・・大事な友達だからな』
「うん・・・ありがと」
『俺・・・・・・・・・・・・・・・ごめんな』
「・・・どうして?」
『俺が・・・お前を・・・護ってあげたかった・・・』
電話の向こうの軫宿は、泣いていた
「泣かないで・・・大丈夫。あたしは、平気よ。心配してくれるだけで、十分だから」
『柳宿・・・』
「明日・・・また、学校でね」
そのまま、電源を切る

襲われた事が、悔しいんじゃないの

ガラッ
「柳宿!!!」
後ろのドアから、美朱が入る
「・・・美朱。どうしたの?こんな遅くに」
「ぬりこ・・・っ・・・あたし・・・」
その顔は、涙に濡れていた
「どうしたの?泣かないの・・・」
「だってっ・・・ぬりこがっ・・・」
「何も心配する事ないから。あたしは、大丈夫だから」
「柳宿っ・・・」
そのまま、美朱は柳宿に抱きついた
「あたしに・・・出来る事があれば・・・何でも言って・・・ね・・・」
「うん・・・ありがとう」

襲われた事が、悔しいんじゃないの

「・・・柳宿」
それから10分後に、星宿が教室に入ってきた
「先生・・・。何だか、大事にしてしまって、すみません」
その表情は、いつもの柳宿で
「いい。気にするな。生徒を護るのが、教師の役目だからな」
「・・・先生は、優しいですね」
「・・・柳宿」
「・・・・・・・・・・・・あいつも、先生に会ってたら・・・・・・・・変わってたかな・・・」
涙がボロボロと零れる

襲われた事が、悔しかったんじゃない
ただ、あたしは・・・

『てめぇ・・・!!!もう二度と、俺の前に現れるな・・・次に会ったら、てめぇ・・・・・・・・・殺す・・・・・・・・・!!!!!』

「・・・・・・・・・・・好きなんだよな・・・?柳宿・・・」

星宿は、分かっていた
首を縦に振る
もう遅い
柳宿は、あの極悪人を愛してしまったのだから・・・


『あの暴走族が溜まってると言われているバーの住所だ。会って、気が済むなら会って来い。ただし・・・無茶はしてはいけない。危ないと思ったら、すぐに逃げるんだぞ』
星宿だって、苦渋の思いで、柳宿に住所を渡した筈だ
だけど・・・信じてくれた。自分の思いを・・・
(先生・・・ごめんなさい)
歌舞伎町
様々なホストやキャバ嬢が、周りをうろついている
「おぉ。姉ちゃん。可愛いねぇvどう?うちの店、寄ってかなぁ~い?」
「・・・結構です」
危ない街だった
「TSUBASA」に、お似合いの街だった
必死に住所の店を探す
すると
「ねぇ~今日も、団長はご機嫌斜めだわぁ~・・・」
「しょうがないわよ。また、今度」
「あたしなら、絶対に翼宿を満足させてあげられるのに・・・」
露出した格好に派手な化粧をした女性が3人、とあるバーから出てくるのが見えた
(・・・ここだ)
中からは、宴会並の騒ぎ声が聞こえると思ったが、やけに静かだ
そっと、ドアを開けると寂れた壁の向こう側にドアがある
そこは、やけに埃臭く、周りには缶の残骸が散乱している
酒のにおいに、意識が朦朧としたが、決心して歩を進めた
もうひとつのドアを開く
「・・・翼宿・・・」
そこには一人カウンターの机に座り、酒を大量に飲んでいる団長の姿
彼は、こちらを見た
鼓動が鳴る
「・・・何や。お前か」
その声に、昨日の気迫はなかった
「また、人の事つけ回しとんのか・・・懲りない女やな」
「あんた・・・何してんのよ・・・こんなにお酒・・・」
「・・・じゃかあし。誰かさんのせいで・・・こっちは、苛ついとんのや」
「・・・それは・・・」
バンッ
缶が、床に投げつけられ、ひしゃげた
「帰れ!!!!また、昨日みたいにされたいんか!!??」
凄い形相で柳宿を睨みつけ、翼宿は立ち上がり・・・
そのまま、倒れた
「翼宿!!!???」
恐さなどなかった
柳宿は、すぐさま翼宿を抱き起こした
「凄い・・・熱・・・早く、寝かせなきゃ・・・」


ピチャ・・・
冷たさを感じ、翼宿はそっと目を開ける
「・・・翼宿!!!」
そこには、ほっとしたような柳宿の顔
「よかった・・・気がついた」
見ると、ソファの上に寝かされていた
そこは、自分がいたバーではあったが、周りの酒の缶の残骸が綺麗に片付けられている
「こんな埃臭い場所でお酒ばっかり飲んでたら、嫌でも具合悪くなるわよ。暫くは禁酒!!40度近く出てたんだからね!!」
もはや、目の前で自分に説教をする女に、翼宿は何も言う事は出来なかった
「少し、楽になったでしょ?あたしの、特製ハーブティー飲ませたのよ。高熱には、これが一番効くのよねvあたし、看護婦目指してるからさ!!あんたが、いい実験台になってくれてよかったわ」
その顔は、本当に嬉しそうで、翼宿は相変わらず黙ったままだった
「朱雀学園もねぇ・・・結構、名門校じゃない?でも、一流大学に進学するにはあそこしかなくて、結構頑張ったなぁ。クラスは変な奴多いけどさ、先生がとってもいい人で。生徒思いで、優しくて・・・いいよね。ああいう先生」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「あそこなら、あたしの夢が叶う気がする。色んな意味で・・・さ」
なぜだろう
もうこの女を憎む気にはなれなかった
ただ、彼女の瞳があまりにも輝いていて、少し・・・羨ましくなった
「ごめんね・・・一番見たくない奴に看病されても・・・嬉しくないわよね。あんたの熱、上げちゃったのもあたしかもしれない」
「・・・・・・・・・・・もう、えぇ・・・・・・・・・・・・」
ぽつりと、そう呟いた
「え・・・?」
「お前には・・・・・呆れた」
翼宿は、そのままため息をついてそっぽを向いた
そんな言葉が嬉しくて、柳宿は笑った
恋している顔だった
「おい・・・」
「何?」
「もう、仲間が来る頃や。はよ、帰れ。それにこの時間になると、危ない奴らがうろうろしてるで」
その言葉に、明らかに心配が見て取れた
「分かった・・・じゃあ・・・行くね」
そのまま、鞄を持って立ち上がる
「あんたは、もう飲んじゃ駄目よ!!!早めに帰って寝る事!!いいわね!?」
最後に、念押し
「後・・・」
もう一度、立ち止まり、振り返る

「話・・・黙って、聞いててくれてありがと。楽しかったよ・・・あたし」

その笑顔は、自分が昨日襲った事など幻のように
美しく輝いていた

「ちぃ~す」
「団長~今日は、どないするんですかぁ?」
仲間が、後から入ってきた
「何や。お前、顔色悪くないか?」
「功児・・・すまん。俺、今日帰るわ。何や、具合悪い」
「さよか?ほなら、ゆっくり休めよ」
その手には、さっき自分にかけられていた柳宿のジャケットを持っていた

次の日は、開校記念日で休みだったが、星宿は学校に来ていた
校庭では、生徒たちが部活動をしている
いつものように、校門をくぐると
ドルルルルルル
自分の横を、バイクが通った
そのバイクは、あの団長のものだった
星宿はそれを凝視していると、そのバイクはきちんと来校者用の置き場に停まり、ヘルメットの中からは、化粧を落とし、髪の毛を整えた翼宿の顔が出て来た
星宿は、唖然とした
彼は、星宿を見ると、軽く会釈をした
「星宿・・・か?」
「そうだが」
「ちょっと・・・えぇか?」

そのまま、誰にも気づかれないように、1年B組に通す
向かい合って座ると、翼宿は丁寧にたたまれた女物のジャケットを、机の上に出した
「これ・・・あいつに返しといてくれや」
「昨日、会ったのか?」
「ああ。ったく・・・こっちは、迷惑や言うたんやけどな」
しかし、その表情に険しさは消えていた
「あいつは・・・お前を救いたがってるんだよ」
その言葉に、翼宿は顔を上げた
「・・・あんな目に遭っても、まだお前を信じている。あいつは・・・それだけ、お前を・・・」
「俺・・・」
その目は、校庭の外に向けられている
「・・・・・・・・・そういうの分からん」
「え・・・?」
「女なんぞ・・・男の道具や。遊び相手や。そう思うとった。誰かの為に看病したり、本気で笑ったり・・・そんなんする女・・・神経が分からんのや」
「そう・・か。そうかもしれないな。それでも・・・私は、今のお前なら分かると思うぞ」
翼宿は、黙っていたが、そのまま立ち上がった
「用はそれだけや。それだけ、頼んだで」
そのまま、翼宿は校舎を後にした


それから、3日
「どうしたんですかぁ?団長」
「今日も、襲撃しましょうよぉ。朱雀学園」
「今日は、そんな気分やない」
族の仲間は、毎晩バーを訪れるが、団長に活気がない
「どないした?どっか、具合でも悪いんか?」
「・・・いや。一人にしてくれへんか?」
そのまま、副団長の功児も、バーを後にした

(今の俺なら、分かる・・・?何をや。何を分かる言うて・・・)

カタン・・・


「何や。せやから、一人にしろて・・・」
物音に翼宿は振り向き、そこで止まった
「・・・柳宿?」
「へへ・・・。来ちゃった・・・」
その顔に、いつもの活気はなかった
そして、その頬は涙に濡れていて
「・・・何・・・泣いとるん」
「え・・・やだっ・・・まだ、残ってる・・・」
柳宿は、涙を拭う

「翼宿・・・・・・・・・あたしね・・・・・・・・・・・・・退学に・・・なったんだ」

自分のせいだ
自分のせいだった
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