愛し姫君へ

ピシャアアアアア
バリバリバリバリ・・・
朱雀街には、異例の雷
何か不吉な予感を思わせる
そんな雷に照らされて、一人の男の部屋の机の上の書きかけの手紙が照らされる

『柳宿姫。あなたをずっと見ていました・・・』

翼宿が目を覚ますと、隣にはくぅくぅ眠る姫の姿があった
「また、布団蹴飛ばしとる・・・」
翼宿は、姫を起こさないように、めくれ上がった布団を静かにかけてやる
最近は、こうして眠る日が多くなった
姫が、今まで以上に自分に甘えてくるようになったのだ
昨日の理由は、「雷が恐いから」
まぁ、これは真実のようだった
自分の部屋の襖を開けた姫の顔は、涙でぐちゃぐちゃだったから
どこまでも子供みたいで大人になりきれていない
そんな姫が可愛くて、翼宿には仕方がなかった

「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
昼間に、姫が突然隣で大声を出した
「今度は、何やねん~?」
翼宿は、呆れ顔で襖を開ける
「翼宿!!!!わらわに、らぶれたーじゃぁぁぁ!!!」
「らぶれたー・・・?」
その言葉を聞いて、翼宿は吹き出した
「アホ!!らぶれたー言うんはなぁ、好いた女に男が書くもんや。何で、お前が・・・」
「だって!!ほれ!!」
姫が突き出した手紙には確かに・・・

『柳宿姫。あなたをずっと見ていました。
やはり、唐突すぎる文面だったでしょうか?驚かせてしまって、すみません。
しかし、この逸る気持ちをどうすればいいのでしょう?

遂に、私は筆を取りました。
私は、この宮殿の使用人をしている者です。
姫が、10歳の頃に、ここにつかわされました。
最初、見たときも、何と可愛らしい姫だと思いました。
そして、みるみる大人になるに従い、私の気持ちもどんどん膨らんできました。
最近、とても優秀な護衛がついたという事で、私は残念でなりませんでした。
私でも、姫を幸せに出来るのに・・・。

姫様。どうか振り向いてください。
今宵九の時。華の間にて、お待ちしています』

「ほれ!!らぶれたーじゃろ!!??」
「・・・・・・」
姫に突きつけられた「らぶれたー」を、三白眼で凝視する翼宿
「・・・物好きもいるんやな」
「何じゃと!?」
「まぁまぁ・・・で、どうすんねん?」
「へ?」
「行くん?今夜」
姫のパンチを片手で受け止めた翼宿が問い掛ける
「ん~・・・」
人生初の告白だった
だけど、目の前には翼宿がいる
「考えておく!!」
それだけ、答えた

九の時
翼宿は、隣の姫の部屋の物音にこっそり耳をすませていた
一分、二分、三分・・・
中々、襖が開かない
「おい」
声をかけてみる
「何じゃ?」
すると、すぐに返事は返ってきた
まるで、自分が呼びかけるのをずっと待っていたかのように
「行かん・・・のかいな?」
「・・・良い」
「何やねん。せっかくのチャンスだったやないか」
ガラッ
襖を開けた姫の顔は、紅潮していた
「何したん・・・?」
「嫌じゃないのか・・・?」
「へ?」
「わらわ・・・行くのが」
翼宿は、唐突な質問に頭を掻いた
「俺には・・・止める権利あらへんやろ」
ゴロゴロゴロゴロ・・・
まだ、去っていなかった雷雲から雷が鳴る
姫は、静かに翼宿にしがみついた
「・・・また、雷。恐いのじゃ」
「・・・・・・・・」
その震えが、雷ではない事は分かっていた
翼宿は、暫くそのままにしてやっていた

本当は恐いのだ
翼宿以外の異性が

襖の隙間から
それは、覗いていた

「翼宿」
それから暫くして、翼宿の部屋の襖を叩く音がした
そっと扉を開けると、皇帝だった
「姫は・・・?」
「今、寝ました。ったく・・・。いい歳の餓鬼が、雷如きでびーびー言わはるんですわ」
翼宿は、ため息をついた
「まぁ。それも姫らしいであろう。・・・ところで、翼宿。西の村で・・・何やら怪しい族が暖を取っているらしいのだ」
「ホンマっすか?」
「また、姫を狙う悪党かもしれぬ・・・。すまないが・・・」
「分かりました。見てきますわ」
宮殿周りの視察も、護衛の仕事
(柳宿・・・。寝てるから、大丈夫やろ・・・)
そう。何も心配する事などなかったのだ・・・

「翼宿・・・?」
翼宿が出発してから、三十分後に姫は、目を覚ました
隣に翼宿がいない
まだ雷は、遠くでゴロゴロと鳴っている
姫は、布団に包まる
(少しは・・・、翼宿がいなくても、強くなるのじゃ・・・)
帰ってきた時、「何や。一人で寝れたんか」と、頭を撫でて貰えるまで
姫は、頑張ろうと決心した
すると
トントン
ノックの音がした
「翼宿!?」
姫は、がばと飛び起きた
やはり、不安は募っていたから、その声は嬉しそうに
「翼宿!!何処へ行ってたのだ!?遅いのだ・・・」

ビシャアアアアアアアアアアン

姫の叫びは、落雷によってかき消された

「すっかり、遅くなってしもたわ・・・」
翼宿は、西の村に溜まっていた族を片付け、帰路についていた
「やっぱり、あいつら・・・柳宿目当てだったんか。やらしい・・・」
翼宿は、右手に綺麗な手鏡を持っていた
族の狩り物の中から、見つけたのだ
「あいつ・・・、目覚ましてたら怒ってるやろな。これで、許して貰わな・・・」
ガラッ
部屋の中は、静まり返っていた
まだ、寝ているようだ
ホッとして、襖を閉めようとして、我が目を疑った
自分の部屋へ続くように解かれた柳宿の腰の帯
そして

カシャーーーーーーン

「ぬり・・・」
寝床には
身包み剥がされた姫の姿
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