愛し姫君へ

「姫が高熱を・・・?」
「はい、皇帝様。昨夜、姫様が息を荒くして眠られているのに翼宿様がお気づきになられまして・・・」
「そうか・・・白焔様がお亡くなりになられて姫もだいぶ疲れが貯まったのだろう・・・」
「しかし、皇帝様」
「何だ?」
「看病を翼宿様に任せて本当によかったのでしょうか・・・?」
皇帝はそこで目をぱちくりとした
「何を心配しておるのだ?」
「は?」
「今や、姫は翼宿にべったりではないか」
「はあ・・・」
「まあ、余計熱が下がらない可能性はあるがな」
そう言って皇帝は微笑んだ

「だるいのじゃ~~~」
「少しは大人しく寝てろ!治るもんも治るらんやろ!」
「もっと手厚い看病は出来んのか!?国の大事な姫が高熱で倒れているのじゃぞ!!」
「ああ、へいへい・・・それだけ元気やったらすぐ治るわな」
そう言って、姫の額に濡れた布をパチンと当てた
「いた~~っ!何するのじゃ~・・・」
しかし、今は翼宿もこんな姫を妹のようにかわいがっているのだった

「ふん・・・あんなわがまま娘のどこがいいのかしら」
「まあまあ、紅蘭様。落ち着いてください」
「白焔のお墨付きでさえなければ、本当はこの私が天女になる筈だったのよ。それをあんなに腕の良いボディーガードまでつけて・・・」
廊下の向こうから悔しそうに姫の部屋を眺める女
紅蘭
家の財力で屋敷に住まわせてもらっている后
しかし、国は紅蘭ではなく姫を天女に選んだ
元々天女になりたくて屋敷にあがりこんだ紅蘭はそれからずっと姫を妬んできた

「白焔も死んだ事だし、この調子で姫も一生寝床から抜けられない体にしてあげましょう・・・」

紅蘭は、懐から薬草を取り出した

「少し熱は下がってきよったな」
翼宿は姫の額に手を当てた
姫は眠そうだった
「少し寝たらどうや」
中々寝ない姫に翼宿は問い掛ける
「でも・・・わらわが寝たら・・・翼宿、暇になるじゃろ・・・?」
「暇とか暇やないとかそんなん関係あらへんやん。お前の看病してんねやさかい」
翼宿が少し呆れたように返す
「じゃあ・・・じゃあ、ずっとここにいてくれるか・・・?」
「・・・何やねん。今日はやけに甘えるやないか」
「乙女はたまに甘えたくなる生き物なのじゃ」
先日から翼宿の事を意識していた姫は、この環境が嬉しかった
翼宿は姫の頭をポンポンと撫でた
「へいへい。お前の寝顔見れんと寝つけんわい。はよ寝ろや」
その時
トントン
「翼宿様」
「何や?」
「お薬をお持ちいたしました」
「ああ、すまんな」
襖を開けると見知らぬ女性だったが、翼宿は薬草と水を受け取った
「この薬草は、高熱には早めに効果が現れ、半日もすれば健康な状態に戻れるという貴重な薬草であります」
「そらまた大層なもんやなあ・・・ほな、ありがたくもろとくわ」
「では・・・」
紅蘭は静かに襖を閉めた
「柳宿。薬草やで。ごっつええ薬らしいわ。早めに飲んどかんとな」
翼宿は眠たそうな姫を起こし、薬草を飲ませ、水を含ませた
「苦あ~」
「ちょっとくらい我慢せえ。半日もすれば、熱も下がるよって」
「うん・・・」
「はよ、寝ろ」
「うん・・・」
「安心せえ。ここにおる」
姫は翼宿の裾を掴んで、嬉しそうに眠りについた
「・・・ったく」
翼宿も微笑んだ

しかし
それから数時間後
翼宿は、つい転寝をしてしまっていた
目を覚ますと辺りは真っ暗だった
「あかん・・・寝てもうた」
明かりの火をつけた
ハァハァハァハァ・・・
「・・・柳宿?」
もう体調は良くなっている筈の柳宿の苦しそうな息が聞こえる
明かりに照らされた姫の顔は真っ青だった
「柳宿!?」
「うっ・・・」
「どないした?苦しいんか?」
額に手を当てると、明らかに熱が上がっている
「まさか・・・あの薬草・・・」
おかしいと思ったのだ
見た事のない使用人にあのデマ
高熱によく効く薬草など少なくともこの国には生えていなかった
その代わり、病を悪化させる薬草は山奥に生えていると聞いたことがある
「あの・・・女・・・」
翼宿は唇をかみ締めた
「た・・・すき・・・」
名前を呼ぶ声で我に返った
「柳宿・・・大丈夫やで・・・すぐ治るよって・・・」
そんな薬草を飲まされたと姫に言ってはいけない
姫は翼宿の袖を掴んだ手だけは離さなかった
翼宿は姫の手をしっかり握った
布で姫の汗をぬぐってやる
(使用人は寝静まっとる。こんな時に騒ぎ起こしたら洒落にならんで・・・)
何とかこの状況を回避したい
翼宿はある考えが頭をよぎった
いや そんな事を姫にしてはいけない
でも・・・
「たすき・・・」

「・・・やるしか・・・あらへんやろ・・・」

翼宿は着ている服を脱いだ
まだ少し傷が痛む
そして姫の着物も静かにおろした
「堪忍な・・・柳宿・・・」
そのまま、姫の寝床へ入った
姫の体がビクッとなった
「たす・・・き・・・?」
熱で浮かされいて、姫は何をされているのか検討がつかなかった
「大丈夫や・・・俺が・・・助ける・・・」
翼宿は人肌で姫の熱を下げようとしていた
姫は、成されるがままの状態だったが意識が朦朧としていた
しばらく二人は肌を重ねていた

「翼宿・・・」
姫の言葉がはっきりしてきた
「柳宿・・・?」
顔をあげるとそこには小さく肩を上下する程度の呼吸をする姫がいた
「大丈夫・・・なんか?」
「楽になったのだ・・・」
「そ・・・か・・・よかった・・・」
「翼宿・・・」
「ん?」

「嫌じゃ・・・ないのか・・・?」

その言葉に翼宿は我に返った
「だっ・・・!!!これは・・・その・・・」
顔が真っ赤だった
「熱下げたんやろ!!昔から人肌で熱を下げるんが一番の治癒法やって言い伝えられてるんや!!」
急いで寝床から出ようとした翼宿の腕を姫が掴んだ
「なっ・・・!!柳宿・・・!?」
「こうしていて・・・」
「え・・・?」
「こうしていて・・・ほしいのだ・・・」
「柳宿・・・」
「怖いのだ・・・翼宿の体温じゃないと・・・また熱が出そうなのだ・・・」
もちろんそんなのは嘘だった
翼宿も嘘だと分かった
だけど
翼宿は姫の横に寝転がった
姫に腕枕をしながら
「ちゃんと・・・寝るんやで・・・」
姫は翼宿の背中に手を回した
「うん・・・」

幸せだった
最高に幸せな夜だった・・・
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