Flying Stars

『その時は、応援するしかないわよ。しょうがないじゃない?』
自ら愛瞳に言い聞かせたその言葉
なのに・・・、全然駄目じゃない
あいつは、恋愛より仕事優先

だけど、あたしの夢は・・・?


うっすらと目を開ける
「柳宿」
横には、鬼宿
「たま・・・」
「大丈夫か?」
「うん。逆上せちゃったかな・・・」
へへへと活気なく笑う
「柳宿・・・。俺、お前の気持ち思うと、胸痛くてたまんねぇけどさ・・・。俺たちが応援してあげなきゃ、いけないんじゃねぇかって・・・、思うんだよ」
その言葉で、現実を知った
「・・・・・・・・・・・・・たまは、お人好しだね」
「え?」
「親友思い?いいなぁ。そういう奴。翼宿も幸せだよね」
「柳宿・・・?」
「翼宿・・・。自己中だよ・・・勝手すぎる」
いつもいつも、翼宿を慕っていた柳宿の口から出た本音
でも、もう止まらない
「あたし達の事、振り回しすぎ。あたしは・・・、もう疲れたよ。この前の事だってそう。あたし達の事、何だと思ってんの?自分はいいじゃない?あちこちからお声がかかって、その気になればすぐに全米デビュー出来る。その度に、あたし達はお荷物な訳?一番、困ってるのあたし達に対してでしょ?邪魔なら、邪魔って言ってくれれば・・・」
鬼宿には、かける言葉が見つからなかった
自分だって、本音を言えばきっとそう
だけど、それだけ翼宿が好きだから。応援しているから。
柳宿だって、そう思っている筈なのに・・・
「しかも、昼間にさ。あたしの夢、聞いてきたのよ?あたしは・・・、3人でビッグになりたいって言ったの。それすらも、聞き逃げ?ふざけんじゃないわよ。いいじゃない。もう勝手にどっか行けば?」

「じゃあ・・・、解散でもいいんだな?」

その言葉に、柳宿の言葉は止まった
「お前が目覚ますまで、俺がリーダーとして考えた事だ。一人でも欠けたら、「空翔宿星」じゃないからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・いいんじゃない?」
柳宿の頭を、鬼宿がそっと撫でる
「お前の言いたいこと・・・、まったく分からない訳じゃないよ。だけど・・・、翼宿の気持ちも考えてやってくれよ。お前が・・・、一番よく分かってる事なんじゃねぇか?」
分かってる
分かってるつもりだった
「もう・・・、顔も見たくない・・・・・・・・・・・・・・・」
その語尾は、微かに震えていて
必死に涙を堪えてシーツを握った

「そう・・・か」
柳宿が倒れたと聞き、酒がすっかり抜け切った夕城プロは、隣の部屋で翼宿から事の次第を聞いたところだった
「・・・勝手で、ホンマにすんません」
「いいんだよ。翼宿。柳宿には・・・、少々酷だったかもしれないが」
「・・・・・・・・・・」
「すまない。鬼宿から、柳宿の気持ちは聞いていた」
「そうですか・・・」
「確かに・・・、マイケルは君に目をつけていたからなぁ。いずれは声がかかるんじゃないかとは、思っていた。うちの会社の社長も、お前の事をソロで抜きたいと何度も言ってたんだよ。他のメンバーには冷たかったけどさ」
「・・・・・・・・・・」
「だけど、翼宿。お前の歌声が世界的に認められたんだよ。もっと、自信を持っていい筈だ」
「・・・柳宿には・・・、明日言うつもりでした」
「そっか・・・」
「あいつが、誰よりも張り切ってたし、せっかくこの前の騒ぎから解放されて、あいつも疲れとる筈なんで」
この前の引き抜きの件もそうだった
彼女には、最初に知らせたくはなかった
自分が彼女を「空翔宿星」に入れたのだから
「・・・きっと、柳宿だって分かってくれるさ」
「・・・・・・・はい」
「時間はかかるかもしれないがな。それこそ、お前がここに残ってからも、あいつは日本でその孤独と戦わなきゃいけない」
「・・・・・・・・・・・」
「だからこそ、柳宿の気持ち・・・分かるか?」
「はい」
「あいつだって、理性に敵わないところはある。翼宿の夢を純粋に応援したくても、応援出来ない面もあるんだぞ」
これは、自分一人の問題ではない
背中を押してくれるあいつらがいたからこそ、自分はここまで来れたのだ
「・・・あいつに許可貰うまでは・・・、これは決められません」
「別にお前達がよかったら、お前達だけここに残って・・・、柳宿の決断待ったっていいんだぞ?」
帰国日は、明後日
ツアーが終わってすぐだった
まぁ、解散ともなれば、日本での活動も休止になる訳だし・・・と、夕城プロは良心的にそう提案した
「せやけど・・・、迷惑はかけられません。予定通り、あいつらには帰ってもらって・・・、あいつから直接連絡来るまで・・・、こっちでの活動はしないつもりですから」
それは、彼なりのけじめ
何年何十年かかろうと、待つしかないのだ

「翼宿」
「すまんかったな。たま」
話し合いを終えて、翼宿は自室へ戻った
「ああ・・・。柳宿、一度起きたよ。今は、眠ってるけど・・・、体調には問題ないと思う」
「さよか・・・」
「なぁ。翼宿?」
「何や」
「あいつから・・・、何言われても・・・、落ち込むんじゃねぇぞ?」
「・・・・・・・・」
「今・・・、相当感情的になってる。聞き流してやれ。あいつ・・・、きっと本音は・・・」
「分かっとる。すまんな。心配かけて」
本当は、鬼宿だって親友との別れが辛い筈だ
肩をポンと叩くと
「明日のツアー、頑張ろうな」
笑顔を見せた

パタン
静かに扉を閉める
部屋は真っ暗だった
「翼宿」
その時、声をかけられた
相手は、背を向けている
「何や」
「・・・よかったね。声・・・かけてもらえて」
「・・・・・・・・・・」
「別にあたし、怒ってないよ。ただ、清々するよ。もう振り回されなくて済むから」
相手は、何も言ってこない
「たまがね、解散だって。明日で解散。しょうがないよねぇ?だって、翼宿が抜けちゃうんだもん」
嫌みったらしい口調
「楽しかったよ。3年だけだけど、またピアノ弾けて。色々、経験出来たしね。今まで、どうもありがとう」
感謝がこもらない口調
まだ、相手は何も言ってこない
「あたしさぁ・・・、女優やっちゃおうかなぁ?まだ、今からでも遅くないよね。まだまだ若いんだしさ!!」
それは「空翔宿星」に入る前に、柳宿が嫌がっていた職業
自分を曲げる発言になる
それでも、翼宿は何も言えなかった
「こっちで・・・、頑張ってね。おやすみなさい。もう寝る」
涙で頬がぐしゃぐしゃだったけど、平静を装うしか、今の自分には出来なかった
(自分、最低・・・)

翌朝
目を覚ますと、翼宿はいなかった
荷物も綺麗に片付けられている
♪♪♪
「もしもし?」
携帯に出る
『おぉ。柳宿!起きたか?そろそろ、支度しろ!ロビーで、待ってるぞ!』
夕城プロの陽気な声だった
まるで、昨日までの事が嘘だったように
「すみません・・・。今、行きます!!」

下に降りると、スタッフやメンバーがいた
勿論、翼宿も
「おう。柳宿、おはよう!!寝すぎだぞ~?しっかり、今日のテンションについてけんのかよ?」
鬼宿が、からかうようにどつく
「うっさいわね・・・。大丈夫よ!!ばっちり!!」
柳宿は、笑顔を見せた
いつも通りの・・・
「よぉし!!今から、会場に向かうぞ!!!終わったら、綺麗な夜景の見える屋外のレストランで、打ち上げだぁ!!!」
夕城プロの叫びに、皆から歓声が上がる
翼宿と目が合う
「おはよう。翼宿」
笑顔を見せる
「はよ」
そちらも、普段の笑顔
本番が始まるんだ
切り替えなければ

17:00 開場
日本のファン、世界のファンが入り混じって世界一大きなドームを潜る
このファンは、今夜告げられる悲しい宣告をまだ知らない

「柳宿!!頑張ってね!!」
「ありがとう、愛瞳!!」
スタッフは、精一杯メンバーに声をかける
衣装も今までにない豪華なものだった
「よし!!みんな、派手に決めてこいよ!!」
ステージ袖で、夕城プロが声をかける
これが、最後の掛け声だ

鬼宿と柳宿が手を繋ぐ
「分かってるか?集中だぞ。柳宿」
「分かってるわよ!!」
笑顔を向ける
そして
柳宿は、自ら翼宿の手を握った
いつもの笑顔で
「がんばろ?」
「ああ」
翼宿は、しっかりとその手を握った

3人は、明るいスポットライトの光をいっぱい浴び
今、最後のステージが幕を開ける
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