Flying Stars

「鬼宿。ちょっと・・・」
夕城プロは楽屋で練習していた鬼宿に手招きした
「何すか?」
「今度の仕事の話。「空翔宿星」がコラボレーションに参加する事になったんだ・・・」
「本当ですか!?」
「うん。愛内鈴菜ちゃんて知ってるよね?」
「あぁ。あのすっごい声高い子ですよね?」
「そう。その子となんだけど・・・」
「何か問題ですか?」
「それがねぇ・・・」

暫くして鬼宿が楽屋に帰って来た
「ねぇねぇこれどうするの?」
柳宿は食べていたお菓子に付いていた先端にプロペラがついた玩具をいじっていた
「アホ。こうするんや」
翼宿が玩具を取り上げてふぅっと吹いた
途端にシャボン玉が飛び出た
「すっご~い!!何であんたが出来るのよ!!」
「頭の出来や」
「うっそぉ!!留年寸前の頭の癖に!!」
「じゃかあしい!!大きなお世話や!!」
「ちょぉっといいか?」
何気に兄妹みたいなやり取りをしていた2人の間に鬼宿が割って入った
2人が仕事かと察した
「今度の仕事で俺らがコラボレーションする事になったらしい!!」
「嘘!?誰誰~???」
柳宿が子供の様にはしゃいだ
「愛内鈴菜って知ってるだろ?」
「あぁ。あのヘリウムガス・・・」
「こら!!」
柳宿が翼宿の頭を平手打ちした
「その子のバックで演奏を務めて欲しいらしい。だから今回お前の出番はないぞ翼宿」
「まぁ別にえぇけど」
叩かれた頭を摩りながら煙草に火をつけた
「ねぇねぇ。でもどうしてそんな深刻なの?」
「う~ん。その子どうやらな・・・」
翼宿がフゥと煙を吐いた
「翼宿の大Fanらしくてな」
「えっ!?」
「ゲホゲホッ!!」
柳宿が叫んだ横で翼宿がむせこんだ
「それって・・・やばくない?」
「あぁ。やばい」
「メンバー入りたいって言ってくる事間違い無しじゃない」
「あぁ。俺もそう思う」
「何言うてるん。仕事なんや。相手やてそれなりに遠慮してくるやろ」
当の本人が相変わらず冷静なのに対し柳宿はむっとして翼宿の髪の毛を引っ張った
「いたたっ!何すんねん!!」
「そっちこそ何言ってるのよ!!仕事の間柄で一番トラブルが起きやすい事情じゃないの!!そのまま・・・そのままさ!!お付き合いって事だって珍しくないんだよ!?」
翼宿はポリポリと額を掻いた
「何でお前がムキになんねん」
「えっ・・・?だって・・・」
(何でだろう)
「まぁまぁ。彼女には悪いけどとりあえず翼宿。お前あんまり関わらない方がいいぞ?」
「言われなくともそのつもりやったけど・・・」
「来週から練習に参加するそうだから。先に楽譜貰っておいた。これで今日から練習しようぜ」
何だか柳宿は嫌な予感がして
予感が的中した

「おはようございま~すv」
朝からハイトーンボイスを響かせてきたのは
愛内鈴菜 23歳
今高音がとっても綺麗な女性シンガーとして有名である
まるで翼宿の様に・・・
柳宿はその前を通りかかってしまった
「あっおはようございます!!愛内鈴菜ですvこれから宜しくお願いしますv」
笑顔で駆け寄ってきた鈴菜を柳宿はかわせなかった
「柳宿です。宜しくお願いします・・・」
2人握手をしたが、何だか相手の手の力が強い様な気がした

「それじゃ練習入ります。宜しくお願いします~」
「宜しくお願いします!!」
スタッフの指導により初の合同練習が開始された
「翼宿はここでベースをこう・・・鬼宿はここでドラムを・・・」
てきぱきと指示する作曲者を横目に、柳宿は鈴菜の異変に気づいた
何やらマネージャーらしき人と翼宿を見ながら話し込んでいる
すすっと側にあったセットに身を隠した
「ねぇねぇ!!あの人よ!!あたしの大好きな人!!」
(大好きな・・・?)
「昨夜眠れなかったの!!生で見れるだなんてって思って~vやっぱりかっこいい~v」
(かっこいい・・・?)
「絶対ゲットしなきゃね!!この機会しかないんだしv」
(ゲット・・・)
「何しとんねんお前」
「わっ!!」
セットと一緒に無様に転んだ
「いったたた~」
「どこまでアホやねん」
「あっアホで悪かったわね!!」
「次。お前の番」
「柳宿さ~ん」
「あっはい!!」
柳宿は慌てて身なりを整えると駆け出した
その光景を見ていた鈴菜が一言

「あの子・・・翼宿さんと・・・仲いいんだね・・・」

コンコン
「空翔宿星」楽屋の扉がノックされた
「は~い?」
柳宿しかいなかった
「愛内です!!柳宿さんですか?ちょっとお話があるんですが・・・」
ぎくっとなった
「いっ・・・いいよ!!」
扉を開けると鈴菜が笑いかけてきた
「すみません。こんな時間に」
「ううん・・・いいよ。話って・・・」
「あの・・・翼宿さんとは・・・どういうご関係なんですか?」
「はい?」
「何だか随分親しげみたいで」
「全然!!あいつあたしの事なんてこれっぽっちも・・・」
「じゃあ交際関係ではないんですね!!」
うっとたじろいた
「まぁ・・・そだけど・・・」
否定しづらかった
「よかった~vすみませんでした!!それだけなんです!!」
すぐに扉を閉められた
閉められた扉をぼっと見ていた

「まぁ・・・そだけどさ・・・」


練習も2週間が過ぎた
次第に鈴菜の翼宿に向ける視線が強くなってきた
そしてテレビオンエアの前日
「翼宿・・・さん?」
鈴菜が翼宿に緊張気味に話し掛けた
「ん?」
「あの・・・私どうしても音程がついていかない所があって・・・ちょっと秘密の合同練習したいんですけど・・・いいですか・・・?」
「俺と・・・?」
「はい!!翼宿さんの高音あたしすっごい大好きなんでv」
鈴菜は、満面の笑みで返事をした
翼宿は鬼宿をちらっと見た
鬼宿はかわせかわせという合図を送っているが
「ねっ!いいでしょ~?翼宿さん!!同じボーカリスト同士!!」
鈴菜は翼宿の腕に絡みついた
「あーーーーーーーー!!」
鬼宿は弾みで叫び声をあげてしまった
スタッフは驚いて振り返る
「どうした!?鬼宿!!ゴキブリか!?ゴキブリなのか!?」
大の昆虫嫌いの夕城プロは悲鳴をあげた
「いや、ただのゲンゴロウですよ・・・」
次の瞬間、鈴菜と翼宿の姿はなかった
「やられた・・・」

「あれ?翼宿は?」
「秘密の合同練習・・・」
メイクを直してきた柳宿が楽屋に戻ると鬼宿の姿しかなかった
「お前の目をすり抜けて行動したぞ。鈴菜ちゃん・・・」
「嘘・・・」
「当分翼宿返さないつもりだぜ?」
「冗談じゃないわよ!!あたし連れ戻して・・・」
「待てよ!!それじゃお前が変な噂になるだろ!?」
そこではたと柳宿の動きが止まった
「・・・あのさぁ」
「ん?」
「どうしてたまがその・・・あたしの好きな人がとられたみたいな言い方する訳?」
「だって好きなんだろ?」
その一言にかぁっと赤くなった
「なっ何言ってんの!?今日のたまおかしい!!誰がっ・・・あんなデリカシー0野郎っ・・・」
「あっおい・・・」
ドッカン
「いったぁ~」
動揺しすぎて側の机の脚に思い切り足をぶつけた
「動揺が見えすぎだぞ」
「っ・・・」
どこまで勘がいいんだ
鬼宿は

翼宿が時計を見上げた
時刻はもう9時
結局、鈴菜の楽屋に翼宿は監禁(?)されてしまった
まぁ自分も鈴菜は嫌いではなかったし、この数日特に目立った動きもしていなかったので仕方なく少し練習に付き合うことにした
「翼宿さん・・・さっきから時計ばっか気にしてますね」
鈴菜が嫌味ったらしく問い掛けた
「いや、もうそろそろメンバー帰る頃やなぁ思ってな。俺、メンバー家まで送っとんねん」
「それって・・・柳宿さん・・・ですか・・・?」
「・・・まぁ」
翼宿は煙草に火をつけた
少し沈黙
「・・・あのっ」
「何や?」
「翼宿さんは・・・柳宿さんの事・・・どう思ってるんですか・・・?」
ぽかんと翼宿が鈴菜を見た
「何で」
「だって・・・凄く大事にしてるじゃないですか・・・ただのメンバーにしては・・・おかしいなって思って・・・」
翼宿は煙草の灰を灰皿に落として考え込んでいた
「う~ん・・・ホンマにアホな奴やあいつは。餓鬼でもあらへんのにピーピー騒ぎよって。こっちもなぁ面倒見疲れてるんや。これでも年上やからな。只・・・」
「・・・只?」
「ホンマはむっちゃえぇ子なんやで・・・Fanに対しても思いやりがあって優しくて・・・俺らの才能も大事にしとってこんな俺でも認めてくれとるんや・・・その度に自分は駄目だもっと成長しなきゃっていつも言うとった・・・生意気言うとってもホンマは寂しがり屋やからな・・・俺らが護ってやらなあかん思うとるんや・・・」
「あたしの・・・」
「ん?」

「あたしの方が・・・翼宿の事・・・よく知ってるもん・・・」


「ったく!!何なのよ!!あれだけ関わるなって言われておいて!!あり地獄にはまったありみたいな事して!!」
帰宅時間まで仕方なく待っていたが、痺れを切らして柳宿は鈴菜と翼宿がいるであろう楽屋へと向かっていた
案の定、楽屋の明かりはついていた
柳宿はため息をついた

「あたし・・・翼宿が好きなの!!」

その言葉に柳宿は楽屋のドアにかけた手を止めた
「ずっと・・・歌手も・・・あなたに憧れて・・・いつかあなたに会いたくて・・・ずっとずっと頑張って・・・やっとなれて・・・やっと会えた・・・
(嘘・・・)
ドアの隙間から2人が見える
鈴菜は翼宿に抱きついている
「あたしだけ見て・・・あたしの事を知って・・・」
翼宿は一瞬答えるのをためらっているように見えた
「鈴菜・・・俺は・・・」
そこで視線に気づき、振り返った
「柳宿・・・!!」
そこで柳宿も我に返った
「・・・ごめん・・・あたし・・・翼宿を・・・迎えに来て・・・」
声が震えていた
鈴菜はじっとこっちを睨んでいる
「ごめ・・・あたし・・・帰るね・・・」
そのまま、後ろを振り返らずに走り出した

胸が張り裂ける
こんなの初めてだった
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