愛し姫君へ

ハァハァハァハァ・・・
後、どれくらい走れば、あいつの元へ辿り着ける?
何処へ行ったのかも分からないのに、あてどもなく走る姫
(翼宿・・・。何処じゃ・・・。何処に、行ったんじゃ・・・?)
「痛っ・・・」
すると、切り株に足を引っ掛けてしまった
気づけば、着物もボロボロ
もう走れない
「たすき・・・」
「姫?」
すると、見知らぬ自分の名を呼ぶ声

「姫がいなくなっただと!?」
「部屋は、蛻の殻です!!」
「まさか・・・、翼宿を追っていったというのか・・・?」
「馬鹿な・・・。あいつの行った先は、皇族の基地だ。ここから、数キロはあるぞ」
「大体、姫の足で行ける距離ではない」
「早く、探し出せ!!一刻も早く!!」
そんな騒ぎの中、皇帝は混乱していた
「どうしたものか・・・」
そんな皇帝の肩に手が置かれた
「陛下」
「鳳綺・・・。すまぬな。騒がしくしてしまって」
その女性は、皇帝の恋人の鳳綺だった
「大丈夫です・・・。姫は・・・、お二人は、必ず見つかります。そして・・・、ここに戻ってきます」
そう言って、微笑む鳳綺
「ありがとう・・・。鳳綺」

姫の名を呼んだその男は、明らかに宮殿の者ではない格好
嫌らしい目で、こっちを見ていた
「姫・・・。探していたんですよ。さぁ・・・、宮殿に帰りましょう」
「そなた・・・。宮殿の者ではないのだ・・・」
「何を言っているのです。今は、国中が姫を探していますよ」
姫の行方不明の噂は、あっという間に村中に広がっていた
それを聞いた悪党が、姫を攫おうとしているのだ
ゆっくりと男が近づく
逃げられない
ガシッ
「つぅ・・・・・」
男の悲鳴
そっと、目を開けると

「うちの姫さんに何か御用ですか?」

大好きなあいつ
「去れ」
「ちっ!!」
悪党は、走り去った

「た・・・すき・・・?」
「何やっとんねん!!お前は・・・!!何処行くつもりだったんじゃい!!」
ボロボロの姫を、翼宿は怒鳴りつける
そのまま姫は、その胸に飛び込んだ
「会いたかった・・・。会いたかった・・・」
「・・・柳宿」
翼宿は、姫をそっと引き離す
「今すぐ、戻れ。送ったるから」
「嫌・・・、嫌なのじゃ!!」
「こんな事したかて・・・、無駄やて分かっとったやろ」
「嫌なのじゃっ!!!あんな宮殿には、もう戻らぬ!!」
「柳宿・・・」
「わらわを・・・、鳥篭の鳥のように閉じ込めて・・・、大事な物を次々と奪っていく・・・。いつも、それを黙って見ている事しか出来なかった・・・。もう・・・、限界なのじゃ」
だから、惹かれた
自由奔放なその笑顔に
翼宿は、暫くそんな姫を黙って見ていると
「おぶされ」
背中を向けた
「え・・・?」
「その足じゃ、動けへんやろ。大体、皇族の基地には歩いても丸二日かかるわ。そこの宿で休んどったんや」
姫は、その大きな背中におぶさった
「行くで」
温かかった
もう何も要らなかった
12/20ページ
スキ