愛し姫君へ

「姫様がぁぁぁぁぁ!!!!」
「どういう事だ!?なぜ、姫が・・・」
「翼宿は・・・、翼宿は何処だぁ!?ここへ呼べ!!!!」

「姫や・・・。姫や・・・」
今や、一人身となった姫の祖母・柳音の泣き声が、姫の寝室に響いていた
姫は、まだ眠っている

「翼宿」
大臣は、きつい目で翼宿を見下ろしている
「なぜ、姫の護衛を怠った?」
「・・・・・・」
「貴様は、常に姫の隣室で姫を見張るように命じられていた筈であるよな?」
「大臣!!聞いてくれ!!翼宿は・・・、私の命で一時的に部屋を空けたのだ・・・。全て、私のミスだ・・・。翼宿は、何も・・・」
「皇帝は、黙っていてください!!それでも、こいつが任務を怠ったのは、紛れもない事実・・・」
「それは・・・」
「皇帝様」
翼宿は、大臣を止めようとする皇帝に、悲しい瞳で首を振った

「全て、俺の責任ですわ。体罰なり処分なり、好きに受けます」

「良い度胸だ!!さすが、皇族で鍛えられただけあるわ!!こやつを、体罰の間へ連れて行け!!」
「翼・・・宿・・・」
皇帝は、脱力したように座り込んだ

「・・・ん・・・」
姫は、静かに目を開けた
「姫!?姫や!?分かるかい!?」
「婆・・・」
「ああ・・・。姫や。恐かったね・・・。もう、大丈夫だからね?」
柳音は、すがるように姫に泣きついた
何が起きたか、分からない
ただ、疲れ果てた体と傷ついた心が、そこにあるだけ
翼宿は?

バンッ
「もっと、強く打て!!!!」
ビシッ
「姫の痛みを、こやつの体に分からせるのじゃあああ!!!!」
「大臣!!!もう・・・、もうやめるのだ・・・!!!!」
指示する大臣を止める皇帝の横で、翼宿は、体罰の間で、使用人により鞭で酷い仕打ちを受けていた
(あいつの痛みに比べれば・・・、こんなもの・・・!!!!)
翼宿は、痛みに耐えた

「翼宿!?」
姫は、目を覚ました
あれから、また眠ってしまったようだ
傍に、柳音はいなかった
(わらわ・・・。何があったのじゃ・・・?翼宿・・・。どうして・・・、翼宿はいないのじゃ・・・?)
「た・・・すきぃ・・・」
名前を呼ぶと、涙が溢れた
すると
「ぬりこ・・・?」
顔をあげると、襖にもたれかかった血まみれの翼宿
「翼宿!!??」
姫は、すぐさま駆け寄った
「どうしたのじゃ!?この傷・・・、誰にやられたのじゃ・・・!?」
「何ともあらん・・・。昨夜、転んだんじゃい・・・」
「まさか・・・、おぬし、わらわのせいで・・・?」
その瞬間、蘇る
あの忌まわしい記憶
「柳宿・・・?」
姫は、無理に笑顔を作った
「・・・しょうがないのじゃ。あれは・・・、あれは、わらわが悪いのじゃ・・・。相手も確認せずに、襖を開けたから・・・」
何があったのか、それは翼宿にも言えない
言える訳がない
最愛の人の前で
涙を我慢する姫の頭を、翼宿は微力ながらそっと引き寄せた
「すまんかった・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺のせいで・・・、恐い思いさせてしもたな・・・」
「そんな事・・・、そんな事ないのじゃっ・・・」
涙が溢れる
自分が泣くと、翼宿の責任を肯定した事になるのに
傷だらけでも、自分を抱きしめてくれるその腕が嬉しくて
そのぬくもりに甘えたかった

「すまない・・・翼宿・・・」

この二人に刻々と迫る別れを
二人は、まだ実感出来ないでいた
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