Flying Stars

「お兄ちゃん!!」
「おぉ。美朱。悪いな!!」
「どうしたんだよ?俺たちまで呼んで」
ツアー開演直前
夕城プロに急遽呼び出された妹の美朱と、居酒屋の店長と女将の奎宿と昴宿は何事かといった顔をした
「いや・・・。メンバーがさ、是非お前らにも見て欲しいって言うから」
「あたしも行きたかったんだけど・・・、お金がなかったのに、お兄ちゃん、お金大丈夫?」
3人の交通費は、全て夕城プロの負担だった
「大丈夫!!気にしない!!」
明らかに、顔は引きつっていたが・・・
(あいつらの最後に比べれば・・・、ちょろいもんだぜ)
その時
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明かりが消え、その場に歓声が沸き起こった
ステージには、あの3人が現れた
ドラマーの鬼宿
キーボードの柳宿
そして、ベースの翼宿

『こんばんは!!「空翔宿星」です!!』

鬼宿の挨拶で、一曲目が始まる
セットリストは、3時間を超える設定
メンバーの体力に合わせ、スタッフも一生懸命サポートした
MCは、いつも通り・・・笑顔で3人が行った
いつもと変わらなかった
そう。あの瞬間までは・・・

遂に、ツアーも終盤
会場のテンションも最高潮
ここで、翼宿のMCが入る
『みんな。今日は、ホンマにおおきに。こんな素晴らしいステージで、ファンと時間を過ごせるなんて、夢みたいです。ホンマにありがとう』
歓声が沸き起こる

『ここで・・・、みんなにお知らせがあります。
俺達「空翔宿星」は・・・、今日のこのライヴを持って・・・・・・・・・・・・・・、解散します』

その場にざわめきが起こった
「お兄ちゃん・・・!!これ・・・」
その場で見ていた美朱、奎宿、昴宿も唖然としていた
「最後まで・・・・・・・・・・、聞いてやってくれ」
固唾を飲んで見守る、「空翔宿星」の親

『正確に言えば・・・・、俺が抜けたいと言い出したんや。こっちの音楽会社の方からお声がかかりました。俺は・・・、メンバーやスタッフやファンのみんなには本当に申し訳ないと思ったんやが、やってみたかった。俺の音楽の幅を広げたいんや。どうか・・・、分かって欲しい』
ファンの誰もが何も言えなかった
勿論、鬼宿と柳宿も
(翼宿・・・)
柳宿も、今はファンと同じ立場で、その言葉に耳を傾けている
『これは、ホンマに俺の勝手やと思う。鬼宿や柳宿を応援してくれていたファンのみんなには、本当に酷や。どんなに罵られても、構わん。せやけど、俺は・・・、ホンマに楽しかった。この3年間。みんなで、歌って演奏して・・・、こんなに楽しいもんやとは思わんかった。最初・・・、俺は芸能界に入る事を極端に嫌がっていた。俺たちの音楽は、芸能界の為にある訳やないからや。せやけど、最終的に入ってよかったと思う。そのお陰で温かいスタッフやファンとの出会いがたくさんあったから。俺がここにおるんは、みんなのお陰やと思う。本当に・・・、ありがとう』
ファンの中からは、すすり泣きが聞こえた

『別にあたし、怒ってないよ。ただ、清々するよ。もう振り回されなくて済むから』

昨夜、翼宿に告げた言葉を思い出した

あたしは・・・、何を考えていたんだろう
結局、自分の事しか考えてないのは、あたしだったんだ
こいつは・・・、頂点と認められて・・・、幸せだって思ってた
だけど、本当は、あたし達の為にファンの為に、自分を責めて責め続けて・・・
それで、出した決断だったんだ
なのに、あたしは、そんな翼宿に何と言った・・・?
支えて励まして、応援してやれた・・・?

両の拳を握り締めると、その上に涙が伝って落ちた
(翼宿・・・。ごめんなさい)

『鬼宿。柳宿』

その言葉に、ハッと顔をあげる
『ホンマに・・・、お前らのお陰や。こんな俺と3年間・・・、一緒に演奏してきてくれてありがとう』

ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい

涙だけがボロボロと零れる
すると
「翼宿ー!!!頑張ってー!!!」
「応援してるよー!!!」
「世界をぶっ潰せー!!!」
たくさんのファンの声援

ねぇ
ファンの方が強いよね
優しいよね

そんな声援に、誰よりも感動していたのは柳宿だった

『それでは、最後に聞いてください』

翼宿は、笑顔だった
最後の曲が始まる


ツアーは、大歓声の中、終了した
いつまでも鳴り止まないコール
3回のアンコールを終え、ツアーは長丁場の4時間で幕を閉じた


「みんな、3年間本当にお疲れ様でした!!最高のグループ「空翔宿星」に巡り会えて・・・、俺は・・・、本当に・・・、幸せです・・・。だまぼめ・・・。だずぎ・・・。ぬりご・・・。ありがとう・・・」
「お兄ちゃん。ちょっと、鼻水拭いて」
「乾杯の音頭からそれは、ねぇだろ~」
笑い声が溢れる
屋外レストラン[Pafume]
そこで、「空翔宿星」の打ち上げが、行われた
美朱、奎宿、昴宿も参加した
「それでは・・・、メンバーより一言ずつ・・・、貰おうか」
夕城プロの指示により、まずはリーダーの鬼宿
「みんな・・・。本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。俺達がここまで来られたのも、本当に・・・、皆さんのお陰です。こんな頼りないリーダーについてきてくれたメンバーも、本当にありがとう。俺・・・、このバンドでドラム叩いた事、一生忘れません。これからも、ドラムと一生付き合っていくつもりです」
隣で、美朱は涙ぐんでいた
そして、柳宿
「本当に・・・、ありがとうございました。女で一人でやってこれたのも、メンバーやスタッフのお陰だと心から思っています。ここでのたくさんの出会いを大切にして、日本でも・・・、ピアノを続けていきたいと思っています」
上手く言葉が見つからない
今は、「空翔宿星」の存在にさえ、申し訳なさを感じているからだ
最後は、翼宿
「皆さん。本当に今までありがとうございました。ホンマに、皆さんの支えなしで、ここまで来られなかったと思います。声をかけてくださった夕城プロ。最後まで、俺たちを支えてくれて・・・、ホンマに感謝しています。俺が途中で、引き抜きで他のバンドに移った後でも、みんなは温かく俺を迎えてくれました。色んな事で、振り回してしまって、本当にすみませんでした。俺は・・・、今回、アメリカに残ります。英語も片言で不安で・・・、ホンマにいつ泣き言言うか分かりませんが・・・、俺には音楽があります。音楽が一生の親友です。この親友を信じて、こっちでも頑張っていこうと思います。たまに、日本に顔出した時には、相手してやってくれると嬉しいです」
翼宿の満面の笑顔
柳宿の大好きな笑顔だった・・・。

「では、皆さん、今夜は飲んで食って騒ぎましょう!!かんぱ~~~~~~~~~~~いvvv」

夜空に満天の星が瞬き、その夜空に向かって、皆は叫んだ


「あれ?翼宿は?」
夕城プロと鬼宿は、泥酔状態
そんな中、鬼宿が気づいた
「そういえば・・・、姿が見えないねぇ」
「また、一服なんじゃねぇの?」
奎宿と昴宿も、酒をせびられて、結構飲んでいたらしく、顔がほんのり紅潮していた
「柳宿先輩!!」
美朱に声をかけられた柳宿
「美朱・・・。わざわざ、ありがとね。体、何ともない?」
「大丈夫ですよv「空翔宿星」が、私の処方箋なんですからvそれより・・・、行ってあげたらどうですか?」
スタッフは、騒ぎに騒いでまったく気づいていないが
夕城プロ、鬼宿、奎宿、昴宿はこちらに温かい視線を向けている
「最後に一緒にいられるのは・・・、柳宿先輩だけなんですからね」
「行って来いよ。柳宿」
「そうだぞ。翼宿だって、お前以外と一緒にいたい訳ねぇんだからさ」
「後の事は、俺らに任せろって」
「みんな、あんた達の事、応援してるんだよ?」
そんな言葉に、涙が溢れた
「みんな・・・。ありがとう」
その瞬間、柳宿は走った
愛する人に、「ごめんなさい」を言う為に・・・。

翼宿は、レストランの展望台で煙草を吸っていた
みんなと過ごす最後の夜
明日から、自分一人で過ごしていくアメリカ
そんな景色に、少なからず寂しさは感じていた
そして、あいつの事・・・。
バタン
ふいに後ろのドアが開いた
「・・・柳宿?」
そこには肩で息を切らしている柳宿
「翼宿・・・」
その頬は、涙で濡れていた
途端に、地に手をついた

「ごめんなさい!!」

展望台中に響く大きな声で
「あたし・・・、メンバー失格だよね。あんたの事・・・、誰よりも想ってた筈なのに・・・、何も分かってなかった。嫉妬してたの・・・。翼宿には、大きな夢があって・・・、それがどんどん翼宿を引き込んでいく・・・。そんな翼宿の後姿を見ているのが・・・、嫌だった。寂しかったの。だから・・・、だから、あたし・・・」
そんな柳宿の肩に手が置かれた
見上げると、優しい翼宿の笑顔
「お前は、何も悪くない。俺かて・・・、昨日お前にあんな風に言われなきゃ・・・、ホンマの感謝を・・・、メンバーやファンに伝えられんかった。気づけへんかった。お前が、俺に教えてくれたんや。おおきに」
何、言ってるの?
あたしは、こいつをたくさん傷つけたくせに
「そして、ホンマにすまんな。何度も何度も、お前に悲しい思いをさせてしもてた事を・・・。許して欲しい」
柳宿は、小さく首を振った
「結局・・・、あたしは、翼宿に支えられて生きてきたんだよ。だから・・・、一人じゃ何も出来なかった」
「お前は、誰よりも強い女やないか。俺がおらんでも、お前はやってける」
涙が溢れる
お別れなんだ
明日で、お別れ・・・
嫌だ
離れたくない

「あたし・・・、今夜は・・・、翼宿と・・・、過ごしたいよ」

その言葉に、翼宿は驚く
『最後に一緒にいられるのは・・・、柳宿先輩だけなんですからね』

「俺もや」

「え?」
「今夜は、お前の話一晩中・・・、聞いてやりたい思うてた」
そう言って、笑う翼宿

最後まで、我侭なあたしを許してください
だけど、それくらいあたしは、あんたを・・・愛してる

翼宿と過ごす最後の夜
22/26ページ
スキ