愛し姫君へ

小鳥のさえずりで目を覚ます
姫は目を覚ました
横には翼宿の寝顔
「ひゃっ・・・」
小さく悲鳴をあげた
そこで事の事態に気づいた
(そうか・・・昨日、翼宿に助けられて・・・)
自分を救うために負傷した翼宿の看病をしてそのまま眠ってしまったのだ
胸がドキドキしている
(何なのじゃ・・・昨夜からこの気持ち・・・今までは憎たらしいくらい生意気だったこやつが・・・今はやけに・・・)
眠るのも惜しんで自分の護衛をしていた翼宿も、ここ数日の疲れが出たのかぐっすりと眠り込んでいる
「ありがとう・・・」
姫は翼宿の手をそっと握った

「姫様!!姫様!!!」
使用人が部屋の前を訪れた
「どうしたのじゃ!?」
「それが・・・白焔様の容態が今朝悪化されて・・・」
「何じゃと!?すぐ行くのだ!!」
姫が立ち上がると、翼宿は目を覚ましていた
「柳宿・・・?」
「翼宿・・・」
「どないしたんや・・・」
「爺が・・・」

姫と翼宿が処置室に駆けつけたとき、既に白焔は虫の息だった
「爺!!爺!!しっかりするのじゃ!!」
「姫・・・か・・・?」
「そうじゃ!!姫じゃ!!」
「すまんのぅ・・・あれくらいで弱るとは・・・わしも衰えたもんじゃ・・・」
「爺・・・」
「姫・・・約束してくれ・・・お前はこの国の天女・・・いずれはこの国を変える存在となるのじゃ・・・」
「そんな事・・・爺が一緒にいてくれなきゃ・・・意味がないのじゃ・・・爺・・・わらわを置いていかないでくれ。わらわを一人にしないてくれ・・・」
姫の大粒の涙がポタポタと流れ落ちた
「・・・お前は・・・一人ではない・・・」
「え・・・?」

「お前には・・・翼宿がいる・・・」

そこでその場にいた者が入口にいる翼宿を見た
「翼宿は・・・一生お前の傍にいてくれる・・・お前を護ってくれる存在じゃ・・・仲良くするんじゃ・・・翼宿と・・・」
「爺・・・」
「ずっと・・・」
そこで握っていた白焔の手の力が抜けた
「白焔様ーーーーーーーーーー!!!」
その場にいた者の何名かが泣き崩れた
その中で姫は人形のように眠る爺を見つめていた

「翼宿・・・姫は・・・?」
事の報告を受けた皇帝が翼宿に声をかける
「もうずっとあそこにああやってますわ・・・」
姫は池のほとりに座り込んでいた
「そうか・・・さぞ辛かったであろう・・・さすがの姫も立ち直れないと見える・・・」
皇帝は深くため息をついた
「俺・・・行ってきますわ。あんなん見てられませんわ・・・」
「そうだな。頼む」

『爺ーこの櫛買ってなのじゃー』
『これこれ、姫や。まだお前には早すぎるであろう。もう少し大きくなったらな』
『嫌じゃーーーこの櫛がいいのじゃーーー』
『やれやれ。姫はしょうがないのう。特別じゃぞ』
『やったーーー爺、大好きじゃーーー』

櫛を見つめながら、柳宿は溢れる涙をかみ締めた
爺の馬鹿者・・・
その櫛を池にポチャンと投げた
「あーあ。あんなに大切にしとったのに・・・」
その声に、姫は振り向いたがすぐに向き直った
翼宿は姫の横に腰掛けた
「みんな、心配しとるで」
「放っといてくれ・・・」
「そういう訳にはいかんやろ。俺も爺さんに信用貰とるんや」
しばらく沈黙
「わらわが姫だから・・・爺は武士に襲われたんじゃ・・・わらわが姫じゃなかったら・・・爺も死なずに済んだのじゃ・・・」
姫の頬を涙が伝う
「・・・そんな事ない。爺さんはお前が姫である事を誇りに思うとったやないか」
「・・・・」
「お前のせいやない・・・爺さんは・・・そういう運命やったんや・・・」
「どうしてそんな事言うのじゃ!!??」
姫は翼宿に掴みかかった
「爺は・・・後五年は生きられたかもしれん・・・元気だったんじゃ・・・昨日の事がなかったら・・・」
「・・・・」
「わらわと爺の思い出を知らん奴が・・・知ったような口を利くな・・・馬鹿者、馬鹿者ぉ~~~~」
姫は、翼宿の胸をドンドンと叩いた
その手をいきなり翼宿が掴んだ
「せやったら、お前はずっと爺さんを哀れんで生きていくんか!!!???」
その言葉に姫の涙は止まった
「爺さんは、お前の笑顔を誰よりも望んでるんや!!お前に国の主として最後の望みを託したんや!!そんな爺さんの願いにもお前は一生耳を塞いで生きていくんか!?」
「・・・翼宿」
「・・・俺やって、悔しいわ。昨日、俺がもっと早く宮殿に帰っていれば・・・こんな事には・・・」
その言葉に姫はハッとなった
翼宿は自分の為に櫛を買ってきて、自分の為に戦って負傷したのだ
「・・・すまぬ。翼宿・・・」
また涙が溢れる
「すまぬ・・・」
翼宿は震える姫の肩にそっと手を置いた
姫は翼宿を見上げる
「柳宿・・・強くなるんや。爺さんの分までお前はこの国を護る・・・いつまでも甘えてばっかはいられんのや・・・」
姫の鼓動が高鳴った
「翼宿・・・そなただけは・・・」
「ん・・・?」

「そなただけは・・・わらわの傍を離れないでくれ・・・」

姫は翼宿の両手をそっと握った
「絶対・・・」
翼宿はしばらく黙っていたが
「益々放っとけなくなったわ・・・ごっつ手かかる姫様の事・・・」
そう言って、静かに微笑んだ

居場所を見つけた
愛する人を見つけた
4/20ページ
スキ