愛し姫君へ

愛する者が、血にまみれようとしている
闘っちゃ、駄目だ・・・。

雨は強くなる
「まだ、我々に歯向かおうと言うのかね?翼宿」
「一時は国に仕える身だった癖に、大層なもんだなぁ」
兵士達は、せせら笑った
翼宿は、やはり思った
こんな奴らに姫は任せられない
結局は、自分の武力の優劣を試そうと、戦いを好む者たちなのだ
小さくため息をつく
「俺の事はどうでもえぇ。せやけど、姫の気持ちをちっとも理解してやれんかったあんたらもあんたらや。こんな事して、姫が喜ぶと思うんか?」
「何を知ったような口を!!我々は、姫が幼少の頃から、宮殿に仕えているのだ!!お前にそのような説教をされる筋合いはない!!」
「そか・・・。なら・・・」
兵士が、ザッと身構えた
「仕方あらへん」

「翼宿!!翼宿!!」
ドンドンと扉を叩く
さっきからこじ開けようとするが、外からつっかえ棒がしてあるらしく、開かない
(どうすればいいのじゃ・・・。このままでは、翼宿が・・・)
目に見えていた残酷な結果
「おらぁぁぁぁぁっ!!」
その時、一人の兵士の怒声
「翼宿!!」

カンカンカンカン
翼宿は、たくさんの兵士の剣を両刀棒でかわし続けていた
その目に留まらぬ物凄い速さで
キィィン
「貴様・・・。中々やるな・・・」
将軍と思われる男が、翼宿と剣を合わせ睨み合う
翼宿は一瞬不敵に微笑むと、その姿を消した
「!?」
「将軍!!上です!!」
見ると、翼宿は華麗に宙を舞い、その両刀棒の矛先を地に向け、そのまま一気に落ちてくる
「散れ!!!」
将軍のその言葉に、皆は一斉に散らばる
翼宿は、その中央に両刀棒を突き刺し、着地した
ピシャアアアアン
雷に照らされたその姿は・・・、狼そのもの
「もう・・・、辞めたらどうや。姫が中におる。こんなんは酷やろ」
「このぉぉぉぉ!!!」
それでも尚、向かってくる兵士
その剣を一発でかわすが・・・
後ろへの反応が遅れた
兵士がこちらへ剣を向けて走ってくる
間に合わない

メキッ、バリバリッ!!!
「翼宿!!!!!!!!!!」

ドスッ

鈍い音
しかし、自分に痛みはなかった
あの姫が
ドサッ
自分の膝に倒れた
その胸元を赤く濡らして・・・。
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