愛し姫君へ

「翼宿のこれからの継続についてだが・・・」
「当然、解雇でしょう。今は、姫の側近に戻しているが、宣告は、近いでしょうな」
大臣は勝ち誇った笑みで、会議を統括する
しかし、大臣以外は、どうも翼宿だけを責める事は出来ないといった感じだった
何より、今、彼を解雇すれば、一番悲しむのは・・・、姫だったからだ

一方、姫は少しずつではあるが、翼宿の明るさで、元気を取り戻していった
夜は翼宿は寝ずの番で、姫の部屋を護り、今まで以上に仕事に徹してきた
だけど、それは、翼宿自身が自覚していたのであろう
もうすぐ、自分の役目は終わるであろうと・・・

そんな時、姫が柳音に呼び出された
「何じゃ?婆」
「姫や。体の具合はどうだい?」
「もうばっちりなのだ!!婆にも、心配をかけたのだ!!」
「そうかい・・・。実は、姫に折り入って報告があるんじゃ」
「何じゃ?」
そこを翼宿が通りかかった

「翼宿は・・・、後一週間で解雇される」

「え・・・?」
姫は、自分の耳を疑った
「何・・・、言ってるのじゃ?婆・・・」
「姫よ。あんな目にお前が遭って、今更翼宿をのこのこ側近に置いておく訳にはいかんじゃろう?」
「あれは・・・!!あれは・・・、わらわが悪いのじゃ!!勝手に襖を開けたりなどしたから・・・。でも、今はもうすっかり元気なのだ!!翼宿が、わらわを元気にしてくれたのだ!!」
「じゃが、姫や。宮殿はもうそのような決断をしてしまったのじゃ。また、新しい護衛がつくから・・・」
「嫌じゃっ!!!」
「姫や?聞き分けのない事を言わないのだよ。なぜ、そこまで彼に・・・」

「わらわは・・・、わらわは、翼宿が好きじゃ!!!!」

その言葉に、婆の言葉が止まった
「もう・・・、もう止められないのじゃ。翼宿は・・・、わらわの為にどんな事もしてくれた・・・。励ましてくれた・・・。わらわは、もう翼宿がいないと・・・、駄目なのじゃ・・・」
「姫。何を言ってるんだい。護衛に恋愛感情など・・・」
「もう良い!!婆なんて、嫌いじゃ!!」
そう叫んで、襖を開けた
そこには
「翼宿・・・」
黙って襖の向こうでそのやりとりをきいていた翼宿の姿
「今の・・・、聞いて・・・」
姫は、そのまま駆け出した
「柳宿!?」

(絶対・・・、絶対、軽蔑されたのじゃ・・・。わらわ・・・、なぜ翼宿が聞いてるとも知らずに・・・、あんな事を・・・。)
後悔の念が押し寄せる
気味が悪いではないか
こんなんでは、彼だって自分を護りたくなくなる筈・・・
地に足が縺れて、そのまま倒れた
「た・・・すきぃ・・・」
床に、姫の涙が落ちる
(どうすれば・・・、どうすればいいのじゃ・・・?どうしたら、翼宿を助けられるのじゃ・・・?)
姫の地位など所詮無力だ
助けて貰ってばかりで、助けてあげられない
その時
前方に人の気配を感じた
顔をあげると、愛しい人
「翼宿・・・」
翼宿は、ゆっくりと近づいてくると、しゃがみこんで一言
「すまんな」
その言葉に、姫の涙は溢れ出した
瞬時に抱きつく
「翼宿っ・・・!!嫌なのじゃ・・・!!わらわ・・・、嫌なのじゃ・・・!!」
「・・・・・・・・・・・」
「わらわ・・・、翼宿にどう思われてても良い。じゃが・・・、じゃが、わらわは・・・、そなたが・・・」
「しゃあないんや。こればっかは、お前から目離した俺の責任や」
「でも!!」
翼宿は、姫の涙を拭った

「短い間やったけど・・・、楽しかったで」

そう言って寂しそうに微笑む翼宿
姫は、何も言えなかった

別れの時が来る
10/20ページ
スキ