愛し姫君へ

「・・・ん」
明るい日差しが、宿に差し込む
そっと目を開けると、そこには眠る翼宿
(ここは・・・?)
昨日の記憶を探る
少し動くと
「いっ・・・!!」
胸に激痛が走った
その悲鳴に、翼宿が目を覚ます
「柳宿・・・!!」
「翼宿・・・わらわは・・・」
「よかった。意識はあるな・・・。ったく・・・、ホンマ・・・無茶すんな」
安心そうに微笑む翼宿
姫は、ずっと翼宿に抱かれて眠っていたのだ

「暫く・・・、ここにおれ」
「へ・・・?」
「もう、追っては来ないやろ・・・。お前、暫く動けんしな」
「そんな・・・。翼宿、迷惑じゃないのだ?」
「阿呆。俺こそ・・・、お前に申し訳ないんやで」
朝食を作りながら、背中越しに会話をする
やはり、いつもの姫だ
「夢みたいなのだ・・・」
「へ?」
「翼宿と・・・、こうして平凡に暮らせるなんて・・・」
「・・・・・・・・」
何処までも無茶な女だ
自分の命を懸けてまで、こんな時間を楽しんでいる
女嫌いの翼宿には、未だに理解できないところがあった

その時
「翼宿!!柳宿!!」
優しい優しいこの国の皇帝の姿
「皇帝様!?」
「ああ・・・。よかった・・・。2人共・・・、無事だったんだな」
「皇帝様こそ・・・、どうして・・・?」
「何を言っておる。姫が怪我をしたと聞いて、駆けつけたのだ。早速、薬を持ってきた」
「ありがとう・・・ございます」

落ち着いたところで、翼宿は、皇帝に茶を薦める
「大事な時間に・・・、邪魔をしてしまったようだな」
「何言ってるんすか。こうして来てくださって、嬉しいです」
今や、唯一の姫と翼宿の理解者だった
「昨夜は・・・、うちの兵士達が無礼な事をしてしまい・・・、申し訳ない」
「いや・・・」
「あやつらでは・・・、武力の差が違いすぎるし、何しろ自分のプライドを一番大切にしておる。姫を任せてはおけないのだ」
皇帝はそう言って、疲れきった顔で微笑んだ
「皇帝様・・・。今日は休んでってください。こんな汚い宿やけど・・・、お疲れが見えます」
「そうか・・・?悪いな。お前らの邪魔をしてしまって・・・」
「いいえ・・・」

「翼宿。お前・・・、姫をどう思う?」

「は・・・?」
「后に・・・、取る気はないのか?」
「何言うてはるんですか!!皇帝はん!!」
「いや・・・。皇帝の私から言うのも何なのだが・・・、このまま姫と別れてしまうのか?」
「・・・・・・・・・・」
「今の大臣は・・・、解雇するつもりだ」
「!!・・・皇帝様」
「あんな自分勝手な大臣など・・・置いておけない。姫が安心してあの宮殿で暮らせるような環境になったら・・・、そなたも戻ってきて欲しいのだ」
「・・・・・・・・・・」
「一度は追い出した身として・・・、こんな事を言って混乱させてしまうのは申し訳ないが・・・」
「いえ・・・。せやけど、皇帝様」
「何だ?」

「俺は・・・、国の地位も名誉も要りません。ただ・・・、あいつが危なっかしくて放っておけへんから、護ってる。ただ、それだけなんです。それに、あいつには俺じゃなくても・・・、えぇと思いますわ」

「翼宿・・・。そんな事は・・・」
「すんません。柳宿、見てて貰ってもえぇですか?俺・・・、今晩の夕食の材料、取りに行ってくるんで」
翼宿はそう言って、笑顔で立ち上がった

「姫」
「皇帝様!!」
薬が効いたのか、姫はすっかり元気になっている
「こら。まだ寝ていなさい。体力が落ちているんだから」
「本当にすみません・・・。こんな事、皇帝様にさせてしまって・・・」
「私は構わぬ。2人が心配だったのでな」
「でも・・・、早く帰ってあげないと・・・、鳳綺様が心配しますのだ」
「大丈夫だ。心配は要らぬ。柳音様も・・・、そなたの事を心配しておったぞ?」
「婆・・・」
「・・・柳宿。しかし、やはり翼宿と離れたくないだろう?」
姫は、その質問に驚いたが、顔面真っ赤で頷いた
「分かる。私も、そうして欲しい。しかし・・・、あやつは男の中の男だ。そう簡単に・・・、后に取れないとは言っておる」
「そう・・・ですか」
「しかし・・・、そなたが翼宿をこうして護ってくれた事に、今、翼宿は動揺しているのだ。少し、時間をかけてみてはどうだ?」
「え・・・?」
「城の方は、私が治安を建て直す。いつか、姫がまた戻ってきてくれるように私が責任を持って管轄する」
「皇帝様・・・」
「それまで、翼宿と・・・、ここで待っていてはくれぬか?食料は、支給する」

2人の距離を縮める期間
大事な期間が与えられた
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