愛し姫君へ

ゴーンゴーンゴーン
国の決まりごとの際に鳴る鐘
翼宿の処刑の始まりの鐘・・・

ザワザワザワザワ
城の門の前は、珍しく賑やかだった
それもその筈
今日は、姫についたあの護衛の数々の不祥事を罰する為に、公開処刑が行われるからだ
「遂に、護衛さんのお披露目だよ」
「こんな形で、お披露目されるとは思わなかったけどねぇ」
「姫様・・・。ショックだったろうに」
城の者から、嘘の出任せを聞かされた町民は、心配そうに門の前掲げられた処刑場を見上げた

「何がショックじゃ・・・。でたらめ抜かしおって・・・」
「しっ!姫!民にばれます」
「どうにかして・・・、止める方法はないのか?」
「それは、無理でございます。止めるにも・・・、翼宿の居場所が分かりません」
姫、鳳綺、紅蘭、部下の緋笙(ヒショウ)は、茂みの中からその様子を伺っていた
緋笙は、昔に姫を襲った事があるが、姫はそんな事などすっかり忘れているようだった
「とりあえず・・・、翼宿が出てきたら、襲撃じゃ」
「くれぐれも・・・、無理をなさらぬように」
鳳綺は、心配そうに姫の手を握る
その時
おおおおおおおお・・・
その場に、声があがった
そこには
十字架に吊るされた全身血まみれの翼宿の姿
「っっっっ!!!!!」
「姫・・・。抑えて下さい・・・」
姫は、ショックを隠しきれない様子だった
「た・・・すき・・・」
姫の体は、異様に震えていた

「皆の者。朝からお騒がせしてしまって、申し訳ない。今回は、この姫の護衛翼宿の公開処刑を行う。皆にも、是非翼宿の最期を見届けて欲しいのだ」
大臣は、勝ち誇ったように町民にそう話す
「見ろ!!この橙色の頭を!!ふざけてはいないかい?それに、この面。とても、私は皇帝の頭が狂ったとしか思いようがなかった。こんな奴が、姫の護衛など・・・、皆の者は相応しいと思うかね?」
大臣を解雇になっていた彼は、今や皇帝にも恨みがあり、それも含めて嫌みったらしく言う

「よくも・・・」
鳳綺も、怒りが頂点に達していた
それ以上に、隣の姫ももう限界だったが

「無駄な話が過ぎたな。では、早速火あぶりの刑に処す」
翼宿の足元に火が点けられた

「あの男・・・」
「どうしたんだい?服飾商人」
「前に・・・、俺の店で姫様への贈り物に・・・、櫛を買っていった男だよ。選び方がよく分からないって、俺に聞いてきた。あの時のあいつの瞳・・・、必死に姫様に尽くしていたような気がしたけどなぁ・・・」
残念そうに、商人はぼやく
「きっと・・・、また大臣の傲慢だよ」
「今回、皇帝の姿が見えないし・・・、勝手に決めたんだねぇ」
「まったく・・・。大人しく解雇になってれば、よかったものを」

「っっっ!!!」
「姫!!」
遂に、姫は駆け出した
「ふん。これで、城は暫く安泰・・・」
バシン
姫は、大臣の頬を思い切り叩いた
その場にいた町民が静まり返った
「大臣!!誰がこんな事を頼んだ!?誰がこんな事を・・・!!」
「姫・・・様・・・!?私は、ただ・・・」
「大臣は、わらわが寂しい時に傍にいてくれたのか!?わらわを強くしてくれたのか!?」
そのまま、姫は燃え盛る炎の中に飛び込んだ
「きゃあああああああ!!!」
「姫ぇ!!!」
その場に、絶叫がおこった

燃え盛る炎の中、翼宿は意識を取り戻していた

(俺・・・、死ぬんか・・・。やっぱ、無責任やな。昨日・・・、あいつの傍におるて・・・、誓ったばっかやのに・・・。)

微笑む翼宿

(柳宿・・・。堪忍な・・・。)

ボォッ
目の前の炎が揺れた
そこには
「・・・・っ・・・・!?」
「翼宿!!!」
姫は、翼宿に抱きついた
「おまっ・・・!!何やっとんねん!?はよう出ろ!!」
「嫌・・・嫌なのじゃ!!わらわ・・・、翼宿と一緒に死ぬ!!」
「なっ・・・」

「一人で・・・、逝っては駄目なのだ・・・。翼宿・・・。わらわもずぅっと一緒じゃ・・・」

ザバッ

冷たい水がかけられた
商人を始めとする町民が協力して、水を調達したのだ

「大臣!!強制処罰により、逮捕する!!」
街の警吏も駆けつけ、事態は思いもかけない展開となった

「姫・・・」
鳳綺と紅蘭と緋笙も、唖然としていた
鳳綺は、涙を流した
「綺麗ですね・・・。姫・・・」

その中から
固く抱き合った二人の姿


「そうか・・・。そんな事が・・・」
目を覚ました皇帝は、鳳綺から事の詳細を聞き終えた
「姫。よくぞ、やってくれた。あやつこそ、国が選んだ姫」
「彼女の姿勢。愛情。全てが・・・、国の模範ですね」
同じように旦那が火あぶりにされてしまったら、自分は出来るだろうかと鳳綺は、ため息をつく
「姫と翼宿は・・・」
「また・・・、いつものように、喧嘩を・・・」
鳳綺は、穏やかに微笑んだ

「じゃ~からっ!!動くなと言ってるじゃろ!!火傷に響く!!」
「こんなん、何でもあらん言うとるやろ!!」
「そうやって、お前は、いつも無茶しおる!!」
姫は、翼宿の火傷の箇所に湿布をビタビタ貼り続ける
「これで・・・、最後じゃっ!!」
「いったあ!!お前!!もう少し、優しい看護は出来んのかいな!!」
「何を言っておる!!それでも、国の皇族か!!」
今では、すっかりこんな喧嘩も楽しめるようになった
2人は、共に監獄から抜け出したのだから・・・
「その・・・」
「ん?」
「悪かったな・・・」
「何が?」
「お前まで・・・、巻き込んでしもて」
「そんな事・・・全然、いいのじゃ」
その空気から、自然に2人の頬に赤みが射す
「翼宿・・・。戻ってきてくれたのじゃな」
姫は、最高の笑顔を見せる
満ち足りた至福の時間
何よりも、求めていた・・・
「阿呆」
翼宿は、姫の髪の毛を撫でると
そっとその唇にキスをした
「~~~~~~~~~~~~~~~!!??」
姫は、心臓が爆発しそうだった
「・・・礼や」
翼宿は、そのままそっぽを向く
姫の瞳に、涙が溢れる
「たすきっ!!!」
「どわっ!!抱きつくなぁ!!」
トントン
そんな2人のやりとりを遮るノックの音
全ては、この音から変わる・・・。
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