Flying Stars

「えぇっ!?指怪我したの!?」
愛内鈴菜とのコラボレーション活動も無事終了して、芸能活動休暇を貰った「空翔宿星」
それでも週に3回は稽古の為に楽屋に通っていた
そこにいつも通りいやいつもより更に遅れて登場した翼宿の手に包帯が巻かれていた
「あぁ・・・家でベースいじってたら弦がバチーンて切れて親指ぱっくり切ってもうたんや」
「うっわ・・・痛そ~・・・」
「大丈夫かよ?」
「あぁとりあえずな。せやけど麻痺しとるみたいで暫く手使えへんって医者に言われたんや・・・せやから今日もバイクやなくて電車で来た・・・」
「えっ!?ばれなかったの!?」
「半分ばれとったわ」
「でも・・・お前これからどうするんだよ?それ利き手だろ?芸能活動始まるまでまだ暫くあるけど一人暮らしなんだし色々家の事とか・・・」
「せやなぁ・・・」
そこで鬼宿が柳宿をちらっと見た
「あ~あ。こんな時翼宿に彼女いたらなぁ」
柳宿の体が竦んだ
「あっ・・・あのね・・・翼宿・・・」
「ん?」
「その・・・あたし・・・お手伝いに・・・行ってもいいよ・・・あんたの家に・・・」
「あぁ?」
「だって・・・ほら!バイクでいつも送って貰ってるしさ!!お礼お礼!!」
「せやけどお前・・・」
「だ~いじょうぶよ家は!!一人くらい欠けたってどうって事ないし!!それにママあんたの大Fanだから喜んで薦めると思うしさ!!」
「そうしてもらえよ翼宿!!」
鬼宿も薦めた
「せやけどお前いつまで・・・?」
「もちろんあんたの手が完治するまでよ!!包帯の取替えも一人じゃ出来ないでしょ!!」
「なぁ!!それってさぁ!!」
鬼宿が割り込んだ
「泊り込みでって事だよなv」
「え゛っ・・・!!」
柳宿は派手なリアクションをした
「おいおい、どうすんだ~?柳宿v」
「いや、柳宿。それはさすがに・・・」
その後ろで柳宿が一人空想していた
(そうだよ。そうだよね。これってチャンスだよね・・・?翼宿の事知れる・・・)
「いいよ!!やる!!」
「はぁ・・・?」
「やるから!!」
「柳宿・・・」
さすがの柳宿の情熱にたじろいた翼宿の後ろで、鬼宿は密かにVサインを送っていた

その晩から柳宿は翼宿の家で泊り込みでお世話をする事になった
家からお泊り用具を持って来て、翼宿家へ向かう途中に近くのスーパーで食材の買い物
そしてついに着いた
「ここなんだ~大きいマンション!!」
「お前・・・ホンマにえぇんか?」
「え?何で?」
「いや、お前の事もあるし・・・親御はんかて、嫁入り前の大事な娘・・」
そうだ
自分は浮かれ気分で来たのだが、翼宿は自分の事同じメンバーとしか思っていないのだ
現実を実感し、少し反省する
「ごめん、迷惑だったらいいんだけど・・・あたしが翼宿の事心配してるって言ったら、親も了解してくれたし。あたしはそれでいいと思ってるの・・・けど・・・翼宿が嫌なら別に・・・」
勿論、彼が好きだからなんて理不尽な理由なんて言える訳がない
そんな柳宿の頭を翼宿は平手で叩いた
「たっ!!何すんのよ!!!???」
「別にそんなしゅんとなんなて。こっちは、全然嫌がっとらんのやから。寧ろ、有難いわ。おおきに」
そんな彼の笑顔が眩しくて、柳宿の鼓動は高鳴った
(こんなんで、心臓持つだろうか・・・)

「広~い!!ちょっとあんた本当に一人暮らし!?」
「ホンマやて。他に誰がいるねん」
「家出してきたって聞いたけどよくこんなマンション買う程お金あったわね~」
「最初はボロアパートやったで?せやけどほれ。予想以上に売れて収入あったからマンションに買い変えたんや」
「この~」
「別に俺が満足したいから買ったんとちゃうわ。こいつらの為や」
「あっ・・・」
翼宿が一室を開けるとそこには様々なギターが壁に並べられていた
「凄い・・・」
その中には超プレミア物や海外輸入品らしきベースもたくさんあった
「ギターはな。あんま乾燥してる狭苦しい場所に置いとくと音が濁るんや。せやから・・・」
「あんた此処まで音楽馬鹿だったのねぇ」
「何やねん、その言い方」
でも嬉しかった
音楽にそこまで情熱をかけている翼宿が
「さてと!!夕飯の準備しなきゃ!!」
ニャ~
足元で鳴き声が聴こえた
「・・・え?」
見下ろすと一匹の子猫が柳宿の足にぴったり寄り添っていた
「・・・きゃ~v可愛い~vvv」
それは真っ白で毛がフサフサしている目がくりくりして愛らしい子猫だった
「俺の飼い猫や」
「え~!?あんた猫飼ってたの!?超意外!!」
「まぁ留守番役やからいつも放っておいてばっかりやったけどな」
「ホントに可愛い~vこんな可愛い猫ちゃんと世話してやってんの?あんた煙草ばっか吸って煙で肺炎なりかけさせてないでしょうね?」
「ドアホ。そこは気遣って飼っとるわ」
「あれ・・・?でもマンションて動物駄目じゃないの?」
「そんなん知るかい」
「全く・・・未成年で煙草は吸うしいいご身分よね!!」
猫が柳宿の腕の中から翼宿に乗り移ろうとしていた
渡してやると翼宿に酷く懐いた
「へぇ~あんたみたいな奴にも懐くんだ~vいい子じゃない!!」
「どういう意味やねん」
改めて夕食の準備に取り掛かった

「ねぇ~?」
「ん?」
「何か好きな料理ないの~?」
「基本的に何でも食べるで」
「特に好きなもの!!」
猫を抱きながらテレビを眺めていた翼宿に台所から柳宿が声をかけた
「ん~・・・スパゲッティかいな~」
「スパゲッティね!!よし!!」
自分の記憶のメモリにも何故か書き足して料理を始めた

一時間後
「はい!!出来た!!」
「よし、お前も飯にするか」
猫の頭を撫でてキャットフードを取りに行った
戻ってきた翼宿に自分の腕の中に預けられた猫の頭を撫でながら柳宿が尋ねた
「ねぇ~名前何て言うの?」
「決めてへん」
「嘘!!可哀想だよ~」
「一人で猫に話し掛けたりせぇへんやん・・・」
「じゃあさ!!タマにしようよ!!」
「気色悪いわ~家までたまと一緒かいな?」
「いいの!!今日からお前はタマだよ~v」
猫の頭を撫でる柳宿の仕草に翼宿はふっと笑った

それから2人が学校の日も柳宿がなるべく早く帰って部屋の掃除や洗濯をした
まるで奥さんになった気分で柳宿は上機嫌だった
そんな柳宿に半ば呆れながらも煙草を吸っている翼宿だったが


柳宿が仮奥さんになって1週間が経った
「痛っ・・・」
翼宿の部屋から彼の声が聞こえて、柳宿は掃除機を投げ出して部屋へ駆け込んだ
「どうしたの!?」
「いや~タマが腕から落ちた時に指引っかいてもうてなぁ血出てきよった・・・」
見ると翼宿の親指を保護していた包帯が破けて血が出ていた
「大丈夫!?消毒して包帯替えなきゃ!!」
柳宿に迷惑をかけない様にと不器用に今まで包帯を一人で替えていた
翼宿だったが今回は血も出て痛みも目立っていたから、大人しく柳宿の手当てに従った
急いで救急箱を持って来て包帯を外し消毒をした
「まだ染みる?」
「前よりは全然・・・せやけどこの調子じゃ何週間で完治するかいな?」
その言葉に柳宿はドキッとなった
完治するまでここにいるんだった
「お前にもこれ以上迷惑掛けられへんしなぁ・・・」
「あたしは全然!!だってあんたが今までどおりの生活してたらもっと完治遅くなってたかもしれないじゃない!!」
「そらそやけど・・・」
「大丈夫!!治るまでここにいるから!!だって大事な仲間じゃない!!」
「・・・・」
包帯を慣れた手つきで巻いていく
翼宿の大きな手に直に触れたのは初めてだった
体温が伝わる
「何だかホンマに妹が出来たみたいやな・・・」
翼宿は笑って答えた
「妹?」
(彼女じゃなくて?)
そう聞こうとして思いとどまった
(いいじゃない。自分が、翼宿にとって安らげる存在の妹だって。欲張り言うんじゃない)
それでも本当は、とっても嬉しかった
その横でタマも嬉しそうに鳴いていた

それから3週間後
もうすぐ翼宿の手が完治する
もうすぐ翼宿ともお別れ
この部屋ともタマともお別れ
また楽屋でしか顔合わせられなくなるのか

明日に帰ると決まった晩・・・
柳宿のスペシャルコースを存分に満喫した2人+猫だったが、柳宿の元気が何だかない
「どないした?」
「・・・ううん!!もう今夜でお別れなんだなぁって」
「別に明日の昼間も会えるやないか」
「そうなんだけどさ・・・」
つけていたテレビから「空翔宿星」特集が流れた
タマも2人の隣で首を傾げている
彼にはどう見たって
妹以上に自分を見てくれないんだ
そう思うと、苦しくて苦しくて胸が張り裂けそうで・・・
今回自分が奥さんになった気分になれても、彼には家政婦としか思われてないのかもしれない
「お茶碗洗うね!!」
柳宿が立ち上がったその時、腕を引かれた
「えっ・・・?」
そのまま、翼宿の腕の中に飛び込んだ
「ちょっ・・・翼宿?」
「ホンマおおきに・・・助かった」
「翼宿・・・」
「お前も何かあったら・・・言えよ」
「うん・・・大丈夫・・・よ・・・馬鹿」
涙が溢れた
嬉しかった
嬉しすぎて、嬉しすぎて

一歩でも近づけたよね
あなたに
嬉しい瞬間がいっぱいだったこの一ヶ月で・・・
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