ホーリー母校に帰る

井宿が帰ってきた---・・・。
1年B組に、笑顔が戻った
「それでは、1時間目の授業を始める・・・」
星宿も、気を取り直して授業を始めようとした
担任としての義務も果たせた爽快感が、また星宿を勇気づけていた
しかし
校庭を見て、星宿は凍りついた
「みんな!!伏せ----・・・」

ガシャガシャガシャーーーーーーーーーーーン

「きゃああああ!!!」
クラスに降ってきたのは、大量の窓ガラス
外から、大量の石ころが投げられたのだ

「はいはい~もっと、割れ割れ。一階は全滅やぁvvv」
バイクにふんぞり返って、煙草を吸う副団長の功児
「TSUBASA」の副団長である
「糞教師の仲間は、みんな糞や。他のクラスもやってまえ」
「やめるんだ!!警察、呼ぶぞ!!」
中から、案の定、職員室にいた教師が出て来た
功児は、吸っていた煙草を踏みつける
「なぁ?あんたらも、もっとマシな教師を採用してくれへんか?うちの団長にガンつけるなんて、初めてやろうなぁ?」
その言葉に、誰もが押し黙った
逆らうと、何をされるか分からない
「なぁ?俺らには逆らえんのや。てめえらは・・・」
そのまま、「TSUBASA」は、帰っていった

一階の教室の窓ガラスは、ほぼ全滅
これが、「TSUBASA」の力・・・
「みんな・・・大丈夫か!?」
咄嗟に机の下に潜り込んだ生徒たちに、特に怪我はなかった
星宿も、安堵の息をついたが
「先生!!」
隣の教室から、生徒が駆け込んできた
「何だ!?どうした!?」
「鳳綺先生が・・・」
その言葉に、星宿は隣のクラスに駆け込んだ

「先生!!」
そこには、腕を抱えて蹲る鳳綺の姿
それを取り巻く生徒たち
「どうしたんですか!?血が・・・」
「咄嗟の事で、避け切れなくて・・・」
「とりあえず・・・、すぐに保健室へ・・・」
星宿は、鳳綺を支えると、そのまま教室を後にした

「あの二人・・・。お似合いだよねぇ」
「うん。同い年くらいでしょ?結婚しちゃったりしてねv」
後ろで、女生徒はそんな会話を繰り広げていた

一方、落ち着いた1年B組
互いの安否を確認し合っている
しかし、その中で一人
すぐに参考書を開いて、勉強をしている男の子張宿
「・・・おい。張宿。おめぇ、こんな時もお勉強か?仲間が傷つけられようとしてるのによぉ?」
それが気に食わなく感じた男子生徒は、張宿に話し掛ける
その言葉に、張宿が微笑した
「いけませんか・・・?僕は、1年の頃から勉強して、一流大学に進学しろと親に言われているのです。大体、学校は勉強するところでしょう?あなた方のように、遊びに来ている訳ではないんですよ」
「んだとっ・・・」
「やめろよ。こんな時に」
鬼宿が、それを止める
男子生徒は、舌打ちをした

「染みますか・・・?」
「いえ・・・。まったく、私ったらドジですよね・・・。生徒を護る立場の人間なのに・・・」
「そんな事ないですよ。あんな攻撃の仕方は、女性には危険です」
保健室の中で、星宿は鳳綺の腕を消毒していた
その言葉に、鳳綺はくすっと笑う
「何ですか・・・?」
「何だか、頼もしいわ。あなたは、団長に睨まれても、堂々としていて、男らしい。赴任してきた先生なんて、「TSUBASA」が顔を出した途端に、辞めていく人がほとんどですよ?」
「・・・確かに、現実とは並外れた事が、この学校では起きていると思います。しかし・・・、私たち教師が逃げても、生徒たちはどうなるんですか?そんな無責任な事は出来ません」
「星宿先生・・・」
「鳳綺先生も強いではないですか。もう3年も、この学校を護り続けていらっしゃる・・・」
「私は、そんな・・・」
鳳綺は、頬を染める
その時
「星宿先生。鳳綺先生。ちょっと・・・」
主任の朱雀が、保健室を訪れた

「被害に逢った窓ガラスは、のべ18枚・・・。しょうがないですが、教育委員会に要請を出す事にします」
太一君校長は、書類を見てため息をつく
緊急職員会議だった
「今回は、かなりの被害ですね」
心宿も、頭を抱える
星宿は、要らぬ罪悪感を感じた
「・・・星宿先生」
朱雀が、声をかける
「・・・はい」
「あなたは、何も悪くはない。気にする事はないですよ・・・」
朱雀は、優しく微笑む
「はい。すみません・・・」
「これでも、軽く済んだ方だと思いましょう。今回は、副団長が仕切っていたみたいですが、団長がいないだけマシです・・・」
そんなに凄い人物なのか
「・・・あの」
星宿が、声をかける
「何ですか?」
「あの暴走族に・・・、この学園の退学者がいるのは・・・、本当ですか?」
その言葉に、教師の何人かが押し黙る
「・・・先生。その話は、また後日」
太一君高校が、話を逸らす
その中で、人相の悪い尾宿教師が、ぶつぶつ呟いた
「俺のせいでは・・・ない。俺のせいでは・・・」
そして
その会議室の前で、聞き耳を立てていたのは柳宿・・・

次の日の朝
「さみぃ~・・・ったく、「TSUBASA」よぉ!!何て事してくれたんだ!!」
「しょうがない。窓ガラスが張り替えられるまでの辛抱だよ」
生徒たちは、開け放しになってしまった窓から吹き込む風に、体を震わせていた
そんな中、張宿は相変わらず勉強をしていた
必死に、ノートを書いている
「おい。張宿君」
その周りを、何人かの男子の集団が取り囲む
「そんなに熱心に何を書いてるのかな?僕らに見せてくれない?」
張宿は、完全無視状態だった
「シカトかよぉ!!てめぇ、俺らを見下すのもいい加減にしろよ!!」
「何だよ。こんなもの!!」
苛立った生徒の一人が、張宿の書いていたノートを奪った
「あ!!返してください!!」
「お。こいつ、やっと喋ったぞ?」
「何だよ?そんなに大事なもんなのかぁ?こんなもの・・・」
ビリッ
ノートは、真っ二つに破けた
「・・・・・・・・・」
「ああ・・・破いちゃった。ごめんごめん。そんな大事なもんだったかぁ?」
「・・・・・・・・・」
「何だ。こいつぅ~震えてやんの」
「ママが恋しくなったかぁ?張宿坊ちゃんv」

「わああああああああああ!!!!」

張宿は、教室を飛び出した
「何だ?あいつ」
「気違いになったんか?」
「おい」
男子生徒が振り向くと、鬼宿を筆頭に、美朱と井宿が彼を睨みつけていた

後に、事の事情を聞いた星宿
生徒には厳しく叱り付けた
しかし、星宿が家庭に心配の電話をかけても、今は部屋に鍵をかけて出てこないと言っていた
そして、張宿は学校に来なくなった

それから、一週間後
星宿は、張宿の家を訪ねてみた
「先生・・・」
母親は、やつれたような顔つきだった
「張宿君は・・・、まだ・・・?」
「はい・・・。何を聞いても、何も答えません。あんな張宿。初めてですよ」
「お母さん。待っててください。私が、説得してきます」
二階に上がり、固く閉ざされた扉をノックする
「・・・張宿?先生だ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「張宿。学校に来ないか?みんな、心配してるぞ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「あいつらにも、厳しく言っておいた。今は、反省している」
「・・・帰ってくれませんか?」
「張宿・・・」
「僕は・・・、何も悪い事はしていない。悪いのは、あいつらだ。そんな奴らと同じクラスでもう勉強を受けたくはありません。学校は、勉強するところなのに、暴走族を野次馬になって見に行ったり、化粧したり、馬鹿話したり・・・、そんな輩ばかり。あんな人たちと勉強するなら、塾に通い詰めた方がマシです」
星宿は、考え込んだ
確かに、張宿の言っている事は当たっている
しかし、どこか寂しいその発言
「張宿。確かにお前の言うとおりだ。学校は、本来勉強をするところだ。時にはルールを破る生徒もいるかもしれない。その度に、人一倍真面目なお前はきっと迷惑に思うかもしれない。・・・でもな、張宿。学校は、勉強だけをする場所ではないよ。みんなで、楽しい思い出をたくさん作る場所でもある。色々な人間と関わり、触れ合っていく中で、様々な勉強以外の事を学ぶ。それは、ある意味、勉強よりも大切な事なんだよ。そんな経験を、先生は張宿にもいっぱいしてほしい」

「・・・・・・・・・」
「君は、本当は優しい子の筈だよ。先生は知っている。学校の裏で飼っている兎に、お前は毎日餌をやっているだろう?そういう心があるお前なら、大丈夫。あのクラスで、やっていけるさ」
・・・バン
扉が開かれた
「先生っ・・・」
張宿の頬は、涙でぐしゃぐしゃだった
本当は、友達が欲しかった
でも、自分はこんな性格だから、きっとチャンスは来ないだろうと思っていた
そんな自分の気持ちを買ってくれる存在が欲しかった
星宿は、そんな張宿の頭を優しく撫でていた

次の日の朝
張宿は、学校に来た
最初は、周りの目が気になって恐かった
いつも通り、授業が終わり、昼休みになる
結局、みんな仲良しの友達のところへ行ってしまう
張宿は、ため息をつきながら、弁当を開く
すると
「張宿!!」
声をかけられた
顔をあげると、ニコニコしながら自分の前に立っている美朱、鬼宿、井宿だった
「はい。これ!!」
美朱は、先日に破かれたノートを張宿に渡した
それは、セロテープで綺麗に補正されていた
「あ・・・」
「大事なものでしょ?こんなに勉強して偉いね!!あたしも、見習わなきゃなぁ~」
「・・・・・・あ・・・ありがとう」
「ね!!あっちで、みんなでご飯食べようよv」
「そうしろよ。張宿!!」
「おいら達が友達なのだ!!」
その言葉に、張宿の目に涙が溢れた
それを素早く拭うと
「はい!!」
初めて笑顔を見せた

「ねぇねぇ・・・。そういえば、最近、柳宿見かけなくない?」
「ああ・・・。休み時間になると、いつもいなくなっちまうよな」
弁当を頬張りながら、出てくるこんな会話


放課後
夕焼けが差し込む資料室
そこで見つけた4年前の生徒の名簿
柳宿は、素早くそれを開く

「3-C 15番 翼宿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・校則違反の為、退学」

その写真の顔は、紛れもなくあの団長の顔
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