Flying Stars

「空翔宿星」メジャーデビューシングル「向日葵」
11月6日発売
そのデビューは見事に成功し、オリコン初登場5位を記録した
店頭に並んだCDは即日完売し、予約も殺到してきている

「凄いよ3人とも!!会社にも問い合わせの電話が殺到してきてる!!」
「いえいえ!!夕城プロのお陰ですよv」
鬼宿と奎介は今や親友の様な付き合いになるほど仲良しだった
あれから3人のデビューをライブで観客に伝えたら、観客はもう大喜び
その反応に3人は改めて安堵し無事デビューを果たしたのだ
インディーズ時代にまぐれでシングル100万枚の売上を記録したが、まさかの二連覇快挙だった

コンコン
今後のスケジュールの見通しを立てていた3人の楽屋の扉をノックする音がした
「はい?」
柳宿が扉を開けた
そこには後輩の少女が3人分の花束を持って立っていた
「あのっ「空翔宿星」さんですよね!?」
「あっ!美朱じゃない!!」
美朱と呼ばれる少女は嬉しそうに頷いた
「おめでとうございます!!デビュー!!凄く楽しみにしてました!!」
「有難うvほら!!あたしの後輩の夕城美朱!!」
「あぁ!!前に俺が迎えに行った女の子か!!」
柳宿に気づかれたときよりもとても嬉しそうに美朱は鬼宿に向かって頷いた
翼宿だけは無関心だったけど
「あのっこれ!!ささやかですけどお祝いです!!」
美朱は色とりどりの花が束ねられた花束を柳宿に差し出した
「わざわざこれを?有難う!!」
柳宿は喜びと驚きでいっぱいだった
「今日はお兄ちゃんに送ってもらってきたので」
「そうだそうだ!!お兄さんに本当感謝してますって伝えてもらえる?」
鬼宿が翼宿の分の花束も一緒に受け取って笑いかけた
「はっはい!!必ず!!」
美朱は急に顔を真っ赤にして頷いた
「・・・あの今忙しかったですか・・・?」
「え?何で?」
「・・・少しだけ柳宿先輩とお話したいんです・・・」
「あたしと?」
「行って来いよ。ここは俺らで話し合いまとめておくから。なぁ翼宿」
「ん?あぁ」
煙草を相変わらず吹かしている翼宿はあっさり応えた
「あぁ。おおきにな。花束」
普段はクールな翼宿もファンへの感謝は忘れない
美朱はお辞儀をすると柳宿と共に楽屋を出て行った

会社の1階の喫茶店に柳宿と美朱は入った
「なぁに?あたしに話って」
「あのっあたしずっと言おうと思ってたんですけど中々言えなくて・・・」
「?何?」
急にもじもじし出した美朱にきょとんとした
「あのっ・・・鬼宿先輩って・・・彼女とか・・・いるんですか!?」
「えっ?」
「あっすみません!!あのっあたしっその・・・」
美朱は急に狂気乱舞し出した
そんな美朱に柳宿はくすっと笑った
「いないよ!今の所はね!!」
その言葉に美朱は一気に気が抜けたようだった
そんな美朱に向かって頬杖をつきながら笑った
「なっ何ですか?」
「へぇ~美朱がねぇvへぇ~」
「そんなっ恥ずかしいです!!」
「でもたまきっと美朱の事いい感じに見てるよv」
「そんな!!駄目です・・・私なんか・・・前のライブでも散々迷惑掛けちゃって・・・」

美朱が鬼宿に初めて出会ったのは空翔宿星の3ヶ月前のライヴの時だった
初めてのライヴ会場や人ごみに怯えていた美朱を心配していた柳宿に代わって鬼宿が迎えに行ったのだ
その頃から美朱はもう鬼宿の虜・・・
勿論、プロデューサーの奎介の妹だった美朱が奎介に良いバンドがあるとアピールしたのが、奎介が彼らに声をかけたきっかけでもあった

「大丈夫だよ。あたし応援するよ!!」
「あっ有難う御座います!!・・・あ。それともう一つご相談が・・・」
急に深刻になった美朱に柳宿は改めて聞く耳を持った
「ただいま~」
「お。遅かったな」
楽屋には鬼宿だけが残っていた
「あれ?翼宿は?」
「またそこら辺で一服してんじゃねぇの?」
「もう本当にあいつは一服が好きだよねぇ」
「だな」
そこで柳宿は鬼宿の前に座った
「・・・まぁ翼宿がいない方が話し易いのかな・・・」
「何だ?」
「あのね鬼宿・・・実は美朱にさっき相談を受けたの・・・美朱持病の発作があるって言ったよね・・・?」
「うん・・・」
「その事で悩んでて・・・5年間ずっと発作で悩んでていつ死ぬか分からないから怖いんだって・・・学校でも何でもあんまり他の子が笑ってるの見たくないんだって・・・でも今日はあたし達のデビューの為に無理して来たみたいなの・・・学校もあんまり来てないみたいだし・・・」
「・・・そっか」
「何とかさ・・・鬼宿から声・・・掛けてやってくんない・・・?」
「え・・・?俺が?」
「うん。ほら!!奎介プロとのご恩もあるしさ妹って事だしそれも兼ねて・・・」
「まぁ・・・ほっとけないよなぁ」
「それで今度の日曜日の夕方に美朱の家に行ってあげて欲しいのよ・・・普段は外に出ないみたいだから・・・」
「分かったよ」
「それでねあの子の好きな曲があるんだけど・・・」
何やらそれから翼宿が帰って来るまで2人で話し込んだ

日曜日
「夕城宅」に到着した
車から重いギターバックを引きずり出した
こんなの持つの久しぶりだなと思いながらもインターホンを鳴らした
『はい?』
「あっあのいつも御世話になってます。夕城奎介さんにプロデュースされた空翔宿星の鬼宿といいます」
『あらv鬼宿さんですか!?どうしました?今日は奎介は朝から出てて・・・』
「いえ・・・今日は美朱さんに用があって・・・美朱さんはいらっしゃいますか?」
『・・・あら、美朱に!?はい!!今いますよ!!どうぞあがってください』
少しして美朱の母親が玄関のドアを開けてお辞儀をした

コンコン
部屋のドアがノックされた
「美朱?今いい?鬼宿さんがお見えになったわよ?」
鬼宿のインディーズ時代の写真ばかり眺めていた美朱は慌てて机の上の写真をかき集めた
「えぇっ!?お母さんそれ冗談!!止めてよ!!」
「今日和。美朱ちゃん」
「たっ・・・鬼宿先輩!!??」
扉の向こうの声をしっかり確認した美朱は心臓が口から飛び出そうになった
(夢みたい。あの鬼宿先輩が・・・)
「あのっすみません!!私の部屋ちらかってて・・・あのっもう少々お待ちを!!」
すぐにあちこちに貼ってある鬼宿のポスターを剥がした

10分後
「いっいいですよ!!」
扉を開けると待ちきれなくて先に飲み物とお菓子を持ってきた母親とその隣に鬼宿が立って此方に笑いかけてくれた
「お邪魔します」
「どっどうぞ・・・」
「じゃごゆっくりしていってください!」
「有難う御座います」
母親がそそくさと部屋を出て行った
「ごめんね。突然押しかけちゃって・・・」
「いっいえ!!でもどうして・・・?」
「今日久々のオフでね。柳宿に君の事聞いて心配になって訪ねてみたんだよ」
(柳宿先輩が?)
「すっすみません!!ご心配・・・お掛けして・・・」
「いや。全然構わないけど・・・でも美朱ちゃん本当に病気の事について悩んでるんだなって思ったら放っておけなくなって・・・」
(鬼宿先輩が私の事心配してくれたの?)
もう悩み事なんて吹っ飛んじゃったよ
あなたが心配してくれたなら
でも
「毎日怖かったんです。でも今も怖い・・・最近不治の病で亡くなってる方凄く多いから・・・自分の病気も不治の病で明日には死んじゃうんじゃないかって・・・思ったらろくに眠れなくて・・・そんな時毎日「空翔宿星」のインディーズシングル聴いてました・・・翼宿先輩のボーカルも柳宿先輩のキーボードもとっても素敵だけど・・・何より鬼宿先輩のドラムが私に何か生きる希望を与えてくれる様な気がして・・・」
「俺の・・・ドラム?」
「はい!!」
「・・・そうなんだ・・・知らなかった・・・俺いつも陰でしか演奏してなかったから・・・」
「そんな事ありません!!鬼宿先輩のドラム私大好きです!!」
いつも笑顔で本当に楽しそうに演奏するあなたの姿
いつもいつも見てたから
「有難う」
笑顔でお礼言われると今なら死んでもいいって思えるんです
「・・・凄く不安な気持ち俺も分かるよ。でもやっぱり今は生きなきゃいけないよ美朱ちゃん・・・人生捨てたもんじゃないよ。辛い事もたくさんあるけど君が幸せだと思える瞬間がきっとある筈だよ。その瞬間を大切にして欲しい。その確かな瞬間だけでも信じて生き抜いて欲しい・・・」
何だか涙が溢れてきた
「俺も応援するから」
涙を拭って答えた
「・・・はい」
頭を撫でられた
私の幸せの瞬間って、あなたと同じ空気吸ってる事なんですよ
そう言ってあげたかった
「あ!!それでね美朱ちゃん。柳宿から聴いたんだ。君の好きな歌。それで俺が一曲歌ってあげようかと思って・・・」
横のギターボックスを取り出して蓋を開けた
「鬼宿先輩ってギターも弾くんですか!?」
「うん。中学の時ちょっとね。でも俺は高校に入ってからドラムの魅力に飲まれちゃってさ。ギターは途中で投げ出しちゃったんだ。まぁ俺には静かに弾くギターより楽しく叩くドラムの方が性に合ってたんだけどね」
じゃあ自分は、数多くの「空翔宿星」のファンの中でたった一人誰も知らなかった鬼宿を見れるんだ
「ごめん。久々だから下手かもしれないんだけどさ。それに俺「空翔宿星」の中で一番音痴なんだ」
「そうなんですか!?」
「昨日少し練習したんだけど・・・やっぱり音痴だった」
「全然構いません!!」
まさか先日柳宿に質問された自分の好きな曲がこんな形で聴ける事になるなんて・・・
ギターの弦を少し弾いて予行演習してから、鬼宿は息を吸い込んだ

『愛してるの響きだけで 強くなれる気がしたよ ささやかな喜びを 溢れるほど抱きしめて』
サビから始まって緩やかに流れるメロディに鬼宿の声と伴奏が重なった
不器用だったけど心が凄く篭もった歌声に涙が止め処なくあふれ出てきた
大好きな歌を大好きな人に歌ってもらえるなんて
一通り伴奏が終わって鬼宿は照れ笑いをした
「ごめんね。下手で・・・」
「全然・・・凄く素敵でした・・・」

素敵でした
今日のあなたは、今まで見たどんなあなたよりも
私の為だけに歌ってくれたあなたが何より素敵でした


「次のコラボレーションの話ですが・・・」
「あぁ。それならもう決めてあるよ」
マネージャーと夕城プロデューサーがミーティングをしていた
「愛内鈴菜さんとのコラボレーションでぜひ使って欲しい曲があるって愛内さん自身の推薦があったんだ」
「そうなんですか!!ぴったりじゃないですか彼女と!!」
「只・・・」
「只?」

「彼女、翼宿にかなりメロってるんですよねぇ」
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