Flying Stars

太陽の光に当たるのが恐かった私が、初めて貴方の笑顔に救われたんです

「空翔宿星」
今、巷を賑わせているバンド
夕城美朱が朱雀高校に入学してきてから、すぐにその話題は耳に飛び込んできた

何でも1年前から結成された地元バンド
元々大人気だったベースボーカルを筆頭に、
ドラムとキーボードで構成されている
その先輩が皆、この高校に在学しているらしい
そして

「み~あか~っ★」
「柳宿先輩!!」
そう。その中のキーボードを務めている柳宿は、自分の中学時代の吹奏楽部の先輩だった
「入学、おめでとう!!」
「ありがとうございます!!」
「でさ、早速なんだけど美朱も受験終わった事だし、あたし達のライヴに来ない!?」
柳宿がチケットをひらひらさせて誘う
「ライヴ!?あの「空翔宿星」のですか!?」
「そうそう!!久々にライヴハウスに穴が開いてさ~出させてもらえる事になったんだ!!」
「凄いですね!!・・・でも」
そこで、柳宿は空気を読んだ
「あ・・・もしかして・・・まだ体の調子・・・悪い・・・?」
「そう・・・なんですよね」
美朱には、生まれつき持病の発作があった
普段の生活に支障はないので普通の生活はしてもいいとの事だったが、極端な人ごみや激しい運動だけは避けろと医者に言われていたのだ
そのせいか、美朱は集団行動や行事ものにはすっかり弱い傾向になってしまっていた
「無理・・・しなくていいから!!けど・・・美朱には是非とも見てもらいたいと思ってたからさ・・・」
「私も・・・凄く行きたいです。本当は凄く凄く行きたいんですよ!!」
「ありがと・・・一応、チケット渡しておくから。親御さんとでもいいから、もし許可貰えたら・・・」
そう言って手渡された2枚のチケットを美朱は、ぎゅっと握り締めた
「ありがとうございます・・・本当、すみません」
「いいよいいよ!!気にしないで!!じゃあね!!」
美朱だって、本当は凄く「空翔宿星」の存在が気になっていた
他のメンバーの先輩を見てみたかったのもあるし、昔お世話になった柳宿の活躍する姿だって見てみたい
だけど・・・
親に許可なんてもらえるはずがない
美朱は、確信していた

ライヴ当日
その日は日曜日だった
美朱は、休日は部屋で過ごすか、たまに家族で出かけるかの生活を送っていた
その日は、生憎暇
美朱は、柳宿に貰ったチケットを頭上に掲げ、ベッドに寝転がっていた
(きっと・・・かっこいいんだろうなぁ。このチケットだって・・・欲しい子たくさんいるだろうに・・・柳宿先輩がわざわざ取り置きしてくれて・・・)
そう思うと申し訳なく感じてきた
時刻は、午後5時
開場は、午後6時
美朱はベッドから起き上がった

『押さないで~押さないで~整理番号順に並んでください~』
ライヴハウス前は、溢れ返る人でいっぱいだった
(嘘・・・こんなに人が・・・)
美朱は、唖然とした
今ならまだ引き返せる
しかし、ここまで来てしまったのだ
美朱は、意を決してその列に並んでみた

柳宿は、楽屋で心配そうに時計を見上げる
「どうした?柳宿。さっきから、時計ばっか気にして・・・」
「あ、たま・・・あのね、あたしの後輩の美朱って子を今日のライヴに誘ってみたんだけどさ。やっぱ、駄目だったかなって・・・その子、持病の発作抱えてて・・・人ごみ嫌ってたから、心配になって・・・」
「そう・・・なんだ。今日は、ただでさえ人の入りが多いって言うからな」
鬼宿もその話を聞いて、心配になりかけた
「もうすぐ開場やな・・・開場時が一番酷いんとちゃう?」
翼宿も心配して、声をかける
「どうしよ・・・もしもの事があったら・・・」
「柳宿。俺、連れてこようか?」
「え・・・?」
メンバー想いの鬼宿が、提案した
「たまが・・・って・・・何言ってるの?もし、ファンの子にばれたら・・・」
「大丈夫だよ。俺、翼宿と違って派手なナリしてないし、グラサンかけてきゃばっちりだろ!!大事なお客さんの具合悪くさせたら大変だし、リーダーの威厳だよ!!」
「たま・・・」
「てな訳で、ちょっくら行ってくるわ」
「おい、無茶すんなや」
「大丈夫だって♪」
胸ポケットからサングラスを取り出すと、鬼宿は外へ出た

その時、美朱は人の列に飲み込まれていた
引き返そうにも、もう後ろも長蛇の列で引き返せなかった
(どうしよう・・・気持ち悪くなってきた・・・やっぱり一人で来るんじゃなかったかな・・・それに・・・)
ライヴハウスというだけあって、周りは派手な格好の人間ばかり
更に鳥肌が立つ
(恐い・・・恐いよ。誰か・・・助けて・・・)

ガシッ

「・・・っ・・・!!!???」
誰かに腕を掴まれた
(まさか・・・痴漢・・・!?)
「やだ・・・離してくださいっ・・・」
美朱は、精一杯抵抗する
すると

「夕城・・・美朱ちゃん・・・?」

(え・・・?どうして、痴漢が私の名前を・・・?)
驚いて、相手を見上げると彼は口に人差し指をあて
「ちょっと・・・」
そう言って、人の輪から連れ出した

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
人の波から抜け出したせいか、美朱の肩は激しく上下に揺れている
「大丈夫か・・・?わざわざ、こんな体で・・・来てくれたんだね?」
そんな美朱に声をかける青年
「あの・・・あなたは・・・?」
その言葉に、青年はそっとサングラスを取る
「初めまして、美朱ちゃん。「空翔宿星」のドラマーの鬼宿です。柳宿が君の事を凄く心配してたから、迎えに来たんだ」
その言葉に、美朱は呆気に取られる
(来てくれたの・・・?ファンに見つかるかもしれないのに・・・見ず知らずの私を・・・)
「とりあえず、楽屋に来な?柳宿が待ってるよ」
そう言って、踵を返そうとする鬼宿に美朱は抱きついた
「っく・・・ひっく・・・うぅ・・・」
まだ会って間もない彼の胸を濡らして
「うん・・・恐かったね」
鬼宿は、そんな彼女の頭を優しく撫でていた

「美朱!!」
美朱の姿を見た途端、柳宿は飛びついた
「柳宿・・・せんぱぁい・・・」
「よかった・・・見つかって。ごめんね!!無理に誘ったりして・・・」
「いいんです。先輩・・・頑張ってください。あたし、見てるので!!」
美朱は、すっかりいつもの笑顔に戻っていた
そんな美朱の頭に、鬼宿は手を置いた
「てな訳で、スタッフと一緒に人ごみから離れて見た方がいいよ!!「空翔宿星」きっての特等席♪」
その鬼宿の笑顔を見て、美朱は胸がはちきれんばかりの想いに包まれた

間もなく開演
美朱は、スタッフ席に案内されていた
そこに出てきた「空翔宿星」
その姿・・・いやドラマーの姿を美朱はじっと見つめる
キャーーーーーーーーーーーー
演奏が始まる

その時、あなたは私を救ってくれました。
その零れんばかりの太陽の光で。
あの時から、何も恐いものなんてなくなったんです。
ありがとう・・・鬼宿先輩。
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