愛し姫君へ

いつもいつも我侭で、子供じみていて
いつまでも手がかかる姫様
そんな彼女が
「た・・・すき・・・」
自分の目の前で、血を流して倒れているなんて
「ひ・・・」
「姫様ぁぁぁ!!」
周りで、対戦を繰り広げていた兵士達が悲鳴をあげた
「貴様ぁ!!」
「ぐああああああ!!」
姫を誤って刺した兵士が、将軍に刺された
「貴様・・・!!よくも・・・、よくも姫を・・・!!」
将軍は、泣いていた

「・・・れ」
「何・・・!?」
「はよう・・・、城に戻れ。知らせるんや。姫が・・・、負傷したて」
姫を抱えた翼宿が、ぽつりぽつりと呟いた
「・・・・・・・・・・・・っ」
「早く行け!!!!」
物凄い剣幕で怒鳴りつける翼宿を横目に、兵士達は城へと戻っていった

バン
翼宿は、すぐさま姫を抱きかかえて扉を蹴り開けた
そのドアは脆く、半分壊れかかっていた
(こいつ・・・、あんながっちり固定しとったのに・・・。)
自分の危険を感じ、こんな固い扉を破って飛びだして来たのだ
すぐさま、姫の胸元を止血する
血は止まらない
「くそっ・・・!!耐えろ・・・柳宿・・・!!」
苦しそうに胸で息をする姫を、懸命に励ます翼宿
「たすき・・・?」
「ぬりっ・・・お前っ・・・、何やっとんねん!!こんな・・・、怪我して・・・」
「だって・・・」
その顔は苦痛に満ちながらも、確かに微笑んでいた
「翼宿を・・・助けたかったから・・・」
その言葉にハッとする
今、翼宿の前にいるのは、あの我侭な子供じみた姫ではない
まるで女神のように美しく儚い女性だった
「翼宿が無事なら・・・、それでいいのだ・・・」
「柳宿っ・・・」
今まで勝気だった翼宿の瞳から、初めて零れた涙
人の為に零した涙・・・
「柳宿・・・すまん・・・すまんな・・・!!」
姫を抱きしめて、泣いた

「今・・・、申した事は確かか・・・?将軍」
「はい・・・。申し訳ありません・・・。うちの部下が・・・」
すぐさま城に戻った兵士達は将軍を筆頭に、皇帝陛下の前に跪いている
「陛下・・・」
背後で柳音と鳳綺は、心配そうに皇帝を見やる
「馬を出せ」
「え・・・?」
「こうしてはいられん・・・。私が行く」
「陛下・・・」
「大丈夫。心配には及ばん。少し様子を見てくるだけだ。・・・薬を持ってな」
これ以上、兵士達には任せておけなかった

「即急に用意しろ!!我は、外に出る!!」

皇帝が行く時
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